第50話

 地面が少し揺れ、それが収まると──


「ウークッ。死んじゃあらめぇっ」

「ポ、ポーションがあるからうえぇぃ!? ど、どど、ど、どうなってるっ」


 少しだけ背が伸びて、

 けっこうお胸様が成長したシアがそこにいた。全裸で。

 そう全裸。つまり人の姿で!


 狼から人の姿に戻ったのは分かる。だが何故──


「な、なななな、なんで大きくなってんだ!?」

「ウーク、ポーション飲むっ」

「わ、分かったからお前は服を──あぁ、びりっびりに破けてんのか。着替えを──」

「ウーク、ポーション!!」


 分かったよっ。先に飲めばいいんだろ先にっ。

 アイテムボックスから自作ポーションを出して一気飲み。

 あ、苦い。

 苦いが効果はあった。


 太ももにぽっかりと空いた穴が塞がっていく。見ていて少し気持ち悪い光景だ。


「もう一本飲んでおくか」


 二本目を取り出そうとしたとき、俺の視界の先で真っ白い花が咲いた。


 花──生命の花!?


「シアっ、花だ! 花が咲いたぞっ」

「え? どこ……あった! ウーク、あれ摘むのっ」


 そうか。花を摘み取れば怪我が治る!


「くっ、シア、立たせてくれ」

「うんっ」


 シアが俺の右腕の下に潜り込み、支えるようにして立たせてくれる。

 くっ。足も、そして肺も痛いってのに……見えるものが見えると、なんでこうも幸せな気持ちになってしまうんだ!

 俺の馬鹿野郎!

 イテテテテテ。


 シアに支えられて花の所までやってくると、それを手に取った。

 朝露のように花びらに着いた雫が指に触れると、パァっと緑色の温かな光に包まれる。


 おぉ。おおぉぉぉっ。

 痛くない。太ももも肺も、全身どこも痛くない!


「凄い。完全回復したぞ」

「痛くない? もう痛くない?」

「あぁ、痛くな──と、とにかく服を着ようなっ」


 慌てて取り出したシアの着替え。だが──


「ウーク、こえ着れない」

「は? なんでだ……あぁ、サイズアップね。うん。じゃあ俺の服着ようか」

「あい!」


 嬉しそうに返事をして、シアが俺の服を着る。

 ズボンの後ろを破って、そこから尻尾を出させてなんとかいろんなモノを収めさせた。


「ルークエイン、シア! 二人とも無事かっ」


 やって来たのはエリオル王子一行。

 随分泥まみれになっているが、苦労して下りてきてくれたようだ。


「驚いたよ。まさか突然床が抜けるとは思わなかったからな」

「もともとこの辺りは地下水脈が通っていた地帯でして。ダンジョンが生成された時に水が止まり、空洞だけ残っていたようです」


 その空洞が、たまたま偶然あのボス部屋下にあったようだ。

 あまり深くなくてよかったよ……。

 

 それよりも──


「王子、花が咲きました!」

「なに!? ほ、ほんと……え? シ、シアのお姉さん?」


 王子、錯乱中。


「シアだおー」

「え?」

「王子、気持ちは分かりますが、どうやらシアみたいなんです」

「……そうだ、花だったな。おぉ! 確かに白い花がある!」


 王子、現実から逃げたようだ。


「これをどうやってエリクサーにする?」

「とりあえず箱に入れて鑑定してみます」


 摘み取った生命の花は、特に枯れることもなかった。

 いつ枯れるか分からないし、パパっと済ませよう。


【生命の花。蜜に直接触れれば、どんな怪我でも瞬時に回復。花と葉っぱ、それから不純物のない清らかな水を合わせて錬成すれば、エリクサーになる】


 花と葉っぱ……白い花は三輪、葉っぱは倍以上あるけど正確な数は!?


【詳細鑑定開始。花一輪と葉っぱ二枚でエリクサー一本分になる】


 詳細鑑定!?

 ツッコミを入れたから出たのか。 


「花と葉っぱ、それに水でエリクサーになりますっ。水をくださいっ」


 さっき飲んだポーション瓶と、足りない一本分は中身をどばどば捨てて用意する。

 それを水ですすぎ、更に『錬金BOX』で水の中の『不純物』を取り除くための錬成を行った。あるのかないのかは分からないが、念には念をだ。

 その間にロイスが生命の花と草を摘んで持って来る。


 ポーション瓶とその蓋を三つずつ。

 花三輪。

 葉っぱ六枚。


 それを『錬金BOX』へ投入。

 エリクサーになれ──そう念じて箱が光る。

 蓋を開けると花と葉っぱはそこにはなく──無色だがやたらキラッキラ光る液体の入った小瓶が三本、入っていた。


 再び蓋をして鑑定。


【エリクサー。どんな怪我も、どんな病もたちどころに治してしまう万能薬】

【エリクサー。どんな怪我も、どんな病もたちどころに治してしまう万能薬】

【エリクサー。どんな怪我も、どんな病もたちどころに治してしまう万能薬】


 三本分のアナウンスありがとう。







*エリクサーの素材を聖水→水に変更しました。

それに伴い次の51話でも一部シーンをカットしております。

(司祭の、はああぁぁぁっを)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る