第18話【怯える文人】
文人と茜。
幼い二人は神社にある神秘的な池にて二つの約束を交わした。
その約束が今後二人が結ばれるかどうかの大事な道しるべになるとは、この時の二人には知るよしもなかった。
「――ねぇ、お母さん文人大丈夫かな?」
「茜が陸くんと離れて勝手に飛び出すからじゃん!今度ばっかりは文人ママになんて謝ったらいいか……あぁもう!あの時、文人くんを止めておけばよかったんだわ……」
あのあと、茜は文人の携帯を使って文人の母、洋子を呼び出し、その途中で合流した茜の母親の百合子の計らいもあり、文人は茜の父の運転で病院へと向かった。
しかし、茜はその車には乗せてもらえず、神社に取り残され、母の百合子にこっぴどく
「おばさん……茜も反省していますし……それに僕も茜を止めきれなかったですし……本当にすみません」
しっかりものの陸が茜を
「まぁ……子供たちで行くのは今年初めてだったしね……来年ももし、みんなだけで行くならちゃんとこうならないように気をつけること」
陸の一声で百合子の説教も落ち着いたようだった。
【数日後】
「陸、この前は
いつもの公園に陸を呼び出した茜。
「べつにいいよ。文人も元気になったんだし気にするなよ」
「……ありがとう……陸」
「なぁ……茜?それよりさ……来年は二人で行ってみないか?」
陸は顔を赤らめながら言った。
「えっ……?誰と?文人と、陸が?まぁ、二人がそうしたいなら別にいいけど」
陸は茜が勘違いをして不満そうな口調に変わっているのをすぐに感じとった。
「えっ、と。やっぱり来年も三人で行こうかな」
陸の茜への想いが実るのはまだまだ先の事である。
「あっ!文人~!」
茜は『待っていたよ~!』と言わんばかりに文人に手を振り、出迎える。
文人は照れくさそうに小さく手を振って二人の待つ場所へ歩みを進めた。
「今日って文人も呼んでたんだ?」
茜から呼ばれたのが自分だけだと思っていた陸は少し残念そうに話す。
「当たり前でしょ?あのお祭りの日から三人で会ってないんだし……」
「そうだよな……」
文人が体調を崩している間は茜と二人で会って独占しているような気持ちになっていたこともあり複雑な心境の陸だった。
「お待たせ」
久しぶりに会うこともあってか
「この前と違って元気そうじゃん!!ところで……陸の前であれなんだけど……この前のこと覚えてるよね?」
「う~ん。何かあの夜のことあんまり覚えてないんだよね。茜を探してたとかはハッキリと覚えてるんだけど……」
「えっ!?嘘でしょ!?あのことも忘れちゃったの…?」
「あのこと……?茜に謝ったことぐらいしか……」
「……もういい。陸、早くなにで遊ぶか決めて」
「えっ!?俺?てか文人とまた何かあった?」
「……もうそんなのどうでもいいの!」
文人はあの時、茜とした約束に関してはすっぽりと忘れているようだった。
【入学式当日】
(あの後お母さんにこっぴどくしかられたなぁ……。まぁ陸のお陰で治まったんだけど。
でも、やっぱり文人はあの時の約束なんてきっと覚えてないよね……
でももしかしたらってことも……
一度あの時のこと覚えてるかちゃんと聞いてみるのも言いのかも?)
茜は夕日にて光り輝く池を眺めながら考えていた。
そんな時……
〈ざわざわ〉
茂みがなびく音が茜の耳に届いた。
「キャッ!」
驚いた表情ですぐさま立ち上がり、左手を胸付近に当て、生い茂った茂みの方へ視線を向ける茜。
「……文人?」
茂みの中から出てきたのは今かと待ちわびていた文人だった。
「もう驚かさないでよ……」
涙目だった茜は文人の姿を見て安心したのか「ガラッ」と表情を変えた。
そんな茜の視界に映ったのは「フラフラ」と険しい表情で歩き、自身に近付いてくる文人の姿だった。
「文人!?」
先ほどまでとは比べものにならい様子の文人に驚きを隠せない茜。
「ねぇ、ちょっと!?
文人!
どうしたの!!
顔色すごく悪いじゃん!!」
そう言いながら茜が文人に近付くと同時に、茜の胸にもたれ掛かるようにして文人は倒れ込んだ。
そんな文人の全身は小刻みに激しく震え、呼吸もかなり荒く何かに怯(おび)えているような様子だった。
【数十分前】
「茜~!茜~!」
変わらず、必死に境内を探し回る文人。茜に関して引っ掛かっていることがあるにも関わらず、それが何なのか思い出せないでいた。
(しかし、ここって…いつも行く神社に似てるなぁ…)
文人もここの神社の独特の雰囲気を懐かしんでいた。
それもそのはず。
文人たちが毎年のように夏祭りの開催に合わせて訪れていた、近所にある神社の総本社がここに当たるためだ。
〈ピキッ!〉
それは突然訪れた。
「うっ!??」
文人はこれまでに挙げたことのないうめき声を挙げた。
そして直後にその場に
(……なんだ……これ……物凄く痛い……走りすぎたからか……)
そう思いながら文人は頭を抱える。
痛みは治まるどころか徐々に激しさを増して激痛にと変わっていった。
「……か……わ……に」
強い激痛が文人の頭を止めどなく
(……な……なんだこれ?)
「……ま……だ……の……に」
「……こ……れ……た……のに」
「……ん……で……まう……て」
(……誰だ?……な……何を言ってるんだ?)
文人の耳にはぼんやりと複数人の声が立て続けに聞こえてきていた。
その声はノイズが入ったかのようにハッキリと聞こえず、頭痛も変わらずどんどん激しさを増していた。
文人は全身から汗が滲(にじ)み出て、土の上で転げ回るような動きを何度も繰り返していた。
……そして。
いつしか文人はあまりの痛みに耐えきれずに意識が飛んでいた。
【予告】
謎の激痛に苦しむ文人。
そんな中、聞こえてきた謎の複数人の声……。
この声の正体が物語を大きく変えることに……
次回【(19)タイムリープした理由】
作品史上最大の急展開!!!
物語は一気にクライマックスへ加速する。
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