第14話 優樹菜と付き合ってから一週間記念日②
その日の真夜中。
両親が帰宅してきたところで俺は、親父を二階のベランダの方に呼び出した。
親父はまだ着替えておらず、スーツ姿だ。一日中働きっぱなしということもあって顔にも疲れの色が浮かんでいる。
「話ってなんだ? 学校のことか?」
親父は疲労が溜まった体を預けるかのように柵へもたれかかる。
俺も同じようにして、静寂につつまれ、灯りがほとんど街灯のみになってしまった住宅街を眺める。
「いや、その……優樹菜のことについて聞きたいことがあってさ」
「優樹菜ちゃんのこと?」
親父が不思議そうな表情をして俺を見つめる。
「べ、別に変なことを聞きたいわけじゃない。ただ……優樹菜の過去について知りたいんだ」
帰り道のあの言動……。とてもじゃないが、普通とは全然思えない。
優樹菜には何かしらの過去があるはずだ。たぶん人には知られたくないような話が……。
それを勝手に探ろうとしている俺は本当に最低かもしれない。
だが、今は兄として優樹菜を救ってあげたい。ただの思い上がりかもしれないが、それでもいい。
親父は考える仕草を取ると、しばらくの間、夜空を見上げる。
「歩夢が何を聞きたいのか知らないが、そういった話は聞いたことがない」
「本当にか?」
「ああ、再婚するにあたって、約束したんだよ。互いの過去は知らないようにしようって。だから、私は優樹菜ちゃんの過去を知らない」
「そう、か……」
そうだよな。せっかくの再婚だ。その前に互いの嫌な過去なんて知りたくもないだろう。
とはいえ、俺が知っている限りでは、親父には何一つ嫌な過去はなかったはず。
俺が生まれて間もなく、実母が他界し、それ以来一人で育ててくれた。
仕事があって疲れているはずなのに、休日は一緒に遊んでくれたり、遊園地などいろいろな場所に連れて行ってくれた。学校行事だってそうだ。わざわざ仕事を抜け出してまで来てくれて、親父には本当に感謝している。
息子の俺が言うのもなんだけど、この人は善意の塊だ。もはや尊敬してしまうレベルですらある。
「力になれなくて悪かったな。こればかりは私にも無理だ。優樹菜ちゃんにも知られたくないことが一つや二つあると思うしね。どうしても知りたいのであれば、本人から聞くしかないと思うぞ?」
「そうだな。こんな時間にありがと」
「何を言うんだ。子どもの話を聞いてやるのも親の務めだ。別に礼を言われるようなことはしてない」
親父はそう言うと、にこっと微笑んだ。
こうなってしまった以上、優樹菜の過去を知る手段が早くも尽きてしまった。
優樹菜にはもちろん聞きづらいし、かと言って、母さんに聞くのもどうかなと思ってしまう。
しばらくの間は様子見をすることくらいだろうか。調べるにせよ、情報量がほぼないに等しいしな。
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