第24話 初めての・・・

 俺は、家に帰ってから泣いた。失恋したみたいに泣いた。海斗は相変わらず優しいのに、どうして悲しいのだろう。ご飯を食べに行かなければならないのに、涙が止まらない。

「岳斗、ご飯食べないのー?」

母さんがドアの外から呼んでいる。

「後で行くー。」

何とかそう叫んだ。とにかく、涙を止めてご飯を食べに行かなくちゃ。家族に変に思われる。俺は深呼吸をした。涙がぽたぽたっと両目からこぼれた。目を閉じて深呼吸を繰り返していると、ドタドタドタっと階段を駆け上る音がして、次の瞬間ノックもなしに部屋のドアが開いた。

「岳斗、どうしたんだ?食欲ないのか?!」

海斗だった。俺はベッドに座っていた。目を開けて海斗を見る。海斗は、それはそれは驚いた顔をしていた。

「ど、どうしたんだよ。」

海斗は震える手で恐る恐る俺の頭を触った。それから、両手で俺の顔を触った。親指で涙をぬぐう。

「何があった?俺に話せよ。」

海斗は苦しそうにそう言った。そんなに深刻な事じゃないんだ。ただ、海斗に彼女が出来たのが悲しいんだ。でも、そんな事は言えない。俺は唇を噛んだ。

「岳斗、岳斗?」

海斗はすごく動揺しているようだった。そして、何を血迷ったか、俺の唇に、唇を・・・つまり、キスをした。

 はっ!!!びっくりした、なんてもんじゃない。俺は何かを言おうとしたが、更に海斗は唇を押し付けて来た。

「ん、んん!」

俺はもがいた。海斗を押しやった。思いっきり押したので、海斗は尻もちをついた。涙なんて流している場合ではなくなった。鼓動が全速力で走った後のように激しく打っている。俺は階下へ逃げた。結果的にご飯を食べに行ったのだった。海斗はそれからしばらく降りてこなかった。俺はご飯ものどを通らない・・・事はなかった。食べ盛りの高校生男子なので。

 海斗は後でご飯を食べに行ったようだが、その時には俺はもう部屋に籠っていた。まだドキドキが止まらない。顔が熱い。


 翌朝、俺は熱を出して学校を休んだ。何もかも海斗のせいだ。もう、何が悲しくて泣いていたのかさえも分からなくなってきた。とにかくショックで、頭の中には前園さんの事と、夕べのキスの事がぐるぐる。これが知恵熱ってやつなのか?

 熱は午後には下がった。それでも、何もする気になれずに寝ていた。海斗が帰ってきて、ここに来るのではないかと身構えていたのに、とうとう来なかった。俺は海斗が熱を出した時、何度も様子を見に行ってやったのに、何てやつだ。と腹を立ててみたものの、どんな顔で会えばいいのか分からない。ただ、夜中になって、もう丸一日海斗の顔を見ていないのかと思ったら、寂しくなった。すぐ隣の部屋にいるのに。また泣きたくなった。海斗と一緒に寝たい。小さい頃だったら、遠慮なく海斗の部屋へ行って、ベッドにもぐりこんでいたのに。

 それにしても、なぜ海斗は昨日あんな事をしたのだろう。ふざけてするなら分からなくもないけれど、あんな場面で。かなり動揺していたようだったが。俺が泣いていたから、だよな・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る