第6話 禁断の質問


 今までに出てきたモンスターは2種類。

1つは俺が学校内で遭遇したモンスター、ゴブリン。ドロップアイテムは棍棒。


 そして2種類目は――。


「とりゃあー!」


 走りながらの強烈な一撃。

 コボルトという灰色の毛に覆われた2本足で立つ犬のようなモンスターに棍棒での攻撃がヒットする。


「カケルくん、カッコイイ!!」

「やった! やりましたね! 新モンスターでどうなることかと思ったけど、雑魚キャラだった!」


 強さはゴブリンと同程度かそれ以下で、油断せず棍棒で殴っていれば、まず負ける相手ではない。ちなみにドロップアイテムはコボルトが穿いている汚れたパンツである。

 スマホで確認してみたところ、守備力は無いに等しく、役に立つか分からないのだが念のため回収することにした。


「あの、気になることがあるんですけど」


 隆史がふと思い出したかのように声をあげた。ルナは隆史を無視しているようで、答えてくれる相手は俺しかいない。


「俺に答えられることなら」

「スマホで自分のステータスを確認出来るじゃないですか? HPって項目がありますよね?」

「うん」

「これがなくなったらどうなるんでしょう?」


 隆史のスマホでステータスを見せてもらう。ステータスには若干のばらつきがあるようだが、俺のステータスとほとんど大差が無いと言っていいだろう。そして、隆史も俺も、HPの最大値は同じ100。もしかすると、人間のHPはすべて100で統一されているのかもしれない。


「さあ、どうなるんだろう? ゲームだったらゲームオーバーになるよな……でもここは現実世界だから……」


 って、答えに迷っていると、


「死ぬよ」


 ルナが突然不吉な言葉を繰り出した。


「ま、マジですか?」

「気になるなら隆史くんで試してみようか?」

「えっ!?」


 ルナはニコニコ笑顔で、道中で倒したゴブリンから入手した棍棒を隆史の方に向けて振り上げる。


「おい、ルナやめろって! 洒落になんねえだろ!」


 俺が注意すると、ルナは黙って棍棒を引っ込めた。俺の言うことは聞いてくれるようだ。

 気まずい空気のまま再び歩き出す。


「……それで、もしHPが減ったら回復する手段があるんでしょうかね?」

 

 隆史も遠慮したのか、やや控えめな口調で俺に訊ねてくる。

 そういえば、回復アイテムのことについて何も知らなかったな。

出てくるモンスターがゴブリンやコボルトだけなら大した問題はないだろうが、この先きっと強いモンスターも出てくることもあるだろう。そうなった時、回復の手段が無ければ全滅してしまうのではないか……?


「なあ、ルナ。回復の方法について何か知らないか?」


 俺が質問すると、ルナはその場でピタッと立ち止まる。


「あれ」


 と、ルナが指差した先にあるのは宝箱。

 まさか宝箱まであるとは……。

 近づくとなかなかサイズが大きくて、これは中身に期待してもいいのかもしれない。

 

「これ大丈夫なんですよね。罠じゃないですよね!?」


 隆史も慎重になっているのか、宝箱の前で念入りに俺たちに確認を取っている。


「そんなに不安ならルナが開ける、どいて」


 乱暴に隆史を退かし、ルナは躊躇なく宝箱を開けた。


「お、おい! あんまり隆史を邪険にすんなよ。俺のクラスメイトなんだぞ!」

「……い、いいんですよ。カケルさん。ボクは慣れていますから。それよりもこれ……」


 宝箱の中に入っていたのは緑の液体が入ったガラスの瓶5個。すかさずスマホのカメラを起動して、詳細を確認する。


―――――――――――――

【レア度】C

【消費アイテム】ポーション

【効果】HPを30回復する

―――――――――――――


「なるほど、これが回復アイテムか……入手方法は宝箱からのみなのか?」

「今のところ、宝箱以外からの入手方法は確認出来ていない。もしかしたらモンスターからも手に入るかもしれないけど……」


 ルナは宝箱からポーションを5つ取り出すと、無言のまま俺に2つ、隆史に2つ渡した。


「え!? ボク2つも貰っていいんですか!?」


 隆史は相当低姿勢になっているらしく、ポーションを2つも分けてくれたルナに驚いている様子だった。


「カケルくんのクラスメイトみたいだから特別。言っておくけど、お前に惚れたとかでは一切ないから。勘違いしたらぶち殺す」

「あ、ハイ。分かってます……ありがたく頂戴いたしますね……」


 引きつらせた笑みを浮かべながら、隆史はポーションを受け取った。


「それにしても、荷物かさばるよなあ。カバンとか収納アイテムがあればいいんだけど」

「それボクも気になりました。このままアイテム抱えた状態で攻略するんですかねー、あはは」


 両手に荷物をたくさん抱えながら隆史と笑っていると、ルナが自分のスマホの画面をこちらに向けて、


「それなら、スマホのアプリからカバンのアイコンをタップして、そこからカメラを起動してしまいたいものを映せば荷物をスマホの中にしまうことが出来るよ」


 と、説明してくれた。


 スマホをポケットから取り出し、ルナに教えられたことを早速実践してみせる隆史。


「あ、本当だ! なんだかドラえもんの四次元ポケットみたいですね」


 俺もやってみると、カメラで映したアイテムがあっという間にスマホの中に吸い込まれていった。他人の持ち物も仕舞うことが出来るのか、隆史の持っている棍棒で試してみたけど、それは出来ないようだった。あくまで収納出来るのは自分のアイテムだけらしい。


「それで、出すときはカバンの中から出したいアイテムをタップするだけ。簡単でしょ?」


 ルナはスマホの画面をタップすると、その場に先ほど入手したポーションが現れた。

 もう、どんなことが起こっても驚かない俺がいる。


「さっきも聞いたけど、目が見えないはずなのにどうしてそんなことが分かるんだ?」

「もーカケルくん。情報は視覚だけじゃないんだよ? スマホには音声読み上げ機能がついているの知らないの?」


 いや……いくら音声読み上げ機能がついていても限界があるだろ、ってそう思っていると、


「実はルナさんって、目が見えているんじゃないですか?」


 隆史が冗談交じりに笑って言う。すると……、


「隆史、テメー調子に乗りすぎなんだよ。殺すぞ」


 ルナは素早い速度で隆史の背後まで移動すると、髪をぐしゃりと掴み取り、後ろに引っ張る。見た目以上に力が入っているのか、隆史の顔は苦痛に歪んでいる。


 その声は本当に隆史を殺してしまうんじゃないかと思えるほどの凄まじさだった。


「ひぃぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい! 冗談です。もう二度とこんなこと言いませんから!」


 隆史が今にも泣き出しそうな声で助けを乞う。

 ルナは俺の方をちらりと向くと、隆史の髪から手を放した。


 ……と、まあ、相変わらずこんな調子だが、なんだかんだ言って、俺たちの仲にも仲間の絆のようなものが芽生え始めてきたような感じがする。


 そういえば、歩き始めてからかなり時間が経ったような気がするけど、今は一体何時なのだろう?

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