第4話

       4


 〇対一のまま試合は進んだ。先制されて流れを奪われたかに見えたバルサだったが、どうにか持ち直していた。攻守とも落ち着いており、何回かチャンスも演出していた。

 前半四十分、ジムナスティコはコーナー・キックを得た。神白は集中を最大にまで引き上げ、引っ切りなしに指示を出し続ける。ゴール前では両チームの選手が、ポジションを争ってやり合っている。

 コーナーアークからふわりとしたボールが上がった。

(コースが甘い!)即座に読み切った神白は、思い切って飛び出した。フルパワーで跳躍し、めいっぱい両手を伸ばす。

 手がボールに触れた。神白は前を見た。(レオン!)空中で高速思考する。

 足が地に着いた。ボールを持ったまま走る。ゴールラインギリギリまで来た。下手投げでレオンに出す。

 スローを受けてレオンは疾走。ジムナスティコの中盤は追いすがる。だが誰も追いつけない。

 センターサークルまで来た。レオン、完全にスピードに乗っている。相手は三人でバルサは四人。数的優位だった。

 5番がレオンに対応する。攻めを遅らせるべく飛び込まない。

 レオンはドリブルを大きくする。5番が出てくる。しかし触れられる前に、レオンは右にパスした。

 駆け上がった9番が引き継いだ。走る勢いは減じていない。レオンの力加減は絶妙だった。

 9番は快走。敵の6番が寄ってくる。すると9番は中央へと速いボールを送った。

 バルサ7番が右足を振りかぶる。敵2番は前を塞ぐ。7番は股の間にボールを通した。

 天馬が詰める。完全なフリー。ダイレクトで合わせて、ゴールの右隅へと転がした。

 キーパー倒れ込む。しかし掠りもしない。ボールはゴールへと転がっていき、ぱさりとネットを揺らした。

 見届けた天馬が振り返る。右手でガッツポーズを作りつつ、自陣へと走って行く。幼さの残る顔は、喜びと達成感に満ちていた。

(よしっ! イメージ通りのカウンター! 見たかジムナスティコ! これがバルサだ! スペイン二強の一角だ! パスサッカーだけじゃあない! こんな一撃必殺のパターンだってあるんだよ!)

 神白は心の中で吠えた。まだ同点。だが神白には、敗北するビジョンが見えてこなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る