49人目の男

「こんにちは」


「こんにちは」


 血に塗れて月に照らされている男に、僕は声をかける。

「どうしてここへ?」


 男は少し考えて、首を傾げながら言葉を口にする。


「あなたのことが嫌いではないから、かな?」

「なるほど」


 僕たちは楽しそうに笑い合った。


「どうしてそんな格好になったのか、ご存知で?」


「どうしてでしょうね」

 男は本当に面白そうに言ってのけた。


「後悔などないのですか?

 今からあなたは、死ぬのですよ?」


「面白いほど後悔しかないな」


 すっぱりと言った男は、清々しい顔の裏側に恐怖心を残していた。


「でも、これが私の望みなのかもしれません」


 僕が黙って聞いているのを横目に確かめて、男は上機嫌で話し始めた。


「最初は下っ端で、ここまで何とか来られたことに嬉しさもあります。

 ですが、意外に、もっとしたいことがあったような気がするものですね」


「じわじわと死んでいくより、ぱっと散ってしまった方が、良かったですか?」


 男はニヤリと笑って僕の顔を覗き込んだ。


「多分どちらでも、後悔はしました。死とはこんなに怖いものだったのですね。

 不思議です。今まで死にたいとばかり望んできたつもりだったのに、もっと生きたいと、そう思ってしまいます」


 男の顔がじわりと白くなり、濁っていく。

 

 不安が滲む顔に、僕は前より好感をもった。僕の顔色を見て、男は少し微笑みを浮かべる。


「人間なんてそんなもんだ。気にやむなよ」


「僕はそんなに愁傷ではありませんよ」


「そんな愁傷なんだ、お前は」


 ケラケラと柄の悪い顔で笑った男。

 どんだんと沈んでいくように、のんびりと時間が過ぎる。


「またな」

 最後まで威厳たっぷりに死んでいった男が、最後に口にした言葉は、再会を確信した男の声にのせられた。


「またのおこしをお待ちしておりますよ」


 僕は膝をつき、男の目を閉じて、彼が消えていくのを眺めていた。

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