第71話 SS 小楠紗耶香

一月九日 十六時


 今日はダンジョン発生以降連絡を取らなくなってた人なんかも集まっての同窓会だ。

 私って昔はそれなりに、もてたんだけど、何となく結婚までお付き合いが進むような出会いにも恵まれず四十一歳になった今でも独身貴族? な生活なの。


でもお肌の張りなんかは、やっぱり若い時のようにはいかないから、お化粧は念入りになっちゃうな。

テレビで見た【DIT】の鹿内さんが言ってたけど、あの方は私と同じ歳らしいけど『ダンジョンエステ』では本当にあんな風にアンチエイジングが出来るのかな? 有効なら受けたいな。


 独身アラフォー女は貯金だけはしっかりあるからね!


 ダンジョンにより何もかも失ってしまった人の多い中では、私の場合二十代の時に両親を相次いで失い、兄弟も居なかったので、今の時代では抱えてる悲しみは少ないのかな?


 今日の同窓会は予定時間は十八時からになっているけど、久しぶりに同級生と会える楽しみから、一時間前には会場に到着していた。

 受付を済ませ会場に座って何人かの先に来ていた同級生と話していると、その人は現れた。


 とても四十一歳とは思えない若々しい姿で、どうみても二十代前半にしか見えないよ。

 

 自分の記憶にある高校生の時と大差ない外観から、その人が岩崎君である事は直ぐに解った。

 高校を卒業後は出会う事がなかったが、昔ちょっといいなぁって思ってた人だ。


 何処がいいのか聞かれたら困るけど、見た目は普通、成績も普通、運動系も普通だったと思う。


 でも飄々として、いつも楽しそうだった。

 男ばかりで集まってくだらない会話で騒いでるイメージしかないけど、そんな普通のところに惹かれちゃったのかな?


 そんな岩崎君が入ってくると昔仲の良かった、佐々木君が話しかけた。

 そしてみんなの紹介をしながら私の紹介もしてくれた。

 なんと岩崎君の当時の憧れのマドンナだったんだって…… そんなの声掛けてくれたら、絶対断らなかったと思うのにな。


 その後は、なんでもない会話をしながら時間が過ぎて、同窓会でよくあるお前ら今何やってんの? 的な会話が始まった。

 この話をする人たちは今の自分の身分や立場に自信があって、自慢したい人だけなんだよね。

 そして岩崎君は「俺今ニートだぞ」って昔と変わらない感じで飄々と答えた。


 ちょっと岩崎君の見た目の若さに集まってた女性達はその会話の後で『四十代のニートって無理』とか言いながら、他の男子たちの元に散っていった。

 でも私は何か感じるんだよね。


 圧倒的な自信? のような物を。

 

 今日はずっと観察してみよう。


 それから一次会が終わり、二次会に向かう途中で立て篭もり事件が起こっていた。


 現場を通ると「ちょっとどうなるか見てみたい」と岩崎君が言いだして、みんなといったん別れて現場に残った。

 観察するって決めてた私も当然残った。

 現場の状況を確認してどこかに電話をした岩崎君は、折り返してかかってきた電話を持って【DPD】の隊員たちの中に向かって行った。

 その電話の後で【DPD】の隊長らしき人がいきなり低姿勢になり岩崎君に敬語で喋っていた。


 やっぱりなんかあった! と、思った私はチョットワクワクしながら展開を見守った。

 岩崎君の気配が急に消えたと思ったら、三分後には五人グループの外国人の立て篭もり犯を全員拘束して「後は任せたぞ」って言ってこっちに来た。


 何よこの展開…… 今日はもう絶対に手離さないわ、年甲斐もなくちょっとキュンとしちゃった。

 恥ずかしい染みが出来るくらいに……


 二次会の時もずっと離れずに側に居て、二人きりになれるチャンスを待ったわ。


 そして、二人きりでホテルのバーに連れ出す事に成功したの。

 福岡でも一番高級なホテルのバーで普通に会計すれば何万円単位の支払いになるようなお店。


 ニートって言ってる癖にそんなお店でも気にする事も無く一緒に席に座り、その店でも高級なシャンパンを二人で空けたの。

 まったく支払いの心配なんかしてなさそうね。


 私は、ここは一気に決めるべきだと思って、思い切って誘ったの。


 作戦は成功したわ。


 二人でホテルの部屋へ向かった。

 私はてっきりラブホに向かうもんだと思ったのに、岩崎君はこの福岡で最高級のホテルのスイートルームをチャージしてた。

 この部屋ってきっと一泊五十万円以上はするわよ!


 そして朝まで濃密な時間を過ごしたわ。


 でもどうなるんだろ? きっと同窓会の思い出のワンナイトラブで終わりだよね? 嵌ってしまうのが怖いから、私はしつこくならないように、朝ごはんを一緒に食べた後で自宅に戻ったわ。


「はぁー…… 又会えるかな?」


 朝からため息がとまらないわ。

 きっと彼は高レベルの冒険者なんだろうな? お金も困ってないみたいだし、何よりもあの見た目、私ヤバイよ、忘れられないかも。


 その日の夕方…… 鬱々と岩崎君の昨晩の姿を考えていたら、電話がかかってきた……

 岩崎君からだ! 私は、待ち構えてました! っていう雰囲気を出さないように電話に出た。


 「会いたい」って言ってくれた。


 出来るだけ冷静に「会えるよ」って伝えた。

 本当は飛び跳ねたいくらいに嬉しいけどね。


 そして、又朝まで昨日よりもっと激しく求めてくれた。

 私必要とされてるんだって思うと、涙が溢れてきた。


 次の日の朝私は後ろ髪を引かれる思いで、仕事に向かった。


 それから毎日電話がもらえるようになって「俺の仕事手伝ってくれないかな?」って聞かれたの。

 

 もう即答! 「よろしくお願いします」


 翌日早速【D特区】に向かうと、なんか凄く立派な家に案内された。

 ここって部屋数何個あるの? そして仕事の説明を受ける時に、またびっくりさせられる。

 最近のテレビで毎日のように姿を見る、東雲さんが説明役だったからだ。

 公的な【DIT】の仕事依頼等は、東雲さんが専任で担当しているらしくて、それ以外の私的な部分の秘書的な仕事をお願いされた。


 住むところも転移門があるし、博多から通ってもそんなに時間はかからないから、通いで良いと思ってたけど、大きな家の隣に立つ新築の綺麗な高層マンションを「ここ俺のだから好きに使って」と、独身女に4LDKの新築マンションを一部屋用意してくれた。


 こんなの……幸せすぎるよ。

 そして、週に二度は福岡のホテルにも連れて行ってくれるようになり、ちょっと聞いてみた。


「このお部屋っていつも使ってるけど高いでしょ? 勿体無くないの? 岩崎君の大きな家とか、私の住んでるマンションとかいくらでも場所あるのになんで?」


「あー、勢いで年間契約しちゃったから使わないと勿体無いだろ?」って返事だった。


 スイート年間契約とか1億円じゃ足らないよね?


「それにさ、俺の息子もマンションに住んでるし、やたらと勘の鋭い女性陣が沙耶香の事聞いてくるからさ、あそこの敷地内では性的な事はタブーな方が良いかな? って思ってさ」


 一緒に居る時間が長くなり、今まで聴いたことも無いような、国の政策を動かすような仕事だったり、天文学的な数字が並ぶ帳簿の管理だったりの仕事をやってるうちに、家政婦で働いている桃子さんと、夢さんから「一緒にダンジョンで若返りましょう」と、提案を受けたわ。


 勿論OK!


 二人とも同じ歳だし旦那さんを亡くして寂しい事や、翔君のパーティーメンバーとして二人の娘さんが行動してる事の縁で、ここで働いてるって言う話しを聞いた。


 当然アラフォー女性が三人集まれば話題の中心はSEX事情よ。

 夢さんと、桃子さんから滅茶苦茶羨ましがられた。

 二人共、しつこくならない程度にはアピールしてたんだけど、全然振り向いてもらえなかったんだって。


 意外に岩崎君って真面目なんだ?

 私の時は出会ったその日にそんな関係になっちゃったから、もうちょっと乱れてるのかな? とか勝手に想像してたよ。


 私なりに今の状況を見て、みんな岩崎君の周りに居る女性達は、岩崎君に惚れちゃってるよね。

 恐らく今個人では世界一のお金持ちだろうし、そして世界一強い男性。


 惚れない方がおかしいわよね。


 これは、独占は無理な話よね。

 【DIT】の皆さんは女の私が見ても、凄くきれいな方が揃ってるし、経歴も全員が国家公務員上級職のキャリア官僚。


 そんな方たちが可愛い乙女の表情で、岩崎君に話しかける。


 私から提案したわ。

 岩崎君を独占するのは誰も無理だと思う。


 そんな事しちゃうと、この中でもギクシャクしちゃうから、みんなもう子供じゃないんだし、平等にシェアでどうかしら?


 東雲さんと坂内さんは少しオンリーワン願望が合ったみたいだけど、状況的に無理だな、と納得してくれて話は纏まった。


 私と夢さんと桃子さんは【DIT】の方たちに負けないだけの美貌を手に入れるために、翔君たちにも手伝ってもらいながら、必死でダンジョンでの狩りもした。


 お陰で私的な全盛期のとき以上になれてると思う。

 夢さんと桃子さんも、びっくりする程若返って凄く綺麗になった。


 恐らくダンジョンでの効果は単純な若返りだけでなく、骨格や造形にも影響を与えてると思う。

 だって、初めて会った時は二人共、特別綺麗な人だと言うイメージは無かったけど、今改めて夢さんと桃子さんを見ると、ファッション雑誌のモデルさんと比べても全然遜色が無いと思う。


 ちなみにレベルは百を超えちゃった。


 そして、私と桃子さんと夢さんと鹿内さんまで同じ歳の四人が赤ちゃんを授かる事も出来たの、もう凄い幸せ。


 無事に出産できるように頑張らなきゃね。


 そして今は五月、ダンジョン討伐も大詰めを迎えてるらしい。


 私は出産を来月に控え、大きなお腹をさすりながらティータイムを楽しんでる。

 仕事も今は鹿内さんが人を手配してくれて、マタニティー生活に専念させてくれてる。

 たまには運動しないと出産後に体型がやばいかも……


 夢さんは昔幼稚園の先生だったらしくて、何かと忙しい他の方々の子供も一緒に面倒を見てくれる事になってる。


 マンションの大きな会議室も保育施設に作り変えられた。


 でも相変わらず私たち三人が集まると話題はSEXの事ばっかり……オバサンはイヤラシインダヨネ。


 その後更に四人が妊娠してる事が判り、岩崎君の赤ちゃんは同級生で八人にもなっちゃう。


 パパも大変ですね。

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