第66話 眠り薬

「パラウェリさん、お久しぶりです」

「おお、アンタは……あの、じいさんがさらわれたって言ってた……名前聞いてたかいな?」

「ごめんなさい、あの時は急いでいて。サーイ・ライガと言います」

「サーイだな……今日はゆっくりしてきなさい。そうだ、スープでも飲んでいきなさいな」

「え、そんな……急に訪ねてしまったのに」

「遠慮しなさんな、アンタはいい子だから、特別においしいもん作るからな」

 といって、パラウェリは大きい鍋を持ってきて、食べられそうな木の実を入れて火にくべた。


「どうかな、じいさん、見つかったのかい?」

「……いいえ、どこかに捕まっているようなんですが……」

 サーイはうつむき加減に答えた。

「どこを探してんだね?」

「魔物がいそうな場所を、片っ端からです」

「おお、それはご苦労なことで……それで、ワタシに何か手伝えることでも?」

「その、魔物がいそうなところに、コーピーたちにそっくりな植物がいて」

 パラウェリが飼っている2体の蔓植物、コーピーとキーピー。イウカーマの前に立ちはだかった植物たちとよく似ていたのだった。


「あら、そいつらが邪魔してんのかい、悪いこたちだねえ」

「あの子たちは悪くないんです。だから、なにかいい方法がないかと思って」

「そうだねぇ。コーピーとキーピーのヤツも、ときたま夜ものすごく騒ぐときがあってな……コイツらを眠らせる薬があるよ。スクラドといってな……まあ、植物用のマタタビってとこかな」

 そういうと、パラウェリは、周りの枝に寄生しているスクラドを抜いて持ってきた。


「これを使いなされ。ほんのひと握りでも、よく効くよ」

「ありがとうございます! それじゃ私……」

「待ちな、スープがもうすぐ煮えるから、飲んでいってからでもいいだろに」


 鍋から湯気と匂いが立ち込めて来た……なぜかそれは、懐かしい匂いだった。


「さあ、できたよ、美味しく食べなされ」

 サーイはスープを一口すすった。


「……! ……これ……」

「どうしたんだい?」


「おじいちゃんが作ってくれたスープと、同じ味……」


 パラウェリは目を丸くして言った。

「サーイ、もしや、アンタが言うおじいちゃんって……」

「おじいちゃんの名前は、マージです。マージ・パルカン」

「なんだって! あの人ときたら、ワタシの知らんところで、子供どころか孫まで作っていた……」

「違うんです……ごめんなさい。誤解するような言い方して。私、この世界の人間じゃないんです……突然この世界に迷い込んで、マージさんが、ずっと私の世話をしてくれていて……それで、いつのまにか、マージさんをおじいちゃんと呼んでしまって……パラウェリさん、もしかして、マージさんの奥様……」

「そうだった……時もあったな」


 そうだった、時もあった。ということは今は……気まずい雰囲気になってしまった、とサーイは思い、しばらく黙ってしまった……その時、どこからか声がした。

「な、なんだってー!」

 ……あたりには他に誰もいない。気のせいか。


「まあ、いろいろあったがね……でも、あの人が、こんないい子をして『おじいちゃん』と呼ばしめるくらい世話をしてたとはね……ワタシもあの人のことを誤解してたかもしれんな。なんでも聞いとくれよ、あの人についてだったら、それなりに答えられるかもしれん」

「ありがとう、おばあ……パラウェリさん」

「おばあちゃんだよ。ワタシは、サーイの」そう言って、パラウェリはサーイを抱きしめた。



 ……サーイが泣き止んだ頃には、スープはすっかり冷めていた。



 鍋から新しく注いだ暖かいスープをすすり、サーイは聞いた。

「おばあちゃん、どうしても、気になることがあるの。おじいちゃんがね……なんか、恐ろしい魔法を作ってたって話を聞いちゃって……」

「ああ、『滅びの魔法』かい?」

「……知ってるの? おばあちゃん」

「ワタシらはあのせいで……ん?」


「おわーーーーーー」 ドッパーン「あ”っぢぢぢぢぢーーーー」

 鍋に何かが落ちて、スープが辺り一面に飛び散った。

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