モテる兄貴を持つと・・・Yamato&Kaito

第50話 浮気？

　ピンポーン

夜、シャワーを浴びた後に誰かが来た。海斗がドアを開けると、なんと外国人男性が立っている。

「ハーイ、海斗。君のハニーはどんなボーイなの？見に来ちゃったよ。」

と、その男性は入って来た。

「マーク、困るよ。」

おお、この人海斗よりもでかいよ。

「初めまして、マークです。よろしくね。」

マークは俺に握手を求めて来た。握手をしつつ、俺は「誰？」という視線を海斗に送る。

「バイト先の常連さん。英会話教室の先生やってるんだって。」

と、海斗が説明してくれた。なるほど、日本がペラペラなわけだ。

「ふーん、可愛い子だねえ。どうだった？初めての感想は？」

この人、何言ってんだ？俺が目をパチクリさせていると、

「ちょっと、マーク、やめろよ。もういいだろ。帰ってくれよ。」

と、海斗が慌ててマークに言う。けれども、マークに帰ろうとする気配はない。

「最近海斗とあまり会えないからさあ、寂しくて。俺もまた、このベッドで寝たいなあ。」

マークがそう言って、俺たちのベッドに座ってベッドの表面を撫でた。

　はあ！？どういう事？この人、このベッドに寝たの？このおっさんを海斗が泊めた事があるって事か？大学の友達なら分かるけど、このおっさんを？

「マーク！やめろよ。」

海斗は本気で怒ったようだ。睨みつけられたマークは、肩をすくめて立ち上がった。

「分かったよ、今日は帰るよ。じゃあな。」

マークはそう言うと、海斗の頬にキスをして出て行った。眩暈がした。まさか、海斗がマークと浮気を・・・？

「海斗、このベッドに、他に誰が寝た？」

「や、岳斗、怒るな。」

「何人が寝たんだよ！」

「マークだけだよ。」

海斗がそう言ったので、逆に体に衝撃が走った。友達も泊めていないのに、マークだけを泊めたなんて。これは絶対にそういう事だ。

　俺が黙ってしまったので、海斗はオロオロとし始めた。

「岳斗、あの、ごめん。違うんだ、ただ俺は、お前のために、マークに教えてもらっただけなんだ。好きなわけでも何でもないんだ。」

「教えてもらった？つまり、そういう事、したんだな？」

海斗ははっとして俺を見つめた。

「サイテー！このベッドで、他の人とするなんて・・・。」

俺は、わなわなと手が震えた。出て行きたいけど、どこにも行くところがない。

「ここに寝たくないけど、仕方ないから寝る！」

俺は怒りに任せてそう言うと、ベッドにもぐりこんで布団をかぶった。涙が出た。最悪だ。海斗が他の男と。信じられない。

　いつの間にか眠っていたようだ。だが、何しろまだ早い時間だったので、夜中に目が覚めてしまった。寝返りを打とうとして、はたと気づいた。すすり泣きが聞こえたような気がしたのだ。そっと寝返りを打つと、台所の灯りだけをつけ、椅子に座っている海斗が見えた。海斗は氷の入ったグラスを片手に持ち、もう片方の手で目を辺りを押さえ、泣いていた。俺の胸がズキンと痛んだ。海斗が泣いたのは、確かそう、萌ちゃんとの間を邪魔されて喧嘩した時以来だ。あの時も、俺が海斗に怒鳴ったんだ。そして海斗が寝込んで、泣いて俺に謝った。海斗は俺に怒られると、泣く・・・。

　海斗が手にしているあのグラス、そしてテーブルに置いてある瓶、あれはお酒だろうか。海斗、お酒を飲むのか？どうやって買ったんだよ、未成年なのに。

　そうだ、海斗の誕生日は明後日だ。いつも家族の誕生日には、母さんがケーキを作ってくれて、それを食べてお祝いしていた。特にプレゼントを渡したりもらったりはしていなかったので、うっかり忘れるところだった。明後日、海斗は二十歳になるのだ。お酒も堂々と飲めるわけだ。

　カランと音がして、海斗がお酒を飲んだ。そして、俺の事が目に入ったようだ。

「岳斗。」

海斗は手で目をこすって、それからこちらに歩いて来た。

「岳斗、ごめん。俺、どうかしてた。後悔してる。お前の為だって思ってたけど、お前の気持ちを考えたら、間違ってたって、分かったよ。ほんと、ごめん。許してくれ。」

海斗はベッドの端っこまで来たけれど、それ以上近づかず、そう言って頭を下げた。俺は体を起こし、ベッドの上に胡坐をかいて座った。

「ここ、座れよ。」

俺は顎でベッドの上を指し示した。海斗は叱られた子供のように、のっそりとベッドに上がり、正座をした。涙でぐちゃぐちゃになった顔。いい男が台無しじゃないか。それに、大きな体をめいいっぱい小さくして正座している姿を見たら、なんだか可笑しくなった。怒っていても、俺は海斗が好きだ。だから、いつまでも怒っていたってしょうがない。

「もう、いいよ。泣くなよな、もうすぐ二十歳だろ。」

俺がそう言うと、海斗の目が揺れて、更に涙が流れ出た。まったく、しょうがない。俺は膝で立って一歩近づき、海斗の事を抱きしめた。そして、頭をナデナデする。いつも俺が海斗にされているみたいに。

「もう、浮気するなよな。その代わり、誕生日のプレゼントに・・・あげるから。」

海斗がガバッと顔を上げた。そして、がしっと背中に腕を回された。

「ほんと？」

「う、うん。だから泣くなよ、な。」

「うん！岳斗、愛してる～。」

海斗はそう言って、俺の胸に顔をぐりぐり擦り付けた。

「お前、俺のパジャマで涙拭いてるだろ。」

「あははは、気のせいだよ、気のせい。あ～岳斗～。」

尚も海斗はぐりぐりした。