第53話 深層世界

「ぐっ!!」



俺は黒紋印を盾に変化させ、真っ向から受け止める。しかしその威力は先程までの比ではなく、俺が立っている地面ごと陥没していく。


なんとか盾をずらして攻撃を弾くことができたが、蹴りが俺の腹部に突き刺さる。


そのまま吹き飛ばされるが、迎撃するかのように吹き飛ばされた俺の後を追って剣を振るう。


態勢を立て直し、こちらも剣を出して対抗するがやはり一刀流では四刀流には敵わない。凌ぐことはできるが防ぎきれない太刀筋が俺の体を切り刻んでいく。


このままじゃジリ貧だ……!

しかし態勢を立て直す隙も武器を切り替える隙も与えてくれない。



「クソったれ!! 『黒閃・乱舞』!!」



隙を作るために斬撃を近距離で放ちまくるがことごとく塞がれていく。それどころか斬撃全てをいなしながら反撃してくる。



俺もなかなかのチート野郎だが、俺以上のチート野郎に進化するとは思わなかった…!



少しの思案が仇になってしまったのか、気をそらした瞬間に剣を弾かれてしまう。



「しまっ……!」



盾を発動しようとした時にはもう遅い。四連撃をまともに直撃し、一本の剣が俺の胸を貫いた。



「くそっ……!!」



力が入らなくなりそのまま地面に倒れ伏してしまう。







マジか……俺、死ぬのか?


いや、まだだ!!

まだ何も守れちゃいねぇ……!!


だからまだ死ねない!!

俺が死ねばバルカンとレーネさん、そして炎竜王が死ぬ……!


現に今、バルカン達に向けて足を進めている…!!


そしてあの呪いもそのまま消えるかわからない。

もし消えずにあんなものが野放しになったら、パンドラ、フィリア、ネアも危ない……!!



だから…まだ……死ねないんだ……!!



















すると視界が真っ暗に染まる。















気づけば真っ黒な世界の中にいた。










「ここは……? さっきまで祠の中にいたんだが……えっ!?まさかマジで死んだのか!?」


何この真っ黒な世界!?これが地獄って奴か!?



『まだ死んじゃいねーよ。ちょっと話をするために精神世界に呼び寄せただけだ』



急に話しかけられたと思ったら、俺の目の前に男が現れた。



そいつは俺よりも大きく翼が生え、手には俺の黒紋印と同じような紋様がある。顔は……堅気の顔じゃねーな。顔に傷が入って厳つく見える。



というか精神世界ってなんだ?

そしてこいつは誰だ?

っていうか俺はどうなったんだ?

聞きたいことが溢れかえってくる。



『自己紹介が遅れたな。俺は魔王のライザーだ。よろしくな、魔王よ』


「初代魔王!?それって何年前の魔王だよ!?なんでまだ生きてるんだよ!?」



新しく増えた情報に頭がパンクしそうになる。どこかわからん場所で初代魔王と名乗る奴にいきなり訳の分からんことを言われるんだ。これ俺絶対死んでるだろ。



『話は最後まで聞け。まずお前は死んでいない。死にそうだったから魂だけここに呼び寄せたんだ。ここから戻れば生き返るよ』


「今、生き返るって言ったじゃん!?俺今死んでるじゃん!?」


『ああ言えばこう言う奴だな…死んでねーよ…多分』


「多分って何だよ!?」





その後も10分ほど死んだ死んでない論争が続いた……





『あっ、時間結構経ったじゃねーか!?おら座れ!!さっさと説明しなきゃ時間ねーんだよ!!』



初代魔王もといライザーが無理矢理俺をその場に座らせてきた。



『いいか、一回しか言わねーからよく聞け。お前が今戦っている奴は、俺が生きていた時代に人間達が俺を倒すために発動した魔術の成れの果てだ』



今、とんでもない事実をさらっと聞かされた気がする。えっ?じゃあこれお前のせい?



『俺のせいじゃねーよ。俺は平和に過ごしたかったんだ。でもその時代人間は資源が欲しくて仕方なかったらしいんだよ。だから俺を倒して資源を奪おうって考えた訳だ』



なんか歴史的な背景が関わってきた気がする。じゃあなんでその呪いを前クソ魔王が使えたんだ?




『そして俺はなんとか暴発した魔術を6の道具に変えて封印したんだよ。だが長年封印されていたせいで呪いに姿を変えたらしいがな』



「ちょっと待て!?またさらっと流したが道具に変えて封印しただと!?しかもあんな強い奴があと5つもあるってことか!?」



『ああ。だが今みたいに戦わなくていい。誰よりも早く呪いの道具を見つけるだけだからな。運悪くお前の前の魔王が見つけて使ってしまって今の状況になっているがな……』




なんか思っていたより面倒くさい状況になっている気がする。でも状況は理解した。残りの5つの呪いを集めればいいんだな。だが、呪いが発動されれば厄介だということは現在 見に染みるぐらい理解している。


だがこの話を聞かされたところでどうなるんだ?というかなんで俺より前の魔王達にするのではなく、俺に話をするんだ?




『何故かって? お前が歴代最強の魔王だからだよ。今まで見てきたが、お前ほど強く責任感があるやつはいなかった。今までの奴は何かとワガママだったからな。特にお前の前の魔王とか……』



やはり前魔王は特殊なようだ。っていうか俺歴代最強だったの!?責任感は……まぁ、ある方だと思う。



そこでライザーが提案をしてきた。



『そこでだ。俺の力の一部を受け継いでその呪いを払ってくれ。俺はそのために今まで待っていたんだ』


「力を……受け継ぐ?なんだそれ?」



よくわからん提案に俺は首を傾げる。



『お前の右手には黒紋印があるだろ?それは本来右手と左手 2つで1つなんだ。あとひとつは俺の左手にある。これを渡せば俺の役目は終わる』



と、ライザーは左手の黒紋印を見せてくれた。確かに俺と同じような黒紋印だ。



「だが……それを受け取ればライザーは……」


『あぁ、消える。だがもともと死んでるんだ。その状態で何千年待っただろうか?全然受け継ぐに値する奴が出てこねーから退屈で2度ぐらい死にそうだったよ。だからお前が受け継いで早く俺を成仏させろこの野郎』


「えらそうだな!?」



えらそうだが、一人でずっと待ち続けてたんだろう。己の使命を継いでくれる奴を。



「その役目俺が引き継いでやるよ。だからさっさと くたばりやがれ」


『お前もえらそうじゃねーか。でもまぁ……ありがとよ。これで安心して眠れるよ』



するとライザーの黒紋印が浮かび上がり、俺の左手に巻き付いた。



『それで完了だ。じゃあな。使い方はわかるだろ?それ使って大切なものを守ってやりな』



そう言ってライザーは消えて行っ…………



「あっ、ちょっと待ってくれ!!」



俺が呼び止めたので、ライザーがズッコケながら再び現れる。



『んだよ!?今は感動の別れのシーンだろが!?もう特に用事ねーだろ!?』


「いや、呪いを解けって言うけどどうやって呪いを解くか聞いてなかったからな」


『あ〜、そういやそうだな。道具に変わっている呪いは触れると、今みたいに実体化してる呪いは倒すとボールのような形に変わる』



なんだ、今は特例なだけで触るだけでいいのか。それなら楽だがその先はどうするんだ?



『そしてボールのようになった呪いを食えば払える』


「はっ?」



思わず間抜けな声が出た。

えっ?食うの?呪いを?



『ああ、お前のスキルはそういうスキルなんだろ?呪いはお前が食うことで払え、なおかつ取り込むことで黒紋印がより強化されるようになる。呪いを食っても体への影響は特に無いぞ』



なるほど。より強くなれるのか……

でも呪いを食うってなんかなぁ……



『ええい!男がガタガタ言うな!見つけて触って戦って食って払え!!それだけだ!じゃあな!!』



といってライザーは消えようとしていた。

なんやかんや雑な奴だが、気分を紛らわしたり、今まさに戦っている俺を助けてくれたのだろう。だから…



「ありがとう。達者でな」




笑顔で送り出してやろうと思う。




『…! ああ』



ライザーも呆気にとられたような表情をしたが、笑って返してくれた。







そして姿が見えなくなった時、俺は再び激戦の地へ戻ってきた。







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