第47話 22ロングライフル弾
「まあ、見本はこれくらいにしてだ。神前!お手本どおりに撃ってみろや」
嵯峨はそう言うとターゲットを指さした。
誠は仕方ないという調子で、手にした銃の弾が薬室に入っているのを確認すると狙いを定めた。
『とりあえず、ダブルタップで……』
などと考えて誠は引き金を引いた。
誠の掌を襲う反動、そして抑えきれずに反射で人差し指は引き金を二回引く。とんでもない方向に弾が飛んでいくのがわかる。
もう一度仕切りなおす。
初弾はとりあえず的の中に入るが、二発目の反動のコントロールが効かない。
養成所での訓練の時も、拳銃射撃だけは最低レベルで、何度となく居残りをさせられたが、まったく効果がなかったのがいまさらながら思い出された。
「やめろ、やめろ。弾の無駄だ」
呆れたようにマリアがそう言った。
「9ミリパラベラム弾程度で何馬鹿なことやってんだ?アタシのXDMー40は弾はS&W40で反動はそれなりにあるんだぞ?それとカウラのSIG226も9パラで反動は同じだってえのに……。まじめにやる気ないだろ?」
かなめがそういって下卑た笑いを浮かべる。比べるほうが間違っているんだ、卑屈な感情が誠の心の中を支配する。
「そこで、こいつ撃ってみな」
嵯峨はそう言うと、もう一丁置かれていた銀色の小口径の拳銃を誠に手渡した。
「ずいぶんとクラッシックな銃ですね」
誠は手の中で見た目の割には重く感じる銀色の銃をもてあそんだ。
「まあ六百年以上前に作られた銃だからな」
そう言うと嵯峨は感心したように誠の手の中の銃を眺める。
「貫通力重視で小口径なんですか?」
そのまま誠はオープンサイトでターゲットを狙ってみる。
「うんにゃ、それはモグラとか地ねずみとか駆除するための銃だから……子供用の的当てにも使えるなあ」
そう言うと嵯峨は銃を構えている誠を眺めて表情の変化を観察する。
「………」
誠は二の句が継げなかった。
銃撃戦、特に室内での犯罪組織への突入作戦と言っても、多くの場合、組織犯罪者ならボディーアーマーやヘルメットで身を固めているのが普通だ。その相手にモグラ退治の銃で挑めというのか?誠はそう思うと手の中のステンレス製の銃を眺めてみる。
自殺行為だ。
誠は恨みがましい目で嵯峨のほうを見やる。そんな視線を無視するように嵯峨はタバコに火をつけながら別に気にする風でもなく話を続けた。
「結構手がかかったんだぜ、そいつは。チャンバー周りがガタガタだったから、全部隣の工場に部品発注したんだけど、ボルトのすり合わせがイマイチだったから全部ばらして組みなおして、さっきようやく完成したんだ。さあ、撃ってみろよ」
そう言って嵯峨はこれ以上無い良い笑顔を浮かべる。もう逃げ場は無いらしい。観念すると誠は銃口をターゲットのほうに向けた。
パスン。実に軽い音が響く。反動も銃の重さゆえに殆ど無い。
「伊達にブルバレルで、フロントヘビーになってるわけじゃねえんだよ。続けな」
嵯峨の言葉を聞きながら誠は射撃を続けた。
ダブルタップ、トリプルタップ。そして利き手でない右手での射撃。どれも正確とはいえないまでも、誠の撃った弾丸はマンターゲットの中には納まった。
「やりましたよ!」
そう言って嬉しそうに振り向く誠を、明らかに冷めた視線のかなめとカウラが見つめていた。
「やっぱオメエ道場に帰れ」
かなめがそう言うと、タバコに火をともした。ムッとして誠はそちらのほうを睨み付けた。
「だってそうだろ?22口径ロングライフル弾。幼稚園のガキでも缶コーラの缶に当てるぞ。それが一応とは言え軍人がマンターゲットに当たったからって、いい気になってるのは感心しねえよ。それに……」
かなめの言葉を聞いて嵯峨が立ち上がった。
「いいじゃん。こいつがピンチの時はオメエ達が何とかすりゃあいい」
別に当然と言うように、嵯峨はタバコをくゆらせ続ける。
「西園寺の言うことにも一理あります。第一、いつも彼をカバーできる自信は正直ありません」
カウラはそう言うと銃をテーブルに叩きつけた。
「ベルガー……まあ……困ったもんだね」
明らかに不愉快そうなカウラを見つめつつ、嵯峨は苦笑いを浮かべながらつぶやいた。
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