第4話
「アンドレ!
この、大馬鹿者が!」
現れたのは、時間通りに入場の準備をしていた、国主アンリ三世だった。
侍従にホールでの息子の振る舞いを知らされ、急いでやって来たのである。
「父上!
何を言っているのですか。
メイド風情の言うことなど...」
「そうですよぉ~、王さまぁ
アンドレさまが、五つの国を統べるって決まってるのにぃ~
悪役令嬢のオマケが何を言っても、ムダでしょー
バッカみたい~ キャハハハー」
アンドレの腕にぶら下がりながら、金髪桃目がケラケラと笑う。
玉座に座する間もなく、頭を抱えるアンリ三世に、アンドレは更に言葉を続けようとする。
「ほら、父上、ご覧ください。
私の右手に輝く竜紋...を...... え..?
竜...紋...?...
え!?
竜紋が!...ない??...!」
何度も右手の甲を見直し、擦り、振り、息を吹き掛け、目を近づけ、竜紋を探すアンドレ。
「アンドレさまぁ~
そんなもん、無くたってノラがいれば大丈夫でしょ~お?
早く、悪役令嬢を断罪して、追放して、トゥルーエンドを、迎えましょ~?
これで一生贅沢三昧~~キャハハハハ!」
空気を読まず、相手の顔色も顧みず、金髪桃目がキンキンソプラノで笑い出す。
ホールに集う国内すべての貴族達が、玉座の前で繰り広げられた喜劇に注目している。
これは既に醜聞にすらなり得ない。
アンドレが「婚約破棄」という言葉を口にした時点で、もう結果は決まっていたのだ。
上流貴族達は竜皇女の配偶者がどのように選ばれるかを学んでいる。
自らに王族の血が流れている場合、王族に縁付いて身内に竜紋が現れる場合もあるのだ。
まさか、別腹とはいえ、第2王子がそれを知らないとは有り得ないことであった。
更には、自分が皇位を継ぐなど、学んでいるものからしたら口にも出せない。
アンリ三世が大きくため息をついて立ち上がる。
玉座に着き、ホールを見渡し、視線を元第2王子に向ける。
「アンドレ...
そなたを王族の籍から抜く。
そして、コリエペタル五国からの追放を命じる。」
「!...ち、父上!
どういうことですか!
なぜ、私が!...」
「アンドレ、そなた、国主教育を何と心得ていた?
コリエペタル五国の役割、竜紋、竜皇女さまの伴侶選定、全て学んでいるはずだぞ!
その上で、『婚約破棄』と言う言葉を口にした以上、この決定は覆らぬ。」
アンリ三世は、顔色を悪くしながらも、アンドレ元王子に厳しい視線を向けはっきりと告げる。
「は?
何言ってるの、このオッサン!
逆ハー諦めて、アンドレを攻略したんだから、トゥルーエンドに決まってるでしょ!」
やっと風向きが悪いことに気づいた金髪桃目が国主に噛み付く。
「はぁ...
この娘も同罪。
アンドレと共に身分剥奪、国外追放だ。
引っ立てろ。近衛!」
なにすんのよー!という騒音ソプラノが聞こえなくなり、静けさと貴族的で上品なヒソヒソ話が復活したホール。
玉座のアンリ三世の前には、虹色の扇で口元を隠したクラリスが立っていた。
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