第7話 結芽
今日もいい天気だ。
街も活気づいている。
人通りの多い通りを抜けながら、桜と手を繋いで歩いていた。
今日は桜と共に父上に呼び出されていた。
桜も一緒だから前のような奥義の伝授などという事は無いだろう。
桜はやはり年頃の子だ。
綺麗な簪を並べている露店を見ては足を止めていた。
急な用事ではないそうなので桜に付き合ってやる。
桜の目を見ていたらどれが気になっているのかすぐに分かる。
「すいません、これを一つ下さい」
俺はそう言って懐から財布を取り出す。
桜は驚いて俺の顔を見る。
「いいの?」
「いつも頑張っているからね。ご褒美って言うほどの事でもないけど」
「ありがとう」
桜は簪を受け取ると大事にしまっていた。
そうやって散策をしながら実家に帰ると父上たちが待っていた。
「随分とのんびり来たな」
デートでも楽しんでいたか?と兄上が冷かせば、桜は恥ずかしそうに俯いてしまう。
そんな桜を見てみんな笑っていた。
「で、父上。用事とは?」
俺が話題を変えようとすると、父上は母上に何かを言うと、母上は部屋を出る。
そして桜と同じくらいの年頃の女子を連れてきた。
女子は正座をして深く頭を下げる。
「お初にお目にかかります。結芽と申します」
「どうも初めまして」
結芽さんに合わせて桜も慌てて頭を下げる。
俺は父上に聞いていた。
「この人は?」
「お前たちのお世話係につけようと思ってな」
お世話係?
「桜も警護のためとはいえお勤めに行って、帰って竜樹の世話では苦労するでしょ」
確かにお勤めと家事を両方こなすのは大変かもしれない。
あらためて結芽と呼ばれた女子を見る。
髪の色は真っ白だった。
髪は耳の当りで切ってしまっていた。
服装が男性なら男子と間違えてしまいそうな中性的な顔立ち。
うっすらとおしろいを塗っている様だが、彼女自身がとても青白い肌をしていた。
病弱なのだろうか?
そうだったらしい。
普段はあまり外に出る事は無く家にこもりがちだったそうだ。
しかしそんなか弱い女子にお世話役が務まるのか。
「家事全般は何でもできるそうだ。心配する事は無い……」
「あなた……」
母上が父上に何か耳打ちをしている。
すると父上は笑い出した。
「竜樹が心配するような事は無い」
彼女の仕事は10時から18時まで。
夜は実家にいるそうだ。
どうして俺が心配するようなことがあるんだ?
母上に尋ねたら、母上に笑われた。
「竜樹はまだ女心がわかっていないようね。ちゃんと夜くらい桜の相手をしてあげなさい」
桜の?
桜をみると顔を真っ赤にして俯いている。
「このような事態でなければそろそろ孫の顔を見せろと言いたくもなるのだがな」
そう言って父上も笑い出した。
……話の内容は何となく分かった。
「それで、いつから?」
「来月の頭から通わせようと思っている」
「分かりました」
「……よろしくお願いします」
消え入りそうなか細い声で結芽は言った。
挨拶が済むと俺達は家に帰る。
その帰り道桜が俺を呼び止めた。
「ねえ、竜樹」
「どうした?」
「あの人の事どう思う?」
「どうっていっても……」
何か頼りない人だよな。
そう言って笑った。
だけど桜の様子が変だ。
「本当にそれだけ?」
桜は何か不安そうな顔をしている。
……そういうことか?
「大丈夫だよ。俺には桜がいれば十分だ」
「そういう事を言ってるんじゃなくて」
「何か感じたのか?」
桜の勘は鋭い。
予感は大体当たる。
「あの人何か隠してる」
桜がそういうのだからきっと何かあるのだろう。
「わかった。父上にちゃんと調べてもらうよ」
「うん……」
それから月が替わると結芽が家に来るようになった。
本当に家事は万能のようだ。
桜も料理の腕は確かだけどそれ以上の腕前だ。
掃除も隅々まで磨いている。
あれだけ警戒していた桜も半月もすれば打ち解けるようになった。
歳が近いせいもあったのだろう。
父上からも特に悪い知らせは入ってこなかった。
2人で台所に並んで立って料理をしている光景も見えるようになった。
それからしばらくしての事だった。
ある休日の日、桜からお願いがあった。
結芽と女子同士だけで買い物に行きたい。
流石にそれは危険じゃないのか?
でも桜も年頃の女子。
いつも俺が一緒だと色々と気を使うのだろう。
考えた末、日没までにちゃんと帰って来るならいいよと、返事した。
桜は嬉しそうに出かけて行った。
さて、一人で何をしようか。
とりあえずは日課の稽古でも済ませようか。
そんな事を考えていると桜の兄の楓がやってきた。
かなり切羽詰まってるかのように慌てていた。
「どうしたのですか?」
「桜は今どこにいる!?」
楓に桜は今結芽と買い物に出かけていると伝えた。
「行先はどこか把握しているのか!?」
「多分いつもの大通りだと思いますけど」
「すぐに探して連れ戻せ!」
楓の剣幕はただ事じゃないようだ。
何事があったのだろう?
「桜が嫌な予感がすると言っていたのが気になって結芽の後を尾行させた。すると尾行させた者からの連絡が途絶えた」
「え?」
楓の言葉に動揺を隠せないでいた。
楓の話にはまだ続きがある。
「木竜殿に聞いて彼女の家を訪ねてみた。もう何年も使われていないぼろ屋敷だった。そこに尾行させたものが斬殺された跡があった」
その話を聞いて流石に俺も嫌な予感がした。
そんな時期に合わせて結芽が行動に出た。
それが意味するものは……。
俺は楓と共に大通りに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます