第7話 またクエストへ向かいます

いやぁ極楽だ。


でかい家に山盛りのフルーツ、これが全部俺のものなんて夢のようだ。


ナイナのジョブであるファーマーは本来なら魔力を使って楽に農業をすることができるものらしい。ただ運良くヤヨイが手に入れていた魔導石の産み出す力を利用すると種がなくても野菜を作ることができた。

しかも技術次第では肉や乳製品まで産み出せるようになるみたいだ。


ナイナの作ってくれた野菜やフルーツは抜群の美味さだ、この力で肉なんてができたらとんでもなく旨いものができるんじゃないか。想像するだけでヨダレが出てくる。


「あぁぁぁぁぁ〜!!」


家中に響き渡るくらいの大きい悲鳴が聞こえてきた。


「何やってるんですかヤヨイ!」


悲鳴はナイナだったようだ。またヤヨイと言い争いしてるのか……


思い立ったら何でも実践しないと気がすまないヤヨイと、慎重で臆病なナイナとでは考えにズレがあるのはしょうがないか……


「ねぇロジカさん、ヤヨイが魔導石を壊そうとするんです!」


俺の下までナイナが魔導石を大事そうに握りしめてやってきた。


「魔導石を? さすがにヤヨイでもそんなもったいないことはしないでしょ」


「当たり前だ、私はただこんな便利なものが2つあればもっと便利だろうと思って分割しようとしただけだ」


持ち前の刀を持ってヤヨイもやってきた。


「まさか、その刀で魔導石を2つにするつもりだったのか?」


「ああ、何か間違ってるか?」


なんの迷いもなさそうにヤヨイは返事する。


「大間違いです!」


ナイナが珍しく声を荒げた。


「魔導石はこの形で魔力が形成されているんで、切ったり、割ったりしたらただの石になってしまいます!」


「そんなのやってみないとわからないだろ」


「分かるから言ってるんです!」


「大丈夫、私ならできる」

そう言いながら刀を鞘から抜き出した。


「待て待て待て! ヤヨイ早まるなよ! 万が一魔導石が使えなくなったら美味しい野菜が食えなくなるんだぞ!」


「うっ……それは困る、でも私ならできるはず」


「誰がやっても無理なものは無理です! もう一つ必要ならまたクエストにでも行って持ってきてください」


あ、そうかナイナの言う通りだ、またクエストに行けばいいのか、でもあんな臨時クエストで出てきたモンスターに簡単に会えるのか? そもそもレアドロップアイテムだろうし……


「そうか、それはいい! じゃあみんなでクエストに行くぞ!」


クエストと聞いてヤヨイの目が輝いた。

こうなったヤヨイはタチが悪い、言い出して止まらなさそうだ……


あっでも、クエストを受けるにも街に行く方法がわからない。


王の城から馬車で急に降ろされたからここがどこらへんかもわからないし。


「ヤヨイ、俺ら街への行きかたわからないだろ? クエストを受けたくても受けれない」


「そうか……ここから街への行きかたがわからないんだった……じゃあやっぱりこの石を斬るしかないか」


ナイナが魔導石をかばうようにヤヨイに背を向ける。

「この魔導石はダメです! 街へはここをまっすぐ行けば着くはずです」


ナイナの示した先にはここからじゃ街の景色は見えないが木々が生い茂っている様子が見える、この先が街だったのか。


ナイナは王から言われてここに来たんだしここの場所はわかって当然か。



◆◇◆



ヤヨイの強引な押しで街の集会所まで来ることになってしまった。


思っていたよりも遠い……ヤヨイに連れられて毎回来るのも大変だ……


ナイナはクエストは絶対に無理だと言い着いてこなかった。

俺もそうすればよかったかな……


クエストを受けるのは百歩譲っていいとして、ヤヨイのことだからまた無茶なクエストを受けようとするのが嫌なんだよな……


ヤヨイが強くても俺は強くないから襲われた時ひとたまりもない、ヤヨイが護ってくれるとは思えないしなぁ……


「ロジカ! 早速クエストの受付だ!」


散歩前の犬のようにヤヨイがはしゃいでいる。


「おい、アイツら王から褒美を受けた奴等だぞ」


「また来たのか、クエスト前に受付と喧嘩してたって話だ、見た目はともかくやばい奴等だ」


なんだか視線を感じる……

どうやらこの前の件でちょっとした有名人になっていたらしいな。


集会所の視線が一気に俺達に集まってきた。


「な、なんだ? ロジカ、私達は何かしたのか?」


「ヤヨイがオーガゴブリンを倒したからだよ、みんな俺らのこと知ってるんだろ」


こんなに注目されてるんじゃ居づらいな、これならさっさとクエストに行った方がマシか。


視線を掻い潜って受付に向かい話しかける。


「早くクエストに行きたいんだ、何か良いのはありますか?」


前と同じ人だ、この人も俺の事にすぐ気付いた。


「あぁ、また来たんですね! 貴方達評判ですよ、突然現れたクエスト荒らしってね」


なんだクエスト荒らしって……

悪いのはランク外のモンスターを出したクエスト運営の方だろ……

まぁそんなこと言ってる場合じゃないか……


チラッと俺に向く視線の方に目を向けた。

この剣幕じゃここに居づらいってこと受付もわかってくれるだろ、ってヤヨイが集会所の奴等にめちゃくちゃ質問されてる!? しかも嬉しそうだ……

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