裁きの炎

山川海のすけ

第1話 悪夢

「被告人は無罪」


法廷の傍聴席で裁判を見守っていた俺は耳を疑った。

そんな馬鹿な!

あいつは兄ちゃんを、灯油をかけて焼き殺したんだぞ!?

それが何で無罪なんだ!?


無罪判決を受けたあいつは、馬鹿笑いしていた。

あいつの担当弁護士はガッツポーズをしている。


到底納得できない判決を下した裁判官たちは、さっさと店じまいをして出ていこうとし。

まともな仕事をしなかった検察官は、嘆息して後片付けをはじめた。


許せなかった。

何もかも許せなかった。


俺は立ち上がり、叫んだ。


「俺の兄ちゃんの人生を何とも思わないのかお前ら!?」


返事は無い。誰も、気にはとめない。


それどころか


クスクスクス アハハハハッ


どこかから声が湧いた。


……何がおかしい?


家族の命を奪われたことを憤ったら程度が低いのか?

怒り狂えば、未熟なのか?

大人になれよ?ああ?


いい加減にしろ!許せねぇ!許せねぇええええええ!!


力が湧いてきた気がした。


この歪んだ茶番劇の場を、ぶち壊すための。

解放し、叫ぶ。


「お前ら全員、消えちまえ!!」


その瞬間、憎いクズたちの身体が燃え上がり、多数の火柱が出現する。

甲高い悲鳴を上げ、火柱たちは転げまわり。


やがて次々、動かなくなる。


俺は笑った。大声で。


どうだ、どうだ。

どうだ、思い知ったか!!


兄ちゃんはもっと苦しかったんだよ!!

もっと辛かったんだよ!!


残りは地獄で償いやがれぇぇぇっ!!!


俺は哄笑した。

したけれど、何故か心は少しも満たされない。


何故だ?

何が足りないんだ?


もっとか?もっと燃やさなきゃ……



「雄二……雄二……」



誰かの声が聞こえて来た。

それが姉さんの声だって気づいたとき。


俺は、それが夢だったことに気づいた。


目を開けると、心配そうな目で俺を見る姉さんが居た。

俺の姉さん……北條琴美。

活動的な俺とは違って、繊細な感じの女の子だ。

目が大きく、長めの髪を、頭の左右で括っているのが特徴的。

年は俺の1つ上。年子の姉だった。


俺の名前は北條雄二。

現在高校2年生。


俺の家は、崩壊していた。

まともな状態じゃあ、ない。

原因は、数年前に兄ちゃんの健一を殺されたからだ。


優しい兄ちゃんだったよ。

俺と違って運動が得意じゃ無くて、代わりによく本を読む人だった。

自分が読んだ本について、噛み砕いて俺と姉さんによく語って聞かせてくれたよ。


俺も姉さんも、兄ちゃんが大好きだったんだ。


それが、殺された。


この近辺でフダつきのワルだった、藤堂一夫という男に。


理由がクズ過ぎた。

兄ちゃんが、こいつの命令でパシりに行くことを拒否したからだ。


人の命を奪う理由に、そんなのってあるか?


それがどういうわけかあの男のカンに触り、暴行され、最後は灯油をかけて焼き殺されたんだ。


俺たちは思ったよ。

こんな男は死刑になるはずだ、ってさ。


だけどね。

ならなかったんだな。これが。


少年の可塑性だか何だが知らないけど、世に言う「更生を期待した温情判決」

不定期刑だとかなんだか罪状がついていたが、俺たちにとってみれば、死刑以外は無罪と同じだった。


それが原因で、母さんは心を病んで入院。

父さんは、息子を惨殺された悔しさを忘れるために、仕事に没頭して家に帰ってこなくなった。

俺たちの顔を見ると、兄ちゃんを思い出して気が狂いそうになるんだそうだ。


そして、結果として。


俺たち二人は、実質孤児と変わらない状況で生活している。

生活に困ってないだけの、孤児。

本当は両親揃っているのにな。


悔しかった。

理不尽を呪ったよ。


そのせいだろうか。

俺はよく、こういう夢を見るようになった。


あの日の裁判の現場に殴り込んで、あの判決に関わった全員を殺す夢を。

最初は包丁を振り回して刺し殺してたが、最近は妙な能力を駆使して全員一瞬で焼き殺すやり方になってきてる。

多分、俺の頭がだんだんおかしくなってきてるんだろう。


やばいとは思うよ。異常だとも思うよ。

でも止められないんだよ……。


姉さんがそんな俺を見て、悲しんでいるのも知っている。

正直辛いんだ。でも、止められない……。


「またあの夢を見たの……?」


寝汗を拭い、俺は「ごめん、姉さん」と詫びる。

残った家族の俺が、姉さんをさらに追い詰めてどうする。

ただでさえ、さらに姉さんが追い詰められるあんなことがあったのに……


それは分かってるんだ。

この気持ちに、どっかで折り合いをつけて、人間に戻らないといけないってことは。

今の俺が、人間とは呼べない状態だってことも。


畜生。


畜生。なんで俺たち家族が、こんな目に遭うんだよ。


神なんて、本当に居るのだろうか?

最近、特にそう思うようになった。


「……ちょっと、シャワー浴びてくる」


時間は朝の5時。

シャワー浴びて寝直すには微妙な時間。


この最悪な気分で、俺は登校することになるのか。


寝床のベッドから降り、俺は浴室へと向かった。

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