episode6

「なあ、お前、何者なんだ?」

 乱暴な客人を組み敷いた彼が問われているのを、僕は森の中から傍観する。


「ここの主人ですが?」


「前来た時は別人だったろうが……!」


「はいそこまでー」

 僕はヘマをした男の回収作業に移る。

 やっぱりこいつは僕が担当すべきだったかな、と思いながら、男の首を掴んで、無理やりに扉へ引きずっていった。


「おい離せやこら。俺を誰だと思っていやがるんだまたあいつにチクってやるから……」


 僕が本気で殺気をぶつけると、男は静かになった。

 うんうん、と頷いて小屋の外に出そうとすると、あいつに腕を掴まれた。


「僕の客人をどこへ連れて行く気ですか?」


 にこやかな笑顔の裏に、滞りなく流れる殺気。僕は途端に冷めてしまった。


「まあ君に対応してもらってもいいんだけどね、でもそれじゃあ謎解きが早まりすぎてしまうんだよ。こいつは喋りすぎるから」


「別にそれでも構いませんが?」

 そう言ってくるあいつに僕は舌打ちで答える。

 そういうことじゃないんだよな。僕は、君に謎解きをしてもらいたいのであって、別に暴力沙汰を繰り広げてほしいわけじゃないんだ。それに、それは、僕の仕事だ。


「うるせぇ。大人しく言うこと聞いてろ」


 最大限の不機嫌さをのせて、殺気を放っても、彼は呑気に紅茶を飲み干した。


「僕にあなたの事情は関係ありませんし、たまには身体を動かしたいのです」


「この脳筋が」

 イライラしながら言ってやると、ご褒美だとばかりにニヤニヤと笑ってみせた。


「じゃあ好きなだけやってろ」


 男を解放すると、男は森の中へガサガサと消えていった。


「おや」

 あいつは追いかける気なぞさらさらないようだった。全く手をつけられていない紅茶を見て、やっと、嫌そうな顔をした。

 ぺこりと律儀に男の消えた方へお辞儀をしてみせる。


「またのおこしをお待ちしております」


「お前、馬鹿じゃないのか?」


 言ってやると、あいつはまたもとの笑い顔に戻った。


「あなたがそう仕向けたくせに」

 何故か甘い声でそういうあいつに僕は肩を竦めて、今までの苛立ちをぶつけてやろうと、男を追いかけ始めた。

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