6、

 警備兵の現状と冒険者に依頼を出した経緯を、落胆した様子で説明してくれた警備兵を元気づけるように。


「危険は承知の上ですし、これでもそれなりの実力を持っていると自負しています。それに、今回は首領の首を直接狙うつもりですから、そこまで危険はないと思います」


 自分たちにそれなりの実力があること、さらには大人数と戦うつもりがないことを説明すると、警備兵はようやく少しだけ気が楽になったらしい。


「そうですか……ですが、お気をつけて。ご武運と依頼の成功を祈ります」

「ありがとうございます。では、行ってきます」


 シェスカが関所を通過する許可を、相変わらず申し訳なさそうな顔をしながら出してくれた。

 許可が下りると、シェスカは時間を惜しむかのように足早に関所を抜けていく。

 ハヤトも一緒に通過しようと思ったのだが、一つ、思い出したことがあり、先ほどの警備兵に声をかけた。


「あの、すみません」

「はい?」

「先ほど、パーティメンバーは二人だけと話したんですが、実はもう一人、遅れてくる可能性がありまして」

「もう一人、ですか? その方はいま」

「調べたいことがあるからと言って先に行くように言われてしまいまして……今夜中には合流できると思うんですが、もし彼がここを通るようなら、伝言をお願いしたいんですが」


 シェスカはまったく信用していないが、ハヤトは一応、カインが追い付いてきたときのことを考えて、伝言を残してもらうことに決めた。

 だが、シェスカはあまりいい顔をしないだろうし、伝える必要はないと言って、伝言そのものをなかったことにされかねないため。


「あの、警備兵さん」

「え? なんでしょうか??」


 シェスカが先に向かったことを確認してから、近くにいた警備兵に声をかけた。


「実は連れが一人、遅れてくる予定なんです。この関所を通ったことと、連中のアジトを目指したことを伝えてほしいんです」

「あぁ、なるほど……わかりました。ちなみにそのお連れさんの特徴というのは?」

「深緑色の髪をしてる斥候です。ちょっとヘラヘラしてるというか……まぁ、『軽い』って印象を受ける人相してます」

「軽い、ですか……」


 ハヤトから聞かされた特徴に、警備兵は何とも言えない表情を浮かべる。

 悪口と捉えられなくもないのだが、カインの特徴はこれしかないのだから、致し方ない。


「まぁ、そこまで悪い奴ではないので」

「そ、そうですか……では、その人が来たらそのように伝えておきます」

「よろしくお願いします。では」


 警備兵にお礼を言って、ハヤトは先に向かっていったシェスカを追いかけていった。

 ハヤトがシェスカに追いつくと、それに気づいたシェスカが振り返り、声をかけてくる。


「あら? ちょっと時間がかかったみたいだけれど、何かあったの?」

「まぁ、ちょっと野暮用」

「野暮用?」

「そ」

「ふ~ん……? まぁ、いいけれど。さ、早く行きましょう」


 野暮用、という単語に、シェスカはどこか疑わし気な視線を向けてきたが、あまり踏み込むことはせず、先を急ぎ、歩き始めた。

 ハヤトもその後に続いて歩き出すが、アミアが突然、隠れていたハヤトの肩まで登り。


「ところで、ハヤト。なんでカインに伝言預けたこと、シェスカさんに話さないの?」


 と、耳打ちしてきた。

 相棒が抱いたその疑問に、ハヤトは苦笑を浮かべる。


「いやぁ、まぁ……アミアもそのあたり、察しはついてるんでしょ?」

「そりゃね。けどほら、君の性格だから、シェスカさんにも話すかなぁって思ったのにさ」

「う~ん、話しておくことも考えなかったわけじゃないんだけどねぇ」


 何があったのかはわからないが、シェスカとカインの間にある因縁は簡単に踏み込んでいいものではにような気がしていた。

 踏み込むのなら、それなりに傷を負う覚悟が必要になる。

 そんな気がしているせいで、あまり立ち入ったことを聞く気にはなれないでいるようだ。


「なんというか……」

「なんというか?」

「シェスカさん、カインのことになると見境なくなるというか、冷静じゃいられなくなるような感じがするし」

「あぁ……確かに、そんな感じするね。恋愛的な意味ってんじゃなく、宿敵というかなんというかみたいな感じで」

「だろ?」


 指名依頼が出されるということは、戦闘力もそうだが、その時々の状況判断や冷静さ、人格。その他さまざまな要素を総合的に判断し、ギルドから『信頼に足る』というお墨付きをもらっているということだ。

 その太鼓判を押されている彼女が、どうもカインが絡むと冷静ではいられなくなるらしい。

 その表情からカインに対して好意よりも、憎悪に近い嫌悪感を抱いているということは、なんとなく察しがつく。


「ただでさえ、敵の本拠地に足を踏み入れようとしてるんだから、下手に刺激するのは得策じゃないだろ?」

「……それもそうだね」

「てわけだから、カインが追いかけてくるかもしれないって考えてるのは、秘密ということで」

「ん。了解だよ」


 そもそもが穏やかな気質ということもあるが、関所を抜けた先は、カンダラ一味の縄張りであり、本拠地も近い。

 早くとも今夜には、拠点に到達することも考えれば、今、シェスカとの間に波風を起こすことは得策ではないと考えているようだ。

 その意図を理解したアミアは、シェスカに問いかけられてもカインのカの字も出すまい、と心に誓ったのだった。

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