第10話 生きる
桜の姿は変わり果てていた。
真っ白な面に黒い唇。
目の周りも黒い化粧をしている様だ。
髪は下ろして赤いバラの花を飾っている。
服装も同様だった。
黒い露出の激しい衣装で長靴を履いている。
変わり果てた姿でもそれが桜だとすぐに分かった。
「桜!!」
桜に声をかける。
しかしその反応は酷く冷淡な物だった。
「死にたくないならそこをどきなさい」
声は間違いなく桜だった。
天の国の物が桜に何かした?
「桜に何をした!?」
すると天の国の当主天都美琴が答えた。
「この子の本来のあるべき姿を教えてあげただけよ」
桜に何かを吹き込んだらしい。
「桜!俺が分からないのか。竜樹だ」
「竜樹……」
まだ俺の事を覚えていてくれたのだろうか?
「こんな馬鹿な事は止めて一緒に帰ろう。美味しいご飯を食べさせてくれ」
桜に声をかける。だけど……。
「それは無理。私と竜樹じゃ済む世界が違う。最初から相容れないものだったの」
桜は桜の役目を果たすという。
役目?
その疑問に答えたのは結芽だった。
「聞いてないの?桜の役目」
そしてここがどういう場所であるのか?
鬼を解き放つつもりか。
「援軍が来ると面倒になる。こっちもお喋りをしている時間はないんだ。小僧、邪魔をするなら容赦はせんぞ」
西藤と女が構える。
桜を止めなければならないけど、楓一人で二人は無理だ。
……仕方ない。
俺も構える。
「女の方は楓様に任せます」
「……わかった」
そういうと楓は俺と反対の方に女を誘導する。
「いつぞやの決着つけるとしようか……?」
西藤が何かを言おうとした時、俺はとっくに行動に移していた。
東神流奥義・青龍。
俺は分身で西藤の四方を囲む。
だが、西藤は俺の本体が後ろであることを悟っていた。
「舐めるな小僧」
西藤は後ろを振り向いて刀を振り降ろす。
「お前と遊んでる暇はないんだ!!」
西藤の刀が振り降ろされる前に俺の刀は西藤の首を飛ばしていた。
西藤の首から血を吹き出しながら、西藤の胴体は倒れる。
それを少しだけ確認すると桜と結界の間に割って入る。
「邪魔をしないで。私本気だよ?邪魔をするならあなたを殺す」
俺は耳を傾けることなくじっとその場に立つ。
「いい加減にして!これ以上私を苦しめないで」
「苦しいのなら止めたらいいじゃないか?」
「言ったでしょ!私はこの国にいてはいけない人間なの」
「……誰が決めたんだ?そんな事?」
「え?」
桜は俺の顔を見る。
「桜がどこにいようと桜の自由だ。それを邪魔する奴がいるなら俺が振り払ってやる」
だから心配するな。
桜は桜のままでいいんだ。
世界中が桜の敵なら俺が全部切り払ってやる。
桜の動きが止まった。
「竜樹……私……!?」
また桜が動き出した。
どうしたんだ。
「そんなくさい芝居見てる暇はないんでね。力づくで行くよ」
「桜に何をした!?」
「その小娘の持ってる鋏は桜にしか所持できないけど、同時に桜の意思をコントロールすることもできるのよ」
美琴がにやりと笑う。
桜は抵抗を試みている様だけど無理矢理動かされている。
「竜樹……私を殺して……このままだとこの国が大変な事になる」
桜は泣いている。
俺の手にかかるなら本望だという。
「竜樹!止むを得ん。……桜の望み通りにしてやってくれ」
楓が言う。
でもそれじゃダメだ。
俺は納刀する。
「竜樹!?」
「俺は桜を守る」
「本当に鬱陶しい男だね」
美琴が言うと、桜は手に持つ短刀を振り降ろす。
それを俺は左手でしっかり握りしめた。
「竜樹!!」
左手から流れる血をみて桜が青ざめる。
多少の苦痛はあったけど、桜が背負い込んでる苦しみに比べたらこのくらい……。
「桜は俺と生きてくれるんじゃないのか?」
俺と生きたくないのか?
「だからって竜樹が死んだら意味ないよ」
「俺だって同じだ。桜が死んだら意味がない」
桜が再び動きを止めた。
「結芽!」
美琴が結芽に命ずると、結芽は結界の力を使って俺を拘束する。
すると再び桜が動き出す。
ゆっくりと結界に近づいて、そして短刀を振り上げる。
桜が手に持った短刀を振り降ろすと、耳をつんざくような音がして、そして禍々しい気配が辺りを包み込む。
美琴がにやりと笑った。
「さあ、お愉しみの時間だよ。鬼の最初の贄はその小娘にしようか」
なんだと!?
「ふざけるなぁ!!」
俺は全身に力を籠めると結界を振りほどく。
その場に座り込む桜に近づいて思い切り抱きしめる。
「桜、無事か!?」
桜は俺にしがみついて泣きじゃくる。
「竜樹、ごめんなさい!」
「大丈夫だよ。無事でよかった。後は俺に任せろ」
「任せるってどうするの?」
俺は笑って桜に答える。
「この場でこの化け物を片付けたら終わりだろ?」
「そんなの無理だよ!」
「桜のためならどんな無理でも無理矢理通してやる」
俺と桜が共に生きる為に。
その時花梨様から預かった秘刀・八咫烏が光を放つ。
これを使えと言う事か?
俺は武器を持ち替え、結界の向こうから現れるであろう大鬼に備える。
最後の決戦が始まろうとしていた。
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