第50話 七不思議には犯人がいる!
「あれ?」
スプリンクラーの作動が止まったので検証を再開しようと思っていたら、不思議なことが起こった。さっきまで揺らめいていなかった学園長像が揺らめいているのである。桜太は目を擦ってよく見てみたが、間違いなく揺らめいている。
「揺れてる?」
林田も寝不足のせいかと目を擦っていたが、現実に揺れているのだと解った。おかげで目をぱちくりと瞬かせる。
「そうか。これも気温差のせいだよ。逃げ水ばかり考えていたけど、銅像のある位置で起こるんだから陽炎が正解だったんだ」
嬉しそうに叫ぶのは楓翔だ。
「陽炎」
すっかり忘れていた夏の風物詩に、莉音はしばし呆然となった。こんな簡単なことに気づかないとはという思いで一杯だ。
「えっ?陽炎がどうして水を撒いただけで起こるんだ?」
原理が解らずに亜塔が訊いた。どうにも生物のことばかりで自然現象には疎いのだ。知識が足りない部分は仲間に教えてもらうというのは、この七不思議解明で何度も経験していることである。
「それはですね、スプリンクラーが作動したことで向こうの壁だけ気化熱によって冷えたのが原因なんです。陽炎には気温差だけでなく風の力も必要ですから。冷やされたために上昇気流が発生し、あの銅像の周りの空気が動いたんです。それで揺らめきがはっきりと見えたというわけですね」
解りやすい解説を楓翔がする。この七不思議で大きな成長を遂げたのは楓翔ではという感じさえする説明だ。
「ははあ。あの後ろの壁が白いおかげで、陽炎もしっかりと見えているってわけか。何だか陽炎を起こすためにあるようなスプリンクラーや道だな」
感心したように言う亜塔だが、それではっとなったのは他のメンバーだ。
「そういえばさ」
桜太はそうメンバーに声を掛けつつ、この七不思議解明で関わった四つのことを思い浮かべていた。井戸にしてもトイレにしても図書室の棚にしても、今まで欠陥を放置していたことが不思議だった。そして極め付けがこの銅像である。
「作意を感じるな」
桜太の言葉の続きを述べたのは莉音だ。その目は冷たく怒りに満ちている。
「そうだよ。トイレにしたって、どうしてあのタイミングで掃除されていなかったんだ。実験はどう考えてもその日にやっていたとしか思えない。しかも壊れていることを知っている奴がいるのに、それが今まで話題にならなかったのがおかしい」
迅の目も鋭くなった。やはり動画問題をまだ根に持っている。それはまあ、迅のイメージに一切ないことだったから当然でもある恨みだ。
「あの井戸もさ。本来は設置を許可している場合ではないよな。埋めないで何であんなものを作っていいと言ってしまうんだ」
芳樹も常識に反する行動に苛々を隠せない。
「あの図書室の棚だって、あんな変な切り取りを誰にも気づかれずに出来るはずがない。今まで問題にならなかったのが変なんだ」
落下事件の犯人として糾弾された優我も許せないといった顔になる。しかも、お誂え向きの学校の校章入りブックエンドが倉庫に保管されていたのも怪しい。
「行くか。犯人の元に」
桜太の言葉に、逃げようとした林田を千晴がしっかり捕まえて全員が頷くのだった。
犯人は当然のように問題を放置しても糾弾されず、しかも隠し続けることが出来る人だ。それはすなわちこの学校の最高責任者。桜太たちはもがく林田をしっかりと捕まえたまま、南館の一階にある学園長室へとやって来た。
「学園長。確認したき儀があります」
桜太はノックもなしに学園長室のドアを開けると、中で呑気にお茶を飲んでいた源内にそう告げた。
「ぐはっ」
丁度熱いお茶を啜ったところだった源内は熱さと桜太たちの登場に驚いて咽る。せっかく科学部を揶揄った挙句に説教の一つでもして、変人の吹き溜まりを矯正しようと思っていたというのに、逆に踏み込まれてしまったのだ。どうして自分が犯人だとばれたのかと焦ってしまう。
「学園長。やはりばれますって」
無理やり千晴によって中に押し込まれた林田は情けない声で言った。井戸やトイレを報告していた林田は当然のように源内からすでに知っているということや、科学部を変革してやるとの言葉を聴いていたのである。
「だってだな。科学部を創設したのはこの儂だぞ。それなのに、ちょっと目を離した隙に変人の吹き溜まりと呼ばれるようになり、ついには新入部員なしで廃部寸前に追いやられる事態だ。どうしようかと悩んでしたが、科学部が率先して学校の謎を解く形で立ち上がってくれたんだぞ。ならば立ち上がってくれた生徒を応援するのは当然だろう」
源内は完全に開き直った。しかも科学部の創設が学園長の肝いりだったなんて話は誰も知らない。たしかに理系に力を入れている学校ではあるので本当かもしれないが、ならば今まで散々変なことをしていた科学部を放置していた学園長が悪い。
「応援じゃないですよね。トイレの悪戯はまあそれで納得してもいいですけど、排水管のミスを二十年以上放置していいって話にはなりませんよ。井戸にしても銅像にしても、そして危ない図書室の棚にしても、いつか誰かを揶揄おうと思ってやってましたね」
桜太が部長としてびしっと指摘する。本当に科学部の創設に源内が関わっているのだとしたら、いずれこの謎を解かせて遊ぶ気だったのは見え見えだ。
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