17、

 大広間で遭遇した岩巨兵ロックゴーレムを討伐したハヤトたちだったが、岩巨兵が出てきた通路の先を調査することなく、撤退することにした。

 大広間までの道中にある罠はすべて解除し、安全なルートも確保していたため、帰り道は魔物に襲撃されることも罠にかかり命の危険を感じることもなく、地上に戻ることができ。


「お。ずいぶんと長かったな!」


 出入り口で控えていた騎士から出迎えられた。

 戻ってくることになる、とは予期していたが、ここまで時間がかかると思っていなかったらしく。


「しっかし、時間かかったな」

「あんまり遅いから、てっきりお陀仏になったかと思ったぜ」

「ひでぇっ!」

「まぁ、生きてるから問題はないでしょ……それより、報告しなくていいのか?」


 騎士団の言葉に非難の声をあげるカインだったが、ハヤトの一言にすぐに平静を取り戻し、騎士に報告を行おうとする。

 だが、それを遮るようにシェスカが口を開く。


「これまで確認されていた場所からさらに二つほど部屋を通過した先に、そこに至るまでの区画に存在していたものとまったく異なる装飾が施された大広間を発見しました」

「大広間が?」

「まったく異なる、ということだがどのような装飾だった?」

「こちら、壁の一部を写したものです」


 騎士の質問に、シェスカは一枚の紙片を渡しながら返した。

 その紙片を受け取った騎士たちは、そこに描かれていた絵画をじっと見つめ。


「これは、女神か?」

「おそらく。女神の持つ杖が光を放ち、そこから様々な生物が飛び出している様子の絵がありましたので、創成記の一部を描いたのではないかと思われます」


 もっとも、専門的なことまではわかりませんが。

 そう付け足されたシェスカの言葉に、騎士たちはうなずき、さらに詳しく状況の説明を求めてきた。

 求めに応じて、シェスカは大広間で起きた出来事を説明する。

 その説明の中には当然、岩巨兵との戦闘も含まれており。


「なっ?!」

「おいおい、岩巨兵ってまじかよ」

「いや、討伐証明あるのか? それを見ないことには……」


 報告書だけでは、さすがに判断がつかないのだろう。

 何より、冒険者の中には自分の活躍を脚色して大げさに見せようとする人間もいる。

 騎士にもそれは言えることであるため、あまり強く追及はしないが、さすがに巨兵の類が出現したという報告は脚色にしては大げさだ。

 討伐証明がなければ、もう一度、本当の所を問いただすところなのだが。


「岩巨兵の目に使われていた宝玉。こっちが動力核と思われる宝玉の欠片。これで討伐証明には十分だろ?」


 いつの間にかシェスカと騎士団の間に割って入ってきたカインが、騎士に赤い小さな赤い石と、同じく赤いがもう片方の石と比較して、ひびや欠損のようなものが見えるものの宝玉と言っても差し支えな石を手渡す。

 二つの石を手渡された騎士は、目を細め、真剣な表情で石を観察するが。


「うぅむ……これだけではなんとも言えないが、ひとまず、宮廷魔術師団に調べてもらおう」

「了解。なら、そっちは俺が行ってくる」

「頼んだ」


 一緒に報告を聞いていたもう一人の騎士が、赤い石と宝玉の欠片を手に城の方へと駆け出していく。

 残ったもう一人の騎士は、シェスカたちの方へ振り向き。


「さて、本来なら無事に帰還してくれた時点で謝礼を渡すべきなのだろうが、先ほどから見ていた通りだ。宮廷魔術師たちの調査結果を待ってから、ということで構わないだろうか?」


 報酬の引き渡しはこの場で、と思っていたようだが、どうやら予定が狂ったらしい。

 遺跡内部に魔物が出現したということに関しては、騎士も把握していたことであったのだが、まさか人工的に製造することができる数少ない魔物である巨兵種が出てくるとは思ってもいなかったようだ。

 同僚に持って行ってもらった討伐証明の鑑定結果を聞き、その上で上司に報告し、今後、この遺跡の扱いをどのようにするか、国王を交え検討する必要もあるのだろう。

 そうなれば、報酬の準備も遅くなるし、再度、ハヤトたちに話を聞くため、王城へ招くことになるかもしれないため、日を置いておきたいのだろう。

 そのあたりの事情を察したハヤトたちは、問題ないという意思を示す。


「えぇ。内容が内容でしょうし」

「それに、正直、俺たちもけっこう疲れちまったんで、宿で休みたいというか……」

「まぁ、主に休みたいのは俺に肩借りてるこいつなんだろうけど」

「いや、面目ない……」

「なら、報酬が準備出来次第、宿に使いを送ろう。ギルドの宿泊所で間違いなかっただろうか?」

「はい。よろしくお願いします」

「了解した。それでは、道中、気を付けてくれ」


 ハヤトたちの所在を確認した騎士は一行に敬礼をして見送る。

 騎士に見送られながら、ハヤトたちは城門を抜け、城下町の雑踏の中へと消えていった。

 ハヤトたちの背中が消えた頃、ようやく騎士は敬礼を解き。


「しっかし……あの討伐証明が本当だとしたら、三人だけで岩巨兵を討伐しちまったってことになるよな……」


 岩巨兵に限らず、巨兵種は魔法の扱いに長けていない、白兵戦術を中心とする騎士だけならば五十人以上。魔術師も含めていたとしても、十人ほどの人間がいて、初めて討伐できると言われている。

 魔物の対応に関しては、騎士団よりも冒険者の方が慣れているということもあるだろうが、それを加味しても少人数で討伐できてしまった。


「こりゃ、真剣に騎士団にスカウトすることも提案してみるかなぁ……」


 その実力に、騎士は敬意を表し、ハヤトたちを騎士団にスカウトするのも悪くないと考えていた。

 もっとも、騎士団長にその話を持ち掛けたが。


「入団試験を受験させずに騎士団に入れるなどあり得ない」


 という言葉で却下されてしまったのだが。

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