第28話 憂鬱な帰郷
バウザスに乗って飛び出した瞬間、俺が手に持っていた「ワンマルキュの杖」は、ただの「きのぼう」になっていた。
どうやら、ニレーゼの塔で手に入れた杖は、あの中でしか使えないようだ。おそらく、メディがせってえしといた「死んでもやり直せる」も、あの中限定だろう。
攻撃魔法が使えるようになったと思ったんだけど、そううまくはいかない、と思ったら、俺のなかでテンションがどんどん落ちていくのに気づいた。
ルカンドマルア、俺の故郷。
「魔物を滅ぼす」が国是のこの地で、魔法が使えない役立たず。
せっかく家出までして、使える魔法を探したあげく、使えることがわかったのは
「ソルブラス:魔物が近くにいると、ランダムで赤または青に光る」
「ツェデ:フタツだかミッツだかモハイール状態の魔法を切り替える」
「キュレビュ: 過去を見る」
「トゴリーティスとスライタス:魔物とこみゅにけいしょんする」
「エディル:食べられる実は青で、食べられない実は青に光る(トゴリーティスと使えば実用的)」
……どれも微妙。少なくとも魔物をやっつけることにはぜんぜん繋がらない。
しかも見つけるのに協力してくれたはずの仲間からも見捨てられた。
こんな状態で帰郷すれば、さらなる屈辱が待っていることは間違いない。
……しかし、あの女がそこに向かった。アイツのじいさん、マージとやらは、俺が見捨てられた原因を知っているはず。会わないわけにはいかない。
ルカンドマルアのある浮遊大陸に降り立った。ここは、バウザスを助けた場所。残念ながら、バウザスをこれ以上近づけるわけにはいかない。
トゴリーティスにこう書き込んだ。
「vauzas omae ha shibaraku kakurete iro」
「wakatta」
そもそも、彼と会話するための道具だ。トゴリーティスとスライタスは彼に預けておこう。
バウザスは飛び去り、俺は一人残された。さて、どうしたものか、やっぱり帰るのよすべきか。
そのとき、後ろから声がした。
「そこで何してんのよ?」
後ろから追いついてきた、あの女だ。
しかし、俺はいろいろ考えこんでて、その後何か呟いた気がするが覚えていない。おい、忘れるなよ俺。俺が覚えてなきゃ、読者は
それはそうと、ずっと待っているわけにはいかないので、とりあえず、家に帰ることにした。
俺の家は、歩いてすぐだ。城壁の外にあるからだ。俺がこんな体たらくなので、ろくなところに住まわしてもらえないからだ。
「……ただいま」
「……カギン! あんたどこいってたの!」
母親は、奥から俺がザガリスタから送った手紙を取り出して
「こんな紙切れ一枚送りつけて、遊んでたんかい!?」
「遊んでた、かもしれないけど、」
俺は、手紙を送った日のことを思い出した。キュレビュで見たことを。
「俺、見たんだよ、父さんを」
「……お父さんだって!」
「その、手紙に書いた、新しい仲間ってのに、見せてもらったんだ。若い頃の母さんも」
「あれまあ、まさかあんたが、お父さんのところに行ってしまうとは……」
まあ、別件で何度も死んだといえば死んだけど。
「もしかしたら、少しは母さんの気持ちがわかったかもしれない、ってのが唯一の収穫かな……」
「カギン、嘘でもそんなことを言ってくれるのは、嬉しいよ……いつかはお父さんの仇をとってくれるよね」
嘘ではないし、やっぱりその話が蒸し返されたか。せっかくいい話をしてやったのに、と思っていたら、外でなんかすごい音がした。
「……! 大変だよ、魔物がやってきたみたいだよ!」
と、母親は急いで外の様子を見に行った。
「……カギン、あんたは、穴に入ってな!」
穴。第6話で話した、各家庭に設置が義務付けられている、子供が避難するための穴だ。子供向けなのでとても小さい。
「母さん、いいかげんもう、こんな狭いところに入れるかよ!」
「あんたは! ……この歳になって! ……なんにも! ……できないからでしょ! ……せまかろうが、がまんしな!」
母親は俺を無理やり穴に押し込めながらいった。
うぐぐぐ……
なんか外から悲鳴らしいものだけ聞こえてくる……
くそ、これじゃあ外の様子なんか、
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