第198話:王都へ
「まぁここまで来たんですからね、王都までご一緒しますよ」
ラッツたちがそう言ってくれたので、最古の迷宮にも付き合ってくれることになった。
ギルドマスターらに見送られ、ギルドが用意してくれた馬車に乗って王都まで一直線。
馬は早いし、ボリスが並走しているのでモンスターも寄ってこないし。
心なしか、馬も必死な形相で走っている気もする。
その甲斐(?)あってか、王都には四日の工程で到着した。
『ご苦労さん、ゆっくり休んでね』
ボリスが馬たちを労っている。馬はほっとしたような顔で、水をガブ飲みしていた。
いったいあいつらの間で何があったのやら。
しかし──
「王都だってのに、めちゃくちゃ雰囲気が暗いな」
町は城壁に囲まれ、造りは強固に見える。
通りの端には露店が立ち並んではいるけれど、ほとんどの店では閑古鳥が鳴いている状態だ。
店主も大きなため息を吐きだしていて、まったく賑わいがない。
「まぁダンジョンがおっ死んだからでしょう」
「と言っても、ほんの数日前じゃないのか?」
俺たちがトケットで知らせを聞いたのが五日前。情報が届くまでにタイムロスがあったとしても、せいぜい一週間から十日だろう。
「そもそも各地でダンジョンが復活してるってのに、今さらそれで冒険者が他所に流れるなんてことはないんじゃないか? むしろ拡張されたダンジョンを楽しみにしている冒険者だって……ん?」
「あっ。もしかして!?」
俺が言った言葉に、全員がはっとなる。
拡張されたダンジョン目当てに、王都にいた冒険者たちも既に復活したダンジョンに……行ってる?
そして王都のダンジョンに潜る冒険者が減ってしまったのか。
「こ、ここは地下五十階の大規模ダンジョンですから……」
「そうね。復活して拡張されても、まずはそこまで下りていける冒険者がそもそも少ないんですもの」
「こりゃあ規模の小せぇディサイドなんかが人気スポットになってんだろうなぁ」
そう、ここは地下五十階もあるんだよ。聞いた時にはげんなりしたもんさ。。
こりゃあ最下層まで下りるのも一苦労しそうだな。
「そんじゃま、宿を取ってそれからギルドに向かいますか」
「そうだな。地図があるだけ買って、それから最下層までどのくらいかかるか……」
それに合わせて食料の調達、消耗品の補充だ。
トケットのダンジョン攻略では、毎夜、宿に戻って来ていた。
それで思ったのが、やっぱり効率が悪いってこと。
宿だとついつい安心してぐっすり眠ってしまうし、食事に行くにも風呂に行くにも、いちいちのんびりしてしまう。
移動中の馬車で話し合った結果、宿に戻るのは三日毎にしようってことに。
地下五十階もあるなら、少しでも進行する時間に当てなきゃな。
「え? 地下三十階までは、転移魔法陣がある?」
宿を取って冒険者ギルドへ向かうと、朗報が俺たちを待っていた。
「そりゃあ地下五十階ですからねぇ。十階、二十階、三十階に転移魔法陣を設置しているのです」
うちの島ダンジョンではロイスに頼んで魔法陣を設置して貰ったけれど、それと同じように誰か腕のいい魔術師に頼んだのだろう。
だったら最下層にも作ってくれよう!
「もちろん、利用できるのは限られた冒険者だけです。銀級以上の方が限定ですが──みなさんは金級ですか。ではご利用になられます」
にっこりと話すギルド職員の眼鏡のお姉さん。
すみません。俺……一番下の銅ランクっす。
しかも俺の冒険者登録は、島のギルドでやっている。
つまり正規の登録をしていないってことですね~、ははは。
だってギルド登録カードに「身分:男爵」なんて書ける訳ないし!
ギルマスのオレインが気を利かせて作ってくれたんだよ!
「しかし──」
お姉さんがくいっと眼鏡を持ち上げ、レンズを光らせた。
ぐっ。俺のカードは確認してないけど、ランクがバレてるのか?
「みなさな、階級試験を暫く受けていらっしゃらないようですね。近いうちにでも階級更新試験をお受けになられては?」
「ん、そういや二年ぐらい受けてなかったな」
「そういえばそうね。島での生活が楽しくてついつい忘れちゃってたかも」
「え、階級更新試験とかあるんだ?」
ほほぉ。それに合格すると、階級を上げられるってことですか。
しかしラッツたちは島でのんびりダンジョン攻略したり、ゴン蔵に挑んではけちょんけちょんにされたりでむしろ鈍ってんじゃないのかとさえ思ったり。
が、ここではそれを口にしない。
俺とシア、そしてもふもふボリスにちらりと視線を向けた眼鏡のお姉さんに、冒険者登録カードを見せてくれなんて言われたら大変だ。
ここはラッツたちの仲間ですー、同じ金級ですーって勘違いされていたい。
こほんっとお姉さんが咳払いをすると、ちらりと奥の部屋へと視線を向ける。
……ダ、ダメだろうか?
「えぇー、では……下層の地図をご所望でしたね?」
「あぁ。何階層まである?」
「最下層までございます。ただ四十五階から下は殴り書きですが」
「それで構わない。ところで、核が破壊されているそうだが、他の冒険者は?」
ラッツがそこまで尋ねると、眼鏡のお姉さんの顔が曇った。
もしかしてほとんど誰もいない……とか?
城下町があんだけ閑古鳥が鳴いているんだし、それもありえそうだ。
となると、モンスターも結構残ってるかもなぁ。
そう思ったのに──
「凄く大勢残っているんですよ」
と、苦笑いを浮かべて眼鏡のお姉さんが言った。
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