第38話


 適当に服を買い、その足で共同風呂へと駆けこんだ。

 だが……。


「……あの、他のお客様のご迷惑になりますので」


 と、やんわり断られた。

 え、俺たちそこまでヤバいの?

 どうしようか頭を抱えていると気の毒に思った店員さんが、ちょっと値は張るが貸切風呂なら提供できると。


「それでお願いします!」

「はい。では一時間100L頂きます。またお客様がお上がりになった後は清掃が必要ですのでその……追加料金で30L頂きます。」


 にっこり笑う店員さん。時間制限付きで貸し切り風呂13000円は確かに高いな。

 んでお金を払って貸切風呂へ。

 

 受付の間に気づくべきだった。


「うおぉーっ。おふお大きいよー」


 貸切風呂ってのはつまり家族風呂ってことを。

 

 シアはまだ子供だ。子供だけど、年齢はたぶん十二、三歳。たしか銭湯って、その年齢だと性別にあった風呂にしか入れなかったよね?

 うん、アカン。これはアカンよ。


『天使ルーク:そうだよ。シアちゃんは女の子なんだから、

       せめて彼女が上がるまで君は待ってなよ』 


 そうだよな。よし、俺は通路で待ってよう。


『悪魔ルーク:おいおいルーク。シアは家族なんだぜ。

       ここは家族風呂なんだろ? だったら一緒に入ろうぜ』


 そ、そうだよ。シアは俺にとって家族も同然だ。一緒に入ったってなんの問題も……。


『天使ルーク:ダメだよルーク! 悪魔の言葉に耳を傾けないでっ。

       いくらシアちゃんが家族だからって、お年頃の女の子なんだよっ。

       お兄ちゃんと一緒のお風呂も、もう卒業する年齢だよ!』


『悪魔ルーク:おい黙れ天使! 世の中にはブラコンの妹だっているんだぞっ。

       もちろんシスコンだっているんだ! 行け、ルーク!』


『天使ルーク:ダメ! それだけは絶対ダメ!

       ルーク。シアは家族みたいな存在であって、家族じゃないんだよっ』


『悪魔ルーク:なら余計にいいじゃんか。男女の仲になって……』

『天使ルーク:黙れクズ野郎!』

『悪魔ルーク:クズで結構。へへーん』


 あぁ……うるさい……。


「ウークぅ」

「ん、なんだシ……はあぁぁぁっ!?」


 いつの間にか全裸になったシアがそこにいた。


『悪魔ルーク:あ、ちっぱいか』

『天使ルーク:ちっぱいだねって、そうじゃない! 見ちゃダメだルークッ』

「ちっぱっ」

「はあくいくおーっ。ぬぎぬぎしーよーね」


 シアが俺のズボンをひっぱる。

 しまった。安物のとりあえずサイズがあってればいいやと買ったのは、ウエストがゴムのズボンだ。

 あっさりひんむかれたーっ!


 次にシアが手にしたのは──


 パンツ。


「ああぁあぁぁぁっ」






「ご利用ありがとうございました。凄い声が聞こえてましたが、大丈夫でしたか?」

「あ……いや……あまりにも自分たちが汚くって、驚いただけです」

「そうですか。えぇえぇ、すっごい臭ってましたから。でも──」


 受付のお姉さんがそう言って顔をシアに近づけた。


「はい、もう大丈夫ですね。ふふ、ご主人様に綺麗にして貰えて、よかったわね」

「うん!」

「おかげさまでスッキリしまし──え、ご主人様?」

「あ……ち、違うのですか? ごめんなさい。獣人族はその──てっきりそうだと思ってしまいまして」


 奴隷だと思ったってことか。

 確かにこの世界の獣人族って、そういう扱いを受けているからそう思われても仕方ない。

 いや、実際シアは奴隷商人に買われていたし、そういう意味では……あれ?

 俺も奴に買われてなかったっけ?

 100Lで。


「すみませんお客様。お、お詫びにこれをどうぞ」

「え? いやそんないいですよお礼なんて」

「石鹸です。ずいぶん長い船旅か何かしていらっしゃったのでしょう? この石鹸は肌にも優しいので、海風で傷んだ肌にとってもいいんですよ」

「へぇ。さすが港町のお風呂ですね。じゃあ……お言葉に甘えて頂きます」


 いい店員さんだ。帰りにこの町に来た時、また寄ろう。

 ただし次は普通に男女別の風呂に。


「さ、次は服だ。まぁ装備というべきか?」

「う? 服」


 新しく買った服の裾を摘まんで、シアが首を傾げる。

 確かに服だ。安物だけど真新しい服だ。ワンピースだ。


 島でもウールのワンピースだったが、ダンジョンに入るならもう少しまともな装備の方がいい。

 それに……ワンピースは目の毒だ。


「ちゃんとした物を買うんだよ。それに服もズボンとかの方がいいし、着替えもいるだろ」

「おぉぉ」

「さ、行くぞ」


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