レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本直
第一部 「覚醒」
第一章 配属先は独立愚連隊?
第1話 配属……なんですけど……
「降ります!待ってください!降りまーす!」
叫びながら、神前誠(しんぜんまこと)は空いた席に置いたキャリーバックを左手で引っ掴んで立ち上がった。
菱川重工業(ひしかわじゅうこうぎょう)工場内巡回バス。客のいないがらんとしたバスの車内で、それをいいことに鼻歌を歌いながら次々と停留所を通過していた運転手が仕方なくバスを止める。
「へっへへ……すいません」
誠は愛想笑いを浮かべながら運転手に頭を下げる。
「もうちょっと前もって言ってもらわないと……ああ、あそこの連中か。じゃあ仕方ない」
運転手は誠の着ている制服を一瞥した後、分かったというように誠から目を反らすと扉を開いた。
「どうも……」
その長身を折り曲げるようにして、誠は何度も頭を下げながらバスから降りた。初夏の残酷な熱気が、それまでのバスの中のエアコンの冷気を一気に吹き飛ばした。誠は全身の毛穴から汗が噴き出すのを感じながら、バスが去っていくのを見送った。
「これで一つ乗り越したら大変なことになるな……」
地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州(りょうしゅう)』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。その首都の『東都(とうと)』から西へ50kmと言う、菱川重工業豊川工場(ひしかわじゅうこうとよかわこうじょう)の広大な敷地の中に誠はいた。去っていくバスが小さくなって見えなくなるまで見送りながら、自分がとんでもない僻地に来てしまったらしいことに誠は気づいた。
『……とんでもないところに来ちゃったみたいだな』
誠は心の中でそうつぶやいて自分の不運を嘆いた。
誠は東和共和国で私立の理系の単科大学としては最高峰とされる『東都理科大学』の出身だった。
ただ、機械、特にロボット工学に興味があって機械工学を専攻したものの、授業はついていくのがやっとで、実験では足を引っ張ることばかりだった。上には上がいる。それを理解するのが、大学生活と言うものだった。かといって誠は、『大学はしょせん就職のための履歴の一つ』と割り切るほどドライな質でもなかった。
そんなわけで卒業年度の昨年は周りに流されるまま中途半端な気持ちで就職活動をしていて、夏が過ぎても内定が一つも取れないでいた。
そんな彼を『ロボットを扱い、しかもうまくいけばそのパイロットになれる』。そう口八丁でうまいこと東和共和国国防軍に誘った人物がいた。
誠の実家である『神前一刀流剣道場』の師範代、今、向かおうとしている遼州同盟司法局実働部隊隊長である嵯峨惟基(さがこれもと)特務大佐こそがその張本人だった。
そのとぼけた面(つら)を思い出すと、誠は今なら呪いの言葉の一つも吐きたくなる。
この半世紀、ロボット兵器である『アサルト・モジュール』の運用開発技術は劇的な進化を遂げていた。オタク系の趣味のある誠は東和軍がその先端を走っていることも、その技術者やパイロットが軍では著しく不足していることも知っていた。
誠は嵯峨の言うままに軍に入隊した。
軍隊モノ映画になるほどでは無いマイルドなシゴキと、人間の限界に挑戦するような肉体改造の一年半を終えた誠は、幹部候補生として初めての任地である菱川重工豊川工場内の遼州同盟司法局実働部隊駐屯地へと向かっていた。
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