第41話 旅立ち、別れ

 海斗は部活を引退した。夏休みの家族旅行は、北海道になった。海斗の住むところの下見を兼ねていた。今年は二人部屋にはしてもらえず、トリプルとシングル。つまり、母さんが一人でシングルの部屋に泊まり、父さんと海斗と俺は三人でトリプルに。警戒されていると思うと恥ずかしいやら悲しいやらだが、父さんはお酒を飲んで早く眠ってしまい、いびきをかいているので、俺と海斗はそれなりに二人きりの時間を満喫できた。いびきを聞きながらだけれど。

 二学期に入り、今年も文化祭がやってきた。海斗のバンドの演奏は、それはそれは盛況で、去年よりも出番を増やしたけれど、希望者が入りきれない状況だった。そしてまた、新たな一年生のファンをどっと増やす事となったのである。

 そして、いよいよ海斗の工学部進学が決定し、本格的に引っ越しの準備が始まった。考えると不安で胸が苦しくて仕方がない。でも、とにかくできるだけ長く、海斗との時間を作ろうと思った。一緒に居られる時間は、なるべく楽しく過ごす。

 ちなみに、坂上は何度か家を訪ねて来た。俺の事よりも、金の無心に来たと言った方がいいかもしれない。それで、警察を呼んで注意してもらった。それからは来なくなった。


 そして、海斗の卒業式があり、いよいよ引っ越しの日がやってきた。

「ちょくちょく電話するから。」

空港まで見送りに行った俺に、海斗がそう言った。俺は泣かないように頑張った。海斗の方が、色々と不安に違いない。海斗が搭乗口に消えていくのを見送った後、父さん母さんと一緒に帰ろうとすると、少し離れた所に、前園さんを見つけた。こっそり見送りに来たのだろうか。ふと気づけば、反対側に大勢の女子高生がいる!みな肩を抱き合って、涙を流していた。海斗のファンたちなのだろうか?海斗には、もう恋人がいるのに。あ、俺だけど。限られた人しか知らないから、いつまでも海斗はフリーだと思われて、ファンが絶えないのだろう。ああ、大学生になって、海斗は周りにどう言うのだろうか。恋人がいると言うのだろうか。それとも、いないと言うのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る