第42話


 姫とお付きの女騎士を加えて翌日には出発した。

 道中、広々とした草原で、さっそく『付与』の準備に取り掛かった。


「ウークがんばえーっ」

『ンペェー』


 シアとボリスが声援を送ってくれる。けどな、『錬金BOX』でロイスの魔法を受け止めるだけだから。


「ほ、本当に大丈夫なんだろうね、ルークエイン様」

「大丈夫だ。心配なら、まず最下級の魔法を撃ってみてくれ」

「そうさせて貰おう。準備は?」

「出来ている!」


 一辺が1メートル幅の『錬金BOX』を構えて立つ。この箱のサイズは最大がレベルで決まっているが、それ以下のサイズなら初期サイズである5センチを下回らなければ自由に変えられた。


「では参る! "プチ・ファイアー"」


 あぁ、やっぱり火属性ね。それ好きなんだろ。


 あっさり箱でキャッチし、それからシアを呼び寄せる。


「あい、石」

「サンキュー。こうやって箱の中になんでもいいので入れます。で、付与っと。これで完成です」

「おいおい、ルークエイン様。そんな簡単に──」


 箱から取り出した石は、燃えるように赤々としている。

 それを誰もいない方角に向かって投げた。


 地面に落下するのと同時に炎が上がってすぐに爆ぜた。

 島のサルも同じ『プチ・ファイアー』だけど、ロイスの方が威力が高いな。


「なっ!?」

「い、いったいどうなってる? 俺の魔法が箱に吸い込まれて、それから……え?」

「これが俺の『ギフト』である『付与』です。ただ箱とセットじゃないと使えないようで。だから最初はゴミだと言われたんですよね」


 実際俺もそう思っていたし。


「じゃあその『付与』を使って、雷魔法を量産すると?」

「はい。石ならそこかしこにいくらでもありますし、何より投げやすいですから」

「ウーク。シアやる?」


 氷の結晶のことを言っているんだろうな。

 けど相手は氷竜だ。同じ属性の攻撃ではダメージを与えるどころか、ヘタをすると元気にしてしまうかもしれない。

 優しく断ったが、どこか残念そうに耳を垂らしてシュンとしてしまった。


 ちょっと申し訳ない気持ちになるが……仕方ないよな。


「よぉし! おいアベンジャス。じゃんじゃん石を集めてきてくれよ。ルークエイン様、じゃんじゃん行くぜ!」

「あ、いや。魔法一発でいくつでも付与可能だから」

「え……一発で……いい?」


 なんで残念そうな顔するんだよ。

 

 範囲魔法の取り込み方がいまいち分からず。

 安全を期して単体でも高威力の『サンダーボルト』と、『プラズマネット』という雷の網で敵を捕縛し感電させる魔法、この二つを大量の石に付与した。


「こんな石ころに俺の魔法が……ハアァァァッ!」


 めちゃくちゃ気合を入れて、ロイスは石を投げる。

 こつんと地面に落ち──え、何も起きない?


「おや? ルークエイン様?」

「あ、あれ? もしかして普通の石が混じったのかな」


 試しに一個投げてみる。

 バチチチチチッと音がして雷の球が発生し、地面を焦がした。


「私がやってみよう。もしかすると元の魔法の術者ではダメとかいうことは?」

「試したことがありませんので、分かりません」

「じゃあ──」


 王子が投げた石もダメだ。


「お、お兄様のせいではありませんわっ。ルークエインが不良品を寄こしたに違いありません。えいっ」


 エアリス姫が投げた石は、俺たちの目の前に落ち──


「馬鹿っ、近すぎるだろ!」


 慌ててシアと、そしてすぐ横にいた姫を抱きかかえて横に飛ぶ。


「エアリ──ス……これも不発か」


 何も起きなかった。でも心臓に悪い。


「はぁ……大丈夫か、シア。急に突き飛ばして悪かったな」

「いいお。ウークはシアを助けてくれたもん」

「あと姫様も。申し訳ありません」


 彼女を立たせようと手を伸ばすが、ぽぉっとした顔で俺を見上げるだけ。

 が、我に返ったようで、俺の手を払いのけて自分で立ち上がった。


 王子が石を拾って俺に手渡す。その石は元の灰色ではなく、蛍光ブルーとイエローのマーブル模様だ。

 魔法の効果が付与されていることは間違いないんだけどなぁ。

 試しに投げてみると、


 ズガァーンっでバチチチチチっと地面を焦がす。


 なんで?


「ふむふむ。これはあれですな。『付与』は箱とセットでなければ使えないのでしょう、ルークエイン様」

「そ、そうだ。何か関係が?」

「箱もあなたにしか使えない。なら、箱の中で『付与』したものも、そうなのかもしれないな」


 お、俺だけが使えるマジックアイテムになるのか。

 じゃあ、俺が頑張って石を投げまくるしかない……と。


「はっはっは。頑張ろうじゃないですか、ルークエイン様。はっはっはっは」


 熱血ロイスは楽しそうだ。

 まぁ……石を投げるくらい、頑張ろうじゃないか。


「ウーク、がんばえー」

『ンペェー』

「サンキュー。頑張るよ」


 シアの頭を撫でてやると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

 ふと、エアリス姫と目があう。

 彼女はすぐにそっぽを向いたが、少し顔が赤い。

 さっき突き飛ばした時、どこか痛めたのだろうか?


「姫。どこかお怪我でもしましたか?」


 そう声を掛けると、


「し、しておりませんっ。ふ、ふんっ。せいぜい頑張ればよろしいんですわっ」


 と、自分の馬車へと引っ込んでしまった。

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