第47話 温泉


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




俺は今全力で走っている。いや、走らされている。



それは何故か?



真ん中辺りまで走った頃、溶岩が分断されてできた道が後方から順に閉じてきているからだ。

さらに扉も少しずつ閉まってきている。



このままでは扉にたどり着く前に溶岩に呑み込まれて蒸発確定だし、扉が閉まりきってしまっても逃げ場無くゲームオーバーだ。



というわけで俺は今がむしゃらに走っている。今の俺は100メートルを4秒で走れるだろう。



こういうのって普通水が迫ってくるとかじゃないの!?なんでよりにもよって溶岩なんだよ!!初めからこんなギミック作んなや!!



翼を使いたいがうまく使えない上にどのくらいの速度が出るのかもわからないから却下だ。そんなことを考えているうちに扉が目前まで迫ってきた。



しかし溶岩も俺の真後ろまで迫ってきている。




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




俺は最後の力を振り絞って加速し、あとほんのわずかな扉の隙間をくぐり抜けた。と、同時に扉は完全に閉まり切る。



危機一髪とはまさにこの状況のことを言うのだろう…

俺は生き延びた達成感を感じながらその場に座り込んだ。



「助かった……死ぬかと思った……」



いや、マジで今までで一番死ぬんじゃないかと思った。Gと激戦を繰り広げた時以来だよ、こんな気持ち……



「しっかし、ここはどこなんだ?勢いで入ってしまったが、閉じ込められて出られないってオチじゃないよな?」



そう、新たに発生した問題は「俺、閉じ込められたんじゃね?」問題だ。


中は洞窟のようだが結構明るく程よく広い。そしてなんか変な匂いがする。


まさか毒ガスとかじゃないよな?でもこの匂いどこかで嗅いだことがあるんだよな〜?


どのみち戻ることができず真っ直ぐ進むことしかできないので進んで行こうと思う。匂いの正体も気になるしな。


なんか今日洞窟探検ばっかりしてると思う……



少し進むと道が途切れ、目の前には岩で出来た壁があるだけだった。まさかの行き止まりである。




「嘘だろ!?行き止まりとか俺閉じ込められた確定じゃん!!」



「さぁどうしよう」という気持ちより「ここから出られない」という気持ちの方が強いため、俺は本当に焦っていた。




「誰かぁぁぁぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!」




俺はドンドンと目の前の壁を叩く。今だけは魔王だからとか関係ない。恥も外聞も捨てて必死に助けを叫ばないと餓死してしまう。冗談抜きでヤバい。



ひたすら叩き続けたからだろうか、パラパラと小石が崩れ土煙が少し上がる。さらに極限状況に陥っていることで自分の感覚が研ぎ澄まされる。




そして気づく。目の前の壁と左右の壁では叩いた時の感触が違うと。




左右の壁は叩いた時質量がある感じがするが、目の前の壁は叩いた時わずかだが音が反響しているように感じる。


ということは目の前の壁の裏側には空洞があるということだ!!


俺の心には「希望」の2文字が浮かぶ。そうと決まれば行動は早い。



俺は拳に力を込める。それに呼応するかのように黒紋印が唸り、俺の腕を中心に回転し始める。



あとは壁を殴りつけるだけ。そして俺の頭の中には

必殺技名が浮かんでいる。それを叫びながら俺は振りかぶった。




『黒旋風』




俺の手を振ると同時に射線上に黒い竜巻のような衝撃波が前方に向かって吹き荒れる。衝撃波は目の前の壁をぶち破り、吹き抜けていった。


そして壁の奥にはやはり隠し通路があった。しかし今は通路を見つけたことよりも、自分が放った技に対しての気持ちのほうが強かった。




……めっちゃかっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!




何今の黒い竜巻!?パンチ売ったら出てきたんだけど!?俺最強じゃね!?閉じ込められていたことが印象薄くなるくらい衝撃的なんだが!



そのあと10分ほど自分の手を眺めながらその場で妄想を膨らましていた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「さて、そろそろ移動するか」



もうちょいで本来の目的の趣旨が変わるところだった。俺は誰も足を踏み入れたことがないであろう先を目指した。


5分ほど歩いただろうか?どこか知っているような匂いが強くなり、天井から光が差し込んでくる大きな広場に到着した。


そして、その場に到着して初めてその匂いの正体を知ることができた。


大きな池から湯気が上がっている。そう、天然温泉があったのだ。この知っているような匂いは硫黄、硫化水素の匂いだった。



っていうか危なっ!?あのまま嗅ぎ続けてたらコロっと死んでたかもしれないじゃん!?



今は天井の切れ目から一応換気はされているが、湯気が濃くてなかなか前が見えない。ゆっくりと一歩ずつ前へ進み、お湯の温度を確かめたところ適温である。




ではどうするか?浸かるしかないだろう!!




しかし服を脱ごうにも翼が邪魔だ。そんなことを考えていると翼がしゅるっと引っ込んだ。俺はびっくりして翼を出すイメージを思い浮かべると、ぴょこっと背中から生えてきた。



まさかの翼収納機能付きである。俺の体の生態どうなってんだ……と真剣に考えた。



だがとりあえずこれで問題が解決した!!俺は服を脱ぎ捨て湯船につかる。



「あぁぁぁ…さいこぉぉぉぉぉぉ……」




なんとも情けない声が出たが気にしない。温泉が気持ちよすぎるからいけないのだ。


マジでここに住みたいぐらい最高の気分だ。ここは溶岩も無いし、天井からの光が幻想的でまさに秘境といった感じだな。



まるでスライムのように溶けそうになるほどリラックスしている。しかし俺は微動だに動いてないのに水面が動いたように見えた。


まさかこんな場所に魔物でもいるのか?と一瞬身構えたが、出てきた存在は俺の予想を遥かに超えていた。




「あん?誰かいるのか?」




声は目の前から聞こえ、湯気を掻き分けるように奥からスタイルの良い女性が歩いてきた。






しかも全裸で。











〈その頃、魔王城〉


ネア 「なんか今嫌な予感がしたっす!!」

パンドラ 「えぇ…どこからかゴリラの波動が…」

フィリア 「なにそれ〜〜?」

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