21、

「超古代文明の時代……」

「なんつうか……全然理解が追い付かないんだが……」

「わからないんだったら、カインは黙ってなさい」


 皇帝の言葉にハヤトたちがそれぞれの感想を漏らしていると、皇帝の側に控えていた宰相と思われる人物が咳ばらいする。

 その音に、ハヤトたちは沈黙し、皇帝の言葉を待つ。

 ハヤトたちの会話が収まると、皇帝は口を開く。


「そなたらもさきほどから口にしていたように、我々もわからないことが多い遺跡だ。そこで、教会の協力の下、王立学術院に調査を行わせることがさきほど決定し、すでに諸君らが潜った遺跡には、騎士団護衛のもと、学術調査が行われている」


 調査に入った学者たちも、創成記紀に記される以前に存在したとされている時代のものである可能性が高い、と示唆しているらしい。

 だが、ここで学者たちの口から遺跡内部にあった壁画について指摘が出たのだそうだ。


「もし、この壁画が記録であるとするならほかにも同じような壁画が地下深くに眠っている可能性がある。それらを探索、調査したうえでなければ結論を出すことは難しいそうだ」

「なるほど……たしかに、創成記の通りならほかにも、同じような遺跡が存在していてもおかしくはないですね」

「そうだ。さらに、霊獣の存在を示唆する壁画があった以上、彼らが何かしらの情報を持っている可能性があるとも話していた」


 それについては、ハヤトたちも考えていた。

 仲間であるアミアは、リスの姿をした霊獣だ。

 もしかしたら、何か知っているのではないかと思い、ハヤトだけでなくカインやシェスカもアミアに視線を向けるのだが、本獣ほんにん曰く。


「僕はまだ百年も生きてないからね。親からもあんまりその類の話って聞いたことないんだよ……」


 ということらしい。

 どうやら、彼女を情報源とすることはできないようだとハヤトたちは理解する。

 ならば、と皇帝は一つの提案を口にした。


「そなたの両親や群れの長から、話を聞くことはできないだろうか?」

「それはできるとは思いますけれど……」


 皇帝に問われ、アミアは明確な答えを返したくはないという様子だった。

 霊獣の住処をあまり知られたくない、ということもあるのだろうが、皇帝がなぜここまで類似した遺跡の所在を知りたがっているのかが気になっているのだ。

 超古代文明の遺産には、現代では再現不可能な機構を有した魔道具や失われてしまった知識や知恵が記された記録など、貴重なものが存在している。

 それらを回収し、帝国のものにしたいという欲求は、皇帝にあるだろうが、理由がそれだけではないように思える熱の入れようだ。

 何か、裏があるのではないかと疑いたくなってしまうのは仕方のないこと。

 その腹を読まれたことを悟ったのか、皇帝はため息をつき。


「わかった。確かにそなたの故郷が多くの人間に知られることは、霊獣たちにとっても我らにとっても本意ではないだろう」

「それもありますが、陛下。恐れながら、陛下には遺跡に眠る知識や知恵以外にも、何か目的があるように思えてなりません。それをお教えいただけないでしょうか?」

「訳を話せば、多少は理解を示してくれるか」

「確約は致しかねますが、前向きに検討することはできるかと」


 アミアのその言葉に、皇帝は満足したのか。


「うむ……では、話すとしよう」


 と返していた。

 側に控えている宰相と思しき初老の男は慌てた様子で皇帝を制止しようとするが。


「彼らに協力してもらう以上、こちらが何の情報も提供しないというのは誠実さに欠けるというものだ。お前は私を不誠実な人間に貶めたいのか?」


 ぎろり、と強い視線を向けながらそう言われては、宰相も引き下がるしかなく、口をつぐんでしまった。

 宰相からそれ以上、文句が出てこないことを確認すると、皇帝は話を続ける。


「数週間前、王城の宝物庫に侵入した者がいてな。その不埒者は厳重に保管されていたはずの宝物を盗んでいった。その行方は、今もわかっていない」

「その侵入者が、遺跡とどう関わりがあるんですか?」

「その盗み出された宝物こそ、超古代文明の宝物でな。何を目的にその宝物を盗み出したのか、それを知り、もしも民に被害を出すようなことを考えているのならば、阻止しなければならない」


 帝国において責任ある立場であるからこそ、盗まれたものの用途を知り、盗人の目的を理解する必要がある。

 そのための手がかりとして、遺跡調査を行おうというのだろう。


「けどよ、だったら騎士団や軍に調査隊を組ませて調査させればいいんじゃ?」

「それができない理由がある、ということでしょうか?」


 カインの言の内容は確かに的を得ていたためか、アミアはカインに言葉遣いを指摘することなく、引き継ぐように皇帝に問いかける。

 が、皇帝はその問いに、どう答えたものか思案しているのか、すぐに答えを返すことはなかった。

 その代わりに返ってきたものは。


「貴様っ!」


 顔を真っ赤にしながらカインの不敬な態度に対する怒りを爆発させる宰相の声だった。

 が、そんな様子の宰相を右手で制し、皇帝はようやく口を開く。


「近隣国にいらぬ刺激を与えたくないのでな。下手に騎士や軍で調査隊を編成するわけにはいかない」

「だからって、自国の冒険者だけに任せて大丈夫なんです?」


 冒険者は基本的に自由な存在だ。

 ギルドの規約、という制約に縛られてはいるがほかの国へ移動することはできるし、その国で得た情報や噂を口外したところで特に制裁が下されるわけでもない。

 ならば、冒険者よりも国に所属し、その重さ軽さはともかくとして、忠誠を誓っている近衛騎士や軍人の方が信頼できるのではないか。

 当然ながら浮かんでくる疑問に、皇帝は静かに答える。


「今現在、戦が起きるということはない。だが、我が国はともかく、周囲の国々は虎視眈々と我が領土を狙っている」


 おまけに、この国に所属する貴族たちが反乱を起こした場合や周囲で魔物の反乱が発生した場合に備え、近衛騎士や軍の戦力は温存しておきたい。

 それが皇帝の意向のようだ。

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