第4話 昇る者と沈む者 そして忘れられし者
「ナズナの召喚獣にも思わぬ特技があったもんだな」
「ボクもついさっきまで知らなかったよ」
「おかげでツキミソウが手に入って良かったわ」
貴重な魔力草が予想外に多く採れた事で気持ちが高揚しており、長時間に及んだ訓練の割にメンバーの足取りは軽かった。ただ足元の一匹を除いて。
森の外に戻って来たナズナたちは、意気揚々と査定待ちの列へと向かっていた。
「わっ!?」
「どけどけ、俺たちが先だ。どうせたいしたもん獲ってきてねーんだろ? それとも持ち帰ったのはそこの――自分の足で歩く大きなお荷物だけか?」
列に並ぼうとした寸前、リーバスは突き飛ばされてしまった。
犯人のマルコムは悪びれもせず、尻餅を着いたリーバス、それからナズナへと侮蔑の目を向けると、嫌味ったらしく鼻先で笑ってみせた。
その後ろではマルコムのパーティーメンバーが、木に吊るされた猪を得意気に担いで嘲笑を浮かべている。
「いってーなぁ、マルコムの野郎っ」
「毒草、やっぱり使うしかないようね」
「落ち着いて、リーバス。メグさんも……えっと、冗談、ですよね?」
「当たり前でしょ。私をどんな人間だと思ってるのよ」
「いや、おまえ今、目がマジだったぞメグ」
そんないざこざからそう時間も掛からずマルコムたちの査定が始まったのだが、その査定をする教師陣の表情が曇るのにも時間は掛からなかった。
「ん~、損傷が激しくて毛皮はダメだな。なんだおまえら、血抜きも腸抜きもしなかったのか? これじゃあ、肉もダメだ。野営する時に備えて教えただろうが」
「これでは査定額から武器や防具の修理費用などを差し引くとマイナスですよ。もちろん評価は無しです」
「評価無し!? そ、そうだ、先生まだこれがありますっ、これを査定して下さい!」
ついさっきまで自信満々だったマルコムは表情を一変させ、焦った様子で薬草らしき物を差し出した。
「ほぉ、これは見事な……どこでこれを?」
「えっと、その、森の奥の方です」
「どこの
「え? でも、リストに」
「情報収集と分析は、大切な事前準備だと教えた筈です。自分たちの力量を見極めた上で、成果を上げるにはどうすべきか考える。そこからこの訓練は始まっているのです。努力の方向を間違えましたね、あなたがたの評価はマイナスです」
「まっ、マイナス? そんな……」
下された評価に絶句したマルコムは、呆然とした面持ちで力なく地面に膝をついてしまう。
それまで後ろで控えていたパーティーメンバーの二人が、そんなマルコムを突き飛ばす様にして教師陣に
「待って下さい、先生! 俺は関係ありません! それはマルコムが勝手にやった事です」
「俺もです! 俺もそんな薬草の事は全く知りませんでした!」
「何を……おまえらっ」
その項垂れた後ろ姿には、さすがに哀れみを覚える者も少なからずいたのだが。
「くそっ、こんな筈じゃ……」
そう吐き捨てたマルコムは、怒りをぶつける様に地面を睨み付けていた。
「あいつら、お貴族様だから家に報告されるんだろうな」
「何? リーバスあんた、同情してるの? ま、これ以上は可哀想だから、私も毒草は使わないであげるわ」
「メグさん、やっぱり本気だったんだ」
「ちょっとだけよ? それより私たちの番よ」
ナズナたちの順番となったが、マルコムたちの時と違って教師陣の反応はすこぶる良い。
「うんうん、血抜きも腸抜きもしっかり出来てるな。それにこの冷たさは……魔法で冷やし続けたのか。保存方法も工夫していて文句なしだ」
「これだけのツキミソウ、よく見つけられましたね。しかも根っこを切らずに周りの土ごと丁寧に掘り出してある。ツキミソウは月の光を浴びた時に花を咲かせ、その時に魔力を錬成します。従ってこの採取方法が最良なのです。お見事、良く勉強していますね。これなら査定額は期待して良いですよ」
教師陣から賛辞を送られ、周りにいた生徒たちからも拍手が湧き起こった。
三人は嬉しそうに顔を見合わせて喜びを分かち合う。
「やったな! やっぱりツキミソウの評価が高かったな」
「やったわね! ナズナが採取方法を知っててくれたのが大きかったわ」
「ボクだけじゃないよ。リーバスの仕事も、メグさんの魔法を使った工夫も褒められてたよ! ってメグさん、今、ナズナって……」
「な、なによ……嫌なの?」
「嫌じゃないです! その、ボクも……」
「これからはナズナも、私をメグって呼びなさいよね。それと、敬語も禁止」
「うん! ありがとう。これからもよろしくね、メグ」
「もっ、もちろんよ、ナズナ」
こうして三人は、初めての実地訓練を最高の形で終える事が出来た。
ただその陰で、本来は最高殊勲者である筈のギンタだけは不貞腐れていたのだった。
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