第25話 楽しいBBQになりました

「ふぅぅ、よし、直ったよ!」


セリルのファイアで穴の空いた家の壁はフランの魔法で修復された。


「すごいな、人だけでなく、物まで回復させることができるのか」


ヤヨイが直った壁の手触りを確認している。


「うん、一応ね。 バラバラになったものを元の形に戻すくらいならできるよ」


「ケーキや食べ物は元に戻るのか?」


「うーん……」


フランが吹き飛んだテーブルのあった場所を眺める。


「ファイアで飛んで行っちゃってるから、ここにあった食べ物は無理かな……ゴメンね」


「食べ物はそう簡単に再生できないものだよな……」

クリーナも持ってきたケーキが吹き飛んで残念そうだ。


セリルは肩を落とす。


「ごめんなさい……」


泣き出しそうな顔で俺に謝ってきた。


「いいよ、セリル。 俺のためにやろうとしてくれて失敗しちゃったんだもんな」


セリルの頭を撫でてやった。


「セリル、でも、お家で魔法は使っちゃダメよ、ちゃんとコントロールできないと次はもっと大変なことになっちゃうかもしれないからね」


散らかった部屋を片付けながらナイナがセリルに優しく注意した。


「はい……」


思った以上に落ち込んでる、かわいそうだけど、家壊したりするのは危ないからな。

普通のテイマーだってモンスターに時には厳しくしないといけないことはあるんだ、セリルは子供だし、テイマーとしても、大人としても言うときはビシッとしなきゃだ!


「セリル……元気出して」


フランが慰めてるが、セリルはとうとう泣き出した。


「うぇぇぇぇん……ごめんなさぁぁぁい」


「セ、セリル、次な、次から気をつければいいだけなんだから何も泣くような事じゃないよ!」


どうしよう、こんな小さい子だけど、女の子が泣いてるのって苦手だ……


「ふっ、あんなすごい魔法が使えても、まだ子供なんだな」


ヤヨイ……! フォローしてやってくれ……

何、呑気にお茶を飲んでるんだっ!


ナイナがセリルの頭を撫でる。

「あらあらセリル、反省してるのね……」


そういうと、ナイナは魔導石を床に置き、魔力をため出した。


「ナイナおねぇちゃん何を始めるの?」


フランの質問にナイナは笑顔で答える。


「ご飯無くなっちゃったでしょ、せっかくだから私の最新作でもどうかなと思って」


ナイナの溜めた魔力が手元に集まってキラキラと輝く。

いつ見てもこの姿は綺麗だ。

絆報酬でメインスキルを向上させてからは、より輝きが増して綺麗に感じる。


ナイナが手に集めた魔力を魔導石に飛ばした。


魔力を受けた魔導石が光だし、次第に光が魔導石を離れ浮かび上がる。



「すごーい」


幻想的なナイナのファーマーの能力にフランが見惚れてる。


「きれい……」


泣いていたセリルも見惚れて、泣くのをやめた。



「よいしょ」


ナイナの掛け声とともに光が収縮し形が見えてきた。


「おぉ! こりゃすごい!」


クリーナが見えてきた食材に歓喜の声を上げた。


見えてきたのは骨つきの巨大な肉だ。


吹き飛ばされたテーブルくらいのサイズはある、特大サイズだ……

脂のノリも素晴らしく、艶やかな肉質も相まって光沢を帯びて見える。


「見てるだけでよだれが出てくる……なんて旨そうな肉なんだ」


クリーナがワクワクしている、商売人の血が騒いでるのかもしれない。


「確かにいい質の肉だが、こんなでかいのをどうやって調理するんだ?」


ヤヨイの指摘を聞いて、ナイナはセリルの肩に手を置いた。


「ここはセリルに頑張って貰おうと思います」




ナイナに、言われみんなで家の外に出た。


ナイナ、セリルに何をさせるつもりだ……?



「準備できたぞ!」


ヤヨイとクリーナが肉を鉄製の物干し竿に吊るした。

これで下から薪とかで火を起こせばジューシーな焼肉が完成だろうけど。


ナイナ、セリルに何かさせようとしてるってことは、まさか……


「ロジカさん、セリルに挽回のチャンスを上げなきゃですよ」


やっぱりそう言うことか……


セリルも反省してるだろうし、ここは勉強のためにもやってもらうか。


「セリル、魔法でこの肉を焼けるか?」


「えっ……」


セリルは目を丸くした。

この肉を眺めて、一応確認はしている。


「この大きさの肉に火を通すなら、弱い火力をしばらく出し続けないといけないから難しいぞ」


クリーナはセリルに本当にできるのな不安そうだ。


「セリル、何事も挑戦だ、失敗を次の成功に繋げるんだ」


ヤヨイがセリルの背中を押した。


「うん、やってみるね……」


セリルは不安そうだけど、挑戦することにしたみたいだ。




セリルは肉の前に立ち、祈るようなポーズをとった。


「抑えて、長く、抑えて、長く……」


出す炎のイメージを唱えている。


「頑張れセリル」


そう言っているフランはちょっと不安そうだ。



「ファイア……やさーしく、やさーしくだよ!」


ちょっと肩の力が抜けるような詠唱だが肉の手前に魔法陣が浮き上がってきた。


家の中で見たファイアの魔法陣とは違って色が薄い。

威力をセーブしてるからなのか……



ただ、魔法陣からは炎がでてこない、失敗か?


「セリル、このままだよ、頑張れ!」


このまま? この状態でいいのか?

何もでてないぞ……


魔法陣だけが肉の手前に現れてはいるが、火の粉すらでていない。


「いい匂いだ……」


クリーナが目を閉じて、何か感じているようだ。


そういえば、肉に焼き色がつきはじめている。

徐々に肉の焼けるような音も聞こえてきた。


俺にとってほのかに香ばしい肉の匂いがわかってきた。


まさか、熱量を魔法陣にだけ伝えて、それで肉に熱を伝えてるのか……


「すごい魔力のコントロールだ……魔法陣に温度を乗せるなんて聞いたことない……」


「さすが私と毎日お茶を飲んで精神力を鍛えてるだけのことはあるな」



しばらく、炎の出ない魔法陣は肉に火を通して続け、全体に焼き色を付けた。


「ふぅ……もういい? おいしそうにできたと思うけど」


長いこと繊細な魔力のコントロールをして、セリルはヘトヘトだった。


「完璧だ! 良い肉にいい焼き加減、私はもう我慢できないぞ!」


クリーナが今にも肉にかぶりつきそうだ。

「じゃあ早速食べはじめましょう」


俺をお祝いするはずのパーティはいつの間にかバーベキューに変わってた。


「おいし〜、ナイナもセリルもすごーい!」


フランは肉の旨さにほっぺをおさえて、感動してる。


確かにこんな旨い肉食べたことない、上品でしっかり肉に火も通っていて、かと言ってジューシーさも失われていない。


「なんて物を作ってくれるんだ……チクショウ!」

クリーナは旨すぎて、食べながら泣き出していた。


「セリル上出来だ、これでもうさっきのミスは帳消しだな」


「うん!」


ヤヨイとセリルはやっぱり仲がいい、ヤヨイって結構いい姉さんタイプなのかな。


旨い肉を食べて、セリルに元気が戻ってきた。



「セリルすごかったね、あんな魔力のコントロール私にできるのかな」


「フランもヤヨイおねぇちゃんとお茶を飲んでるとできるようになるよ! すごいんだからヤヨイおねぇちゃんは」


「ナイナおねぇちゃんだってすごいよ、私もみんながびっくりさせられるようなことできるんだから」


今度はフランが何か意地になってきてる……


フランが急に魔力を貯めだした。


あれはフラン、ライトニングを使う気だ。


しかもこのまま使えば家に直撃する向きだ。

法力河童に使ったライトニングを考えると、ここで使われたら家が崩壊する。


「待てフランこの向きで魔法はつかうな!」


意地になってるフランには俺の声が届かなかった……



「ライトニング、いーっぱい出てきて!」


「やめろぉー!」


身体が魔法陣の方に向かっていっていた。



「えっ!? ロジカおにいちゃん?」


フランが気づいた頃には俺は魔法陣の目の前だった。


魔法陣からものすごい光が放たれた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


眩い光が昼にもかかわらず、辺り一面を照らし、眩しさで何も見えなくなった。



ゲフッ……


まともにフランの魔法をくらってしまった……



光が収まり、フランの姿が見えてきた。


「こら、フラン! 家の方を向いて魔法はダメだ!」



「ロジカおにいちゃん……」


俺の説教も聞かずにフランは俺を不思議そうに見てる。


「私の魔法全然効いてないの……?」


あれ……?



「なかなかのライトニングの爆発だったぞ……さすが頑丈だな、ロジカ……」


はぁ? ライトニングの爆発?


確かすごい眩しかったけど……

そういえば俺、無傷だ……



「ロジカさん、やっぱり大丈夫でしたね……」


大丈夫といいながら、ナイナはちょっと引いてる。


俺、いつの間にこんな頑丈になったんだ?

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