犬のフンとスニーカー

QAZ

第一話、そして最終話

 今日は愛の告白の日。あなたを呼び出して、わたしは公園で待つ。誰にも見られたくないから、時間は夜中にした。もしかしたら、変な女だって思われたかもしれなかったけれど、あなたは来てくれた。


わたし「...来てくれて嬉しいわ。」


あなた「うん、どうしたの?急に...こんな夜中に呼び出すなんて。」


わたし「愛の告白をしようと思って。もしかしたら驚いたかもしれないけど、今からわたしの気持ちを伝えるから、すこし長くなるけど聞いてくれるかしら?」


 あなた「...わかった」


わたし「わたしがあなたのことを好きになったのはそう、わたしとあなたが初めて出会った日。まだ2人が幼稚園児だった頃の話よ。わたしが公園で走り回って転んでしまった時あなたはわたしに優しくしてくれたわよね。そんな、簡単な話。」


 わたしはクルッと回って、あなたを見つめ直す。スカートの端が、ヒラヒラと宙を舞う。


わたし「でも、それだけじゃ、な・い・の・よ・?」


 あなたの澄んだ瞳を見つめながらウインクする。あなたは少し頬を赤らめながら、わたしから目を逸らす。


わたし「ねえ、どんなに綺麗なものも、一度汚れたら汚いものになると思わない?真っ白で綺麗なスニーカーだって、買ったばかりでも、一度も履いていなくたって、犬のフンを踏んでしまったら、例え洗ったところでフンの付いたスニーカーになってしまうわ。物質的にはもうフンはついてないって言うのにね。そんなスニーカーは誰だって履きたくないわ。わたしもそう。だからあなたがフンが付いたスニーカーになるのか、真っ白なスニーカーのままでいてくれるのか、時間をかけて見極めることにした。あなたはそんなわたしの期待に応えてくれて、今日まで誰からも告白されず、誰にも告白せず、誰とも恋愛せず、誰とも不純なこともせず、ただただ平穏な日々を過ごしてくれていたわ。もちろんあなただけでなく、わたしもあなたに適う女性にならなければならないわよね。もしわたしが絶世の美女だったとしても豚便所の豚として飼われていたことがあったりしたら誰だって触れるのすら嫌だもの。だからわたしもあなたと同じように誰にも告白されないように、誰にも告白せず、誰とも恋愛せず、誰とも不純なこともせず、ただただあなたを見つめて平穏な日々を過ごしていたわ。ああっ、今日のこの日を待つのがどんなに長かったことか!あなたにはわかるかしら?あなたがそんなふうに頬を赤らめて、目の奥で喜びをかくしきれていないような表情を浮かべながらも、恥ずかしげにわたしから目を逸らしている様を見つめながら、今日のこの話をする日を待ち続けたわたしの気持ち!ああっ、でもっ、かまわないのよ、これはわたしが勝手にやったこと、あなたが今日のわたしのこの愛の告白を喜んで受け入れてくれるだけで、わたしは今日までの人生で最高に幸福な日を迎えるのよ!もちろん、わたしと付き合うことに何も心配要らないわ。あなたもわたしも純白。混ざり合っても、白は白のまま。あなたがわたしを、わたしがあなたを汚したくならない限り、わたしたちは永遠に、永久に、"しがふたりをわかつまで"わたしたちは綺麗なままよ。こんな関係に一度でもなることができるって、きっとこれは奇跡か、魔法、運命ってやつに違いないわ!クラスでは目立たないようにしていたけれど、他人には勝るとも劣らない見た目とスタイル、頭脳だと思うわよ?ま、まあ...自分で言うのは少し恥ずかしいけれど...。もちろん料理も家事も完璧だし、あなたがもし主夫になりたかったらきゃりあうーまんにだってなるわ!だから...そう、わたしと、ね...。


...あっ、いけないわ。


一つ思い出したの。私が小さい時からの夢。聞いてくれる?もし、嫌だったら断っても良いから...。わたしが愛の告白をしたらね...それでね...あなたがわたしの気持ちに答えてくれる気になったらね...あなたがわたしを抱きしめて...それでね...愛の言葉を耳元でね...」


 言い終わる前に、あなたがわたしを優しく抱きしめてくれる。静かな公園の中、あなたの鼓動が大きくなっていくのが分かる。あなたもわたしも言葉を失って、しばらくの間、2人の鼓動だけが聞こえてきた。


あなた&わたし「あのっ...」


あなた&わたし「あっ...いや...」


 二人とも、頭に思い浮かべていることは同じに違いなかった。

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