第230話:ク美さんしょんぼり
「お前、人間だったか」
家族──というのはたとえ話で、それぐらい大事な存在だってことを説明すると、ようやく理解してくれた。
俺のどこをどう見たらモンスターの子だと思えるんだよ。
それともこっちには人間そっくりなモンスターが出ますか?
まぁそれはいいとして、彼らのことだ。
「あの、あなた方はこの大陸に暮らしている……んですよね?」
俺の質問に男は頷いた。
それから茂みに向かって合図をすると、そこから出てきたのは彼の仲間だろうか。
ざっと十五人ぐらい?
「お前、なんの罪犯した?」
「え?」
「お前、ここに流されてきたのだろう?」
「いや、船で上陸したけど……」
前回は──トリスタン島に上陸したときは、とにかく必死に漕いでたどり着いただけだからある意味漂着みたいな?
「だから船に乗って島流し、されたのだろう?」
「え? し、島流し?」
いったい何の話をしているんだ?
「違う、のか?」
「じゃあ何故この大陸に?」
「やはり魔王なのか?」
「い、いや見た目は人間だぞ」
いやいや、なんか物騒な単語出て来てるから。
あっちもパニックだけど、こっちもパニックだよっ。
『ベヘェ。話が嚙み合っていない。ルーク、お前から事情を話せ。その方が早い。あと腹が減った、人参寄こせ』
「なんで命令口調なんだよ。ったく、ほらよ」
鞄から人参を一本取り出してボスに差し出す。
ボスはそれをシャクシャクと音を鳴らしながら嬉しそうに食べ始めた。
すると──
彼らの視線がボスに……いや、人参に釘付けだ。
どこかで見た光景だな。
あれはそう……ハンナと初めて出会った時と同じ反応か。
でもこの人数に分けてられる人参は持って来ていない。それに生だし、これ。
「あぁ、と、とりあえず俺の方から、どうしてこの大陸にやって来たか話しますね」
そう言ったが、最初に姿を現した男に静止された。
聞く気はない──ではなく、モンスターが近づいて来たからだ。
「森、危険。だがお前、まだ受け入れるかどうか決めてない。だから家、連れて行けない」
「あぁ、そりゃそうだ。なら俺たちの──」
所に来ますか? と言いかけたが、先に首を振られた。
「分からない奴の所、行けない。待つ家族いる」
「いきなり信用しろってのも無理は話だよな。まぁ当然か……じゃあせめて森の外に移動しよう。海岸のほうがまだ安全でしょう?」
「絶対安全ではない。だが明るい場所のほうが、まだいいだろう」
移動を開始して海岸へと到着すると、砂の上に腰を下ろして話をすることに。
全員、こちらからは一定の距離を保っている。その上で、いつでも武器を使えるように手を添えている人が多い。
平和的解決が出来るかどうか……。
確かにいきなり矢を射ってきたが、当てるつもりはなかったようだし、呼びかけにも応じている。
理性はある人たちのようだ。
「つまりお前、ドラゴンと友達。だから国に利用される。それ困るから、国のない場所探したと?」
「そうです。この大陸の東側は普通に国とか町とかあるけど、こっち側にはそれがないだろうってことで」
「ここ人住んでないって、シア思ってたから……ごえんなさい」
一通り話し終えると、彼らは手近な仲間となにやら話し込んだりしている。
ドラゴンと友達なんて信じられない──というのがだいたいの話題だ。
「こ、この大陸にドラゴンは?」
「いる。だが知能は低い。会話、無理」
『ルークよ。ドラゴンでも人語を話せるのは極々一部だぞい』
「そ、そうなのか……俺が知ってるゴラゴンは、ゴン蔵とゴン太だけだし、ク美だって会話が出来るもんなぁ」
「くみ? くみとは誰だ?」
代表者っぽい男がそう尋ねた時だ。
背後の海が、ずもももももっと盛り上がった。
うん、来ると思った。
『呼ばれた気がしましたがぁ~?』
ざばぁーんっとク美が出てくると、当然こうなる。
「ぎゃああぁぁぁ!?」
「う、海の魔物だあぁぁぁっ」
「た、助けてくれええぇぇっ!」
そんな悲鳴を聞いて、ク美がしずかーに潜った。
「あれがク美なんだ……襲ったりしないから、叫ばないでやってくれないか。彼女、傷つきやすいから」
『なんでしゅか?』
『どうしたでちゅか?』
今度は海からクラ助ケン助たちが上がって来た。
また面倒くさいことになるから大人しくしててくれないかなぁ。
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