同性愛
孝子が聞く。
「宗則とはどうなのよ?」思わず飲んでいた発泡酒を吹き出す。唐突な質問に面食らった私が答える「どうもこうもないよ! アタシそういうのは全然興味ないから!」
「じゃあ、どういうのなら興味があるのよー」と酔っぱらい女が私の首に腕を絡めてくる。そのまま押し倒されてキスされそうになる。軽い身体が押し返せない。
力を振り絞って「ちょっとっ!」と叫びながら押し返したのは孝子ではなく、私に乗っかっていた熟睡した宗則の両足だった。寝相……。
うー、寝起き最悪。変な夢はユキが置いて行ったBL本のせいだろう。今回珍しく最後まで起きていたのに、二人の顔に落書きをしないまま、孝子が昼間読んでいた同人誌を読み耽ってそのまま寝てしまった。
もしかしたら私にそういう願望があるのだろうか。フロイトがこの場にいたら抑圧された性衝動の所為にされてしまう、それが例えどんな夢だろうと。
しかしせっかく孝子に落書きできる千載一遇のチャンスをふいにしてしまったのは大きい。今からやるのはダメだし。
代々バイクサークルに伝わっているこの下らないいたずらにも暗黙の了解的なルールがある。朝起きてからのいたずらはなし、使うのは水性サイペンの黒のみ。
それにしても昨日の作業進捗は上々だ。これで走るだけなら可能になった。あとはウインカーとカウル補修、エンジンの回転痕も何とかしたい。ここからはスパナ作業ではなく、プラモデルのようなヤスリやパテの作業がメインになる。また部室に行って使えそうな材料を探してこよう。補修用のパテぐらいはあるはずだ。
そんなことを考えながらベランダで一服していると宗則が起きてきた。顔を覗かせて「何かつくろうか?」と聞かれたので「ペペロンチーノ!」と即答する。宗則の作るペペロンチーノは絶品なのだ。一人暮らしなので当たり前と言えば当たり前だけど、宗則はある程度は料理できる系の男子。すごいのは、めんどくさがらない、苦に感じていないところで、変にうんちくばかり知っていてもめんどくさがって何もやろうとしない自称料理好きよりは余程好感が持てる。
これは実家暮らしの男に多いんだけど、人が料理をしている時にああだこうだと違うやり方を勧めてくる奴がいる。私は直接言われたことはないんだけど、バーベキューなんかで女子にそういうアピールをする男がいた。言われていた子は、女子的〝さしすせそ返し〟をしていて感心した。私には無理だ。自分でやれよって思っちゃう。
キッチンに立つ宗則に聞かれるたびに調味料やフライパンの場所を伝える。そのやりとりの声で目を覚ましたのだろう、お湯が沸くころに孝子も一服をしにベランダに来た。
「おはよ」と声をかける。
「いやー、変な夢見たよ。宗則とヒロシがさー」そのあたりで思わず「やめて!」と声を張り上げる。お互いに無言のまま、孝子のタバコが燃え尽きる頃、ペペロンチーノの完成を告げる声が聞こえてきた。
宗則と孝子は小さいちゃぶ台で、私はパソコンデスクのキーボードをどかして。「いただきます」と一斉に声に出す。
スパゲティーをクルクル巻くのがもどかしい私は適当にすくえる程度に巻き付けたらそのまま一気に口に運ぶ。
「んマイ!」思わず声が出る。イタリアンびいきの孝子も納得の表情。私はいつも最初の一口から半分くらいまではそのままの味を楽しみ、途中から粉チーズをたっぷりかけて楽しむ。
あまりにも美味しいから、以前宗則に作り方のコツを聞いたことがある。本当は、隠し味にコンソメをたっぷり入れて茹でるのがおススメらしいんだけど、そんなに大量に使うのはもったいないので、最後の工程で濃い目に溶かしたコンソメスープを絡めながら炒めて仕上げてるそうだ。
私的には目から鱗だったけど、ペペロンチーノの隠し味にコンソメを使うのはそんなに珍しいことではないらしく、宗則が昔ファミレスのバイトをしていた時に厨房担当の先輩に教えてもらった割とメジャーな隠し味らしい。宗則は他にもオイスターソースで仕上げた中華風なペペロンチーノを作ってくれたこともあり、こちらもなかなか美味しかったのだが、粉チーズと合わせて食べるなら断然コンソメだ。これは孝子から聞いたんだけど、一般的にチーズはどんなパスタにも合うけど、海鮮系だけは合いにくいのだとか。その話を聞いた時はオイスターソースも海鮮系なので妙に納得した。
今日はNSRの乗り味の感想や、孝子のフロントブレーキカスタムの話を聞いたりしながらゆったりと食事をして解散となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます