第134話

「お、おお? あれ?」


 来ると思っていた痛みが来なかったせいか、困惑した様子でララが顔を上げると、彼女の横に聖衣を纏う青髪の女が経っていた。


「苦戦してるわねー、ララちゃん。手、貸してあげよっか?」


 杖を肩に乗せて妖艶な笑みを浮かべているのは、聖女ラトレイアだ。ラトレイアが<聖壁>を唱えてララの危機を救ったのである。


 ──ラトレイア⁉ アレク様は?


 予想していなかった助っ人に、思わず目を見張る。

 先程までアレク達がいた場所をちらりと見ると、そこには誰もおらず、ルネリーデの血痕だけが残っていた。おそらく、アレクがルネリーデを担いで馬車まで戻ったのだろう。


「ラトレイア、お前剣聖の治療はどうしたんだよ⁉」

「もう終わったわ。今はアレクが安全な場所まで運んでくれてるから安心して」


 聖女は<治癒魔法>でララの傷を治療しながら答えた。

 ララの体が暖かい光に包まれ、彼女の傷や火傷、体力を一気に回復させる。


「助っ人は有り難えんだけど、あいつら結構やりやがる。お前の手に負える相手じゃねえ。アレクと一緒に安全な場所に──って、あぶねえ!」


 ララが気付いた時には、竜人族による追撃魔法が彼女達に向けて放たれていた。

 焦るララとは対照的に、ラトレイアは動じた様子もなく右手を翳すと、無詠唱で<聖壁>を作り出した。それと同時に、もう片方の手で持つ杖をララに翳して、彼女に<強化魔法>を掛ける。

 竜人族の追撃魔法は先程と同じく掻き消され、ララの体には力が満ち溢れていた。聖女は彼女に身体強化の<強化魔法>を掛けていたのだ。


 ──別々の魔法を無詠唱で同時に……? ラトレイア、私よりも器用じゃないですか。


 その様子を見ていたティリスは、思わず感嘆の息を漏らしていた。

 上位魔神も魔法を同時に放ったり連射したりする事は出来る。しかし、それはあくまでも同じ魔法に限られるのだ。例えば、<火球>と<氷槍>といった異なる種類の魔法を同時に唱えるのは、さしものティリスにも出来ない事なのである。


 「ねえ、ララちゃん」


 ラトレイアはそのままララに魔法耐性強化の<強化魔法>を掛けながら続けた。


「……ルネリーデをあんなまでボロボロにされて腸煮えくり返ってるの、あなただけじゃないのよ?」


 ラトレイアは聖女に似つかわしくない冷たい表情を見せ、竜人族を睨みつけた。

 その様子を見て、ティリスはくすりと笑みを漏らした。


 ──そういえばアレク様も、ラトレイアが勇者パーティーの中で一番好戦的だって言ってましたっけ。


 こうしてラトレイアの性格や高い能力を見ると、彼女を真っ先に勇者パーティーから離脱させてよかった、と改めて彼女は思うのだった。ラトレイアが敵陣にいるだけで、ただの雑兵でも強敵になり得る。そして、そんな人物が今や〝夜明けの使者〟に仲間として加わっている事を、とても心強く思うのだった。


「そっか、そうだよな。んじゃ、こっからは……」

「ええ、二人でボコるわよ」


 こうして、桃色髪の鬼娘と聖女のタッグによる反撃が始まった。


─────────

【コメント】


16日に8巻を発売しました。

本話は5巻に収録してあります。

書籍版は内容が異なる部分が多く深みもあるので、よかったらそちらも読んで下さいね。


https://kakuyomu.jp/users/kujyo_writer/news/16816927861627295371

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る