第6話 温かな食卓

 プルルッ、ポッポー。プルルッ、ポッポー。正午を告げるふくろう時計だ。

「おや、もうお昼かい。エデン様、先ほどは無礼な態度を失礼いたしました。よろしければ、お昼を食べていきませんか」

 祖母はすっかりいつものトーンに戻っていた。

「僕の方こそ不勉強ですみません、いただきます」

「私、お腹ペコペコだ」

「グおん!」

「昨日の夜シチューを作ったので、それでも良いでしょうか」

 私たちは同時にうなずいて笑った。

「いただきます」

 フォリンの分も木の皿によそわれている。熱々のシチューに悪戦苦闘しているようだった。

「おいしい!」

 顔に手をあてながら緩む頬を抑えた。

「こんなにおいしいシチューは初めてです」

 エデンさんも柔らかい笑顔をする。

「王宮ではまだ冷たいものしか出ないのですか?」

「そうなんです。毒味が行われて、三十分以上経過しないと食べられないんです」

「ええ! じゃあ、あの紅茶は? どうして熱々だったの?」

「あの時は自分で淹れたからね。それに君が来ることは一部の人しか知らなかったんだ。毒味なんてしていたら大ごとになってしまうだろう」

「そうだったんだ」

 スプーンで丁寧に集められていくシチューをフォリンが羨ましそうに見つめる中、私はふいに手を止めた。

「そういえば、最近人さらいが出るって聞いたわ」

「そうなのか?」

「ええ、お母さんから聞いたの」

「そうとは知らず、昨晩は遅く帰してしまってすまなかった」

「いいえ、この通り何事もなく帰れたわ」

 問題ないと両手を広げて見せる。

「ナタリア、あなたにはフォリンがいるからいいけれど、私はエデン様のほうが心配だよ」

「僕は大丈夫です。男なので」

 彼は自信たっぷりに答える。彼の剣術の腕はかなり有名な話だ。

「シチュー、ごちそうさまでした。これから彼女と出かけたいところがあるのですが、ナタリアさんをお借りしてもよろしいでしょうか」

「もちろんです。話したいことも沢山あるでしょう」

 私はエデンさんと一緒にいていいことが、何よりも嬉しかった。

「エデンさんと出かけるなんて、子供のころのお祭り以来だわ!」

 彼は苦笑いしながらも、既に上着を羽織っていた。

「どこに行くの?」

「まだ内緒」

 温かな気持ちで外へ飛び出すと、フォリンも飛んでくる。

 元の大きさに戻ったフォリンは、ぎこちなく手を繋いで歩く私たちの後ろを静かについてきた。

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