第3話 女の子をテイムしてみました
集会所の見知らぬ見習い剣士の女とクエストを受ける事になった。
しかも一番初級のFではなくEクラス……
この女は名前はヤヨイというらしい。
クエストを受ける事になってからは強引にクエストも決められて、よく分からぬまま草原のフィールドに辿り着いた。
すごくのどかでピクニックにでもよさそうな場所だ、うさぎやヤギ、牛などの草食動物ものんびりとくらしている。
ヤヨイは討伐クエストを希望していたみたいだが……こんなところに討伐するようなモンスターがいるのかな?
「あんたはずいぶん変わった奴だな! そのお陰で助かった、ありがとな」
ヤヨイは俺とはここでお別れだと言わんばかりにスタスタと歩きだした。
「ちょっと、待てよ!」
「なんだ、何か用か?」
「「何か用か」じゃないだろ! 2人で受けるからクエストを許可されたんだ、2人でいないのはおかしいだろ!」
「そんなのはどうでもいい、クエストさえ受けられればあんたに用はない」
なんかハッキリ言ってくる奴だなぁ……
こちらを振り向かず辺りを見渡しながらヤヨイは歩き続ける。
離されるわけにはいかないから俺はヤヨイの後をつけていった。
「なんでそんなにEクラスのクエストを受けたかったんだ?」
「別にEクラスがよかったわけじゃない、強いモンスターと戦えればそれでいいんだ」
「ひとりで? 仲間はいないのか?」
ヤヨイは立ち止まって振り返り、俺を睨みつけた。
「何でも答えると思うな、失礼な奴だな」
「……っ、ごめん……」
思わぬ地雷を踏んでしまったらしい、なんだか、難しい奴だ……
「いた!」
ヤヨイが突然走りだす。 その先にはスライムがいる。
青色のゼリー状でブヨブヨしたFクラスにもいる最弱のモンスターだ、さすがにスライムくらいは問題ないだろ……
ヤヨイが刀を鞘から取り出してスライムに振り下ろす。
大きな風を斬る音をたて、刀が地面に突き刺さった。
あれ……? 剣術なんてやってない俺でも一目でわかるくらい荒っぽい素人の剣さばきだ……
「躱したか、すばやい奴め」
スライムは動いていない、今のは単純に当たらなかっただけだろ……
今度はスライムがヤヨイに向けて体当たりをしてきた。
スライムの体が腹部にぶつかり、ヤヨイは倒れ込んだ。
「キャー! 離れろっ!」
ヤヨイはパニックになりスライムと一緒にジタバタしてる……
何やってるんだ……俺は呆れながらヤヨイにまとわりつくスライムを振り払った。
「助かった……手強い奴だ」
ヤヨイはそう言いながら急いで立ち上がりスライムに向かって刀を構えた。
受付がEクラスのクエストを一人で行かせない理由がわかった。かわいそうだけどこれじゃFクラスだって難しいだろ……
スライムなんて俺ですら倒せるモンスターだ……
ちなみにさっきからスライムに対してはサーチウィンドウは表示されない。ヤヨイにはずっとでてるのに……やっぱり俺のジョブは何かおかしい……
ヤヨイはバタバタとじゃれ合うようにスライムと戦っている。
「てりぁー」
謎の掛け声と共にヤヨイはスライムを倒した。
ゼェゼェと肩で呼吸しながら、勝利の余韻に浸っている
。
「お疲れ様」
一応労いの言葉をかけたが、俺のことなんて気にかけずにまた別のモンスターを探しに歩き始めた。
「ちょっと休んでもいいんじゃ?」
いくらスライム相手だったとしても、かなり疲労してるように見える、このまま強敵にでもあったら……
「「あっ!」」
俺とヤヨイ同時だった、スライムを始めゴブリンなどの低ランクモンスターが一斉にこっちに向かってきた。
「えっ、何よこれ、私がスライムを倒したせい?」
数にしたら100くらいはいるんじゃないかという、モンスターの大群にヤヨイは怯んでる。
ただモンスターの様子がおかしい……俺らに向かってきてるというより何かから逃げているような……
大群の奥に別のモンスターが見えた。
「まずい、オーガゴブリンだ!」
こいつはヤバい、オーガゴブリンはCランクのモンスターだ。
Fですらギリギリのヤヨイと一緒にCランクモンスターなんてとてもじゃないけど倒せないぞ……
「よし、次はこいつだ……」
ヤヨイはオーガゴブリンに向かって走りだした。
とっさに俺はヤヨイの手を掴んで進むのを止めさせた。
「邪魔をするな!」
「邪魔じゃない! スライムにすら苦戦するような奴が敵う相手じゃないだろ!」
「やって見なければわからない!」
「さすがにこれは無茶すぎる! 行かせられない!」
確実に殺されるのを見て見ぬ振りはできない……
ただここで止めていてもオーガゴブリンがこちらに向かってきてる……どうする……
《テイム可能です、テイムしますか?》
頭の中から声がした。またヤヨイへのメッセージだ……
もしかして、ここでヤヨイをテイムしまえば素直にこの場は逃げられるか?
「テイムする!」
考えてる暇はない……藁をも掴む気持ちだ。
《ヤヨイをテイムしました》
もう終わったのか? 俺もヤヨイも特に何か変化したようには感じない。
そう思った矢先、ヤヨイに対してのサーチウィンドウに文字が表示された。
→ 《命令する》
《全力で攻める》
《セーブして戦う》
《守りながら戦う》
なんだこれ、ヤヨイに対する命令ってことか……
律儀に矢印までついて……
戦うことばっかりじゃないか……逃げるには……
→《命令する》
命令するを選択した。
これで命令すれば従うのか……?
「ヤヨイ、逃げるぞ!」
「断る!」
「えっ……」
……全然ダメじゃないか……ほんとにテイムできたのか?
命令は聞いてくれないとしたら……
「なんだ雑魚が二匹もいるのじゃないか!」
しまった、オーガゴブリンが間近まできてしまっていた。
→《全力で攻める》
あっ、間違って一番選びたくないやつを決定してしまった。
あれ、今まで目の前にいたヤヨイが消えた……
「グフフフフ、貴様俺に挑むつもりか!」
「もちろんだ、お前には負けない」
なんで普通に会話してるんだ!? 負けないって勝てる訳ないだろ……会話ができるモンスターなんだからここは話して見逃してもらうべきだ。
「待て! 俺らは戦う気はない!」
ヤヨイがオーガゴブリンに向かって行っていた。
ただ今消えたように見えたけど気のせいか?
オーガゴブリンは魔力は低いが、力と素早さが高く、耐久力も高いやっかいなモンスターだ。
こんな強敵にどう挑むんだよ……
ヤヨイが刀を上段に構えて向かっていく、それに対抗するようにオーガゴブリンも持っている棍棒を振り上げた。
見てられなかった。
ヤヨイはあの棍棒に潰されてメタメタにされてしまうだろう……
そしてその後には俺の番か……
なんでこんな目に会うんだ……俺はさっきのスライムをテイムできる程度で満足だったんだ……
なんで、こんな強敵に遭遇してるんだよ、そもそもここはEクラスのクエストなのに、どうしてCクラスのモンスターが出てくるんだよ……
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
あれ、ヤヨイの声がする。
「あっ!?」
オーガゴブリンの胸元にはヤヨイがつけたであろう、斬撃の跡が深く刻まれている。
「まさか……この俺様が……こんな小娘に……」
ドスンと大きな音を立ててオーガゴブリンは前のめりに倒れた。
にわかには信じられないられないことだった。
「まさか……ヤヨイが倒したのか?」
「何を言ってる、当たり前だ」
ありえない……偶然で起こるようなことじゃないぞ、スライムに苦戦してた奴がオーガゴブリンを倒すなんて……
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