第12話 おそるべし? Magic Loader
ふーん、ゾジェイってそういうことね。……あ! え、ええ? 何でもないっすよ。いやその、アシジーモが教えてくれんたんだって。
さておき、我々人間三人は、ザガリスタの城門のところまで来た。ちゃんと門番とかいる立派な門だ。門番が話しかけてくる。
「これは、イサキス様、またおいでなさったんですね」
ああ、そうか、彼も一応マジック・ローダーだから、そうでない人々からすれば尊敬の対象なんだな、とか思っていたら、
「しかしですね、イサキス様、お言葉ですが、カルザーナ様の前で無礼を重ねすぎではないですか? あんな役立た……実用性に疑義がある魔法を披露されるとは。私も門番としては、お通しして何かあったら責任を問われることにもなるかもしれないですし……」
うわぁ、言葉遣いはいいが言ってることはひどい。
「うるさい、今日こそはカル様を振り向かせんだ、さあ、開けろ!」
しぶしぶ門扉を開ける門番。我々も中に入った。
街はかなり栄えている。人々の話し声もたくさん聞こえてくる。
「……ここ数日襲ってきたゾジェイが今日はいなくなったみたいだな」
「カルザーナ様が奴らの親分を打ち負かしたんだ、それで、奴らときたら命乞いして、森へ逃げて行ったそうだぞ」
「さすが、カルザーナ様がいらっしゃる限りザガリスタは安泰……」
カル様、とにかくすごい人気だ。
ひときわ立派な建物の前に来た。ここが彼女の邸宅なのだろう。また門番がいる。
「イサキス様、ご足労いただいて申し訳ないのですが、あのあと、ご主人様に言われたんです、もうあのバカはここに入れるなって」
ここの門番らはもうちょっと遠回しにいえないものか。
「ええー! ……いや、ここで素直に引き下がるようなイサキス様じゃないぞ!」
と言って、イサキスは俺の手を引いて、門番の制止を振り払って入って行った。
「あー! 困ります!」という門番の声が遠くなっていった。
イサキスは、俺の手をなおも引きながら
「カギン、君も共同研究者として、カル様に紹介してやるぜ」
……ええと、やな予感しかしないんですけど。
―――――†―――――
「……とにかく、今回は町にゾジェイ連中の侵入を許してしまった。これは我々としては恥ずべき失態だ。住民の皆に危害がなかったのが幸いだが」
「承知しております」
「今までの警戒レベルでは追いつかないことが明らかになった。至急、応援を頼みたい」
「はい、早速伝令を手配いたします」
部下とおぼしき者に指示をだしているあの女性……俺らより5歳は年上、ビキニアーマーに身を包み、桃色の髪を後ろに束ねている。彼女こそ、この町のマジック・ローダー、カルザーナ。
「な、すげー美人だろ!?」イサキスがテンションあげて叫んだ……彼女がこちらを振り向いた時、その美貌は怒りに満ちていた。
「おい、門番はいったい何をしているんだ! ゾジェイばかりか、あの男の侵入まで許すとは!」
あの男ことイサキスは至って平然と話しかける。
「いやー、カル様今日もご機嫌うるわしく……」
うるわしくないだろー……って気づいたらもう平手打ちを食らって床に倒れていた。
「愚か者! 性懲りもなくやって来て、恥ずかしくないのか……ん? そちらの者はなんだ?」
あ、やばい、視線がこっちに来た!
「あ、ええと、ですね、わたしは……」
「不審者め! 今すぐここを出て行きなさい!」
わー、だから言ったのにー。
「待て待て、カルザーナ、ちょっとは落ち着こうぜ」
と、駆け付けてきたのは、正規の手続きでこの館に入ってきたアシジーモだった。
「こいつは俺の友人だ。不審者扱いはないぞ。」
「あら、ごめんなさい……そうだアシジーモ、いいところに来てきてくれたわ。ちょうど伝令出そうと思ったんだけど、」
「ああ、レディウスの増強だろ? さっき外で聞いたが、ゾジェイの襲来が増えてるらしいな。」
「さすが、すぐわかるのね! ……同じマジック・ローダーでなんでこうも違うのかしら」
と言って、床に突っ伏したままのイサキスに冷たい視線を送る。
「レディウスはすぐ設置する。カルザーナ、その代わりと言ってはなんだが、こちらからも一つたのみが……ええと、二つ、かな? ……こいつら、なんだかしらんが頑張ってたらしいから……」
「何よ」
イサキスがやっと起き上がった。
「あいてて……先日は失礼しました。今日こそは素晴らしいものをお持ちしましたんで、……あいたた……ご覧にいれたくて」
「……変なもの見せたら今度は町の中にも入れないからね!」
「ええ、大丈夫ですとも。今日は私の優秀な助手もいますし。彼のアイデアは素晴らしいんですよ、ささ、カギン君説明してくれたまえ」
ええー! 俺が!?
「あのお、これはアレなんですよ、魔法が3つあって、A B ツェデなんでして」
「そうそう、これが E F ツェデ で、これがツェデツェデで」イサキスが補足してくれたので、俺も頑張ってプレゼンを続けた。
「そっちがツェデツェデツェデのツェデで、こっちをツェデツェデからの、あっちがツェデで」
「……いいかげんにしろ!」
ええ、そりゃ怒鳴られますよ。知ってた。さすがに初対面の人を平手打ちにはしない良心はあってくれたのが救い。カルザーナはイサキスにこう言い放った。
「お前はいつまでたっても、変なものばっかり呪胎してきて! そんなのする暇があったら、攻撃魔法の一つでも呪胎できるようになりなさい!」
アシジーモが見かねて口を挟んできた。
「ああ、そうだ、攻撃魔法といえば、俺ら、こいつが使える魔法が何かって探しているんだ。……カギン、彼女は攻撃魔法の呪胎が得意だ。まずは簡単なものでいいから作ってもらえ」
「え、この人、魔法が使えない?」
「そうなんだよ、俺たちじゃ手に負えないくらい使えないんだ、お前ならなんとかできるかと思って。」
「……カギン、と言ったわね。まず確実にいえるのは、イサキスと変な企みをするのをよしなさい。」
「ええ、はい」と言わざるを得ない状況。
「わかったわね。じゃあこれから私があなたを鍛えて、一人前の戦力になるようにしてあげるから」
……えー、戦闘はいやなんだよー、せっかくルカンドマルアから逃げてたのに、と心の中で思っていたら、奥の部屋へ通された。
部屋には、おびただしい数の杖があった。
「これは全部、私が呪胎した杖。この中から、あなたが使えるものを選んで」
アシジーモの村にいたときも、これをやって全部失敗したんだ。どうせまた全部発動しないんだろうから、適当に試していこうと思った。1つとっては発動させたふり、もう1つとっては発動させ……とやろうとおもったところで止められた。
「待ちなさい! そんなに雑に扱ってはいけません。まず、1つの杖に思いを込めるの。……小さい頃習わなかったの?」
魔法の勉強はどの町でもするらしい。そこで、以前ルカンドマルアの「学校」で習ったことを思い出して言った。
「ああ、習いました。思いを……魔物への憎しみを込めて、魔法を絞り出す、って」
そのとき、カルザーナの表情が今までない驚きの表情に変わった。
「……憎しみ?」
「うちではそう習いました」
「……まさか、あなた、ルカンドマルア人?」
あれ? なんでわかったんだ? 俺たまに、心の中で思ったことをいつの間にか口に出してるというヤバい癖があるんだけど、それかな?
「そんな風に教えるのはあそこだけだから、すぐわかるわ……そうだったのね、ごめんなさい……今まで、辛かったでしょう?」
ああ、そういうことだったのか。とにかく、その後カルザーナは俺に優しく接するようになったのだ。
―――――†―――――
「私、ベルツェックル様から何度も勧誘を受けたのよ。ガイトゾルフに入隊してほしいって」
「攻撃魔法が得意なら、多分、来ると思いますよ、依頼」
「……でも、断った」
「なぜですか?」
「彼らの考えるように、魔物のことを見れないのよ……私も……確かに、両親を魔物に殺された。だから、魔物たちを憎んでいない、と言ったら嘘なんだけど……それだけじゃ、何もならない、そう思っているから」
なんか彼女の触れてはいけない部分が垣間見えたので、流れをもとに戻そうとした。
「……憎しみでないとしたら、何を思って、魔法を絞り出すんですか?」
「大事な人のことを考えて、かな?」
大事な人、か。さしずめ、唯一の家族である母親あたりか? そう言ってみると、
「……お母さんはご存命、ということはお父さんは……」
ルカンドマルアの住民は例外なく、家族を魔物に殺されているから、彼女はすぐに察したのだ。
「はい……でも、何もわからないんです。父親がどんな人だったか……生まれる前に亡くなっているので、それで、母親からいつも『お父さんの仇をとれ』といわれてもポカーンとするしかない、それは悪いと思っているんですけど」
そこまで言うと、カルザーナは、
「ちょっと来て」
と言って、館の裏口から外へ、俺を連れ出した。
館の裏手が庭になっていて、その奥には高い城壁が巡らせてある。見ると、城壁の上にアシジーモが上って何かしている。あれか、レディウスの設置か。つうか、あんな高いところどうやって登ったんだろう? そう思っていたら、その城壁の上から何かが降りてきた……バウザスだ。ああ、また待たせてしまった、しびれを切らしたのだろう。あれ、でも、カルザーナにゾジェイと間違えられて追い払われちゃうじゃないか! と思ったら、
「……お友達?」
と、杖一つ構える様子もなかった。
「その子、あなたにすごく懐いている……私、わかるのよ、魔物が何を思っているか」
なんだよ、入る前の警告はなんだったんだ……
「おう、カギン、ちょっとお前のお友達を借りてるぞ」
と上からアシジーモの声が。ああ、バウザスが上に連れて行ったんだ。よかったな活躍できて。
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