16話 イメージトレーニング(妄想)
昨日、家に帰ってから数枚のイラストを描いた。
すべてに共通して、わたしとつぐみさんが描かれている。
自慢できるほどの画力は持ち合わせていないけど、特徴や要点はきちんと押さえたつもりだ。
休み時間に廊下へ出て、つぐみさんが来るのを待ちつつ、スマホの画像フォルダを開く。
最初に手掛けたのは、わたしの自室で産まれたままの姿になり、お互いの秘所を擦り合わせているイラストだ。
神経を集中させ、妄想を膨らませる。
このイラストのようなシチュエーションになった時、つぐみさんはどんな言葉を発するのだろう……。
(美夢ちゃん、大好きだよ。一緒に気持ちよくなろうねっ)
~~~~~~~~っっ!!
こ、これは、ちょっと危ないかもしれない。
毎日つぐみさんの声を聞き、キスをも経験し、なまじ直接会える時間が限られているゆえに妄想力が鍛えられ、脳内に浮かんだイメージの臨場感が以前より飛躍的に増している。
頬を軽く叩いてニヤニヤした表情を引き締め、辺りを見回す。
うん、誰にも見られてない。
先ほどの授業、つぐみさんのクラスは体育だった。合流するまでにはもう少し時間がかかる。
スマホを操作し、二枚目に描いたイラストを表示させる。
保健室のベッドでわたしがつぐみさんを押し倒し、制服のボタンに手をかけているところ。
こういう状況になることだって、絶対に有り得ないとは言い切れない。
いざという時のために、しっかりと脳内シミュレーションしておかないと。
(ふふっ。つぐみさん、緊張しなくていいんですよ。わたしが手取り足取り、じっくり教えてあげます)
(う、うん……美夢ちゃん、優しくしてね)
どうしよう、妄想なのに鼻血が出そうなぐらい興奮してしまった。
つぐみさんが普段見せないような、不安と期待の入り混じった新鮮な表情。他の誰にも見せない顔をわたしにだけ堪能させてほしい。
そして、行為の中で徐々に緊張や不安を消し去って、幸せそうな笑顔でわたしを見つめてほしい。
「すー、はー」
深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
二つの妄想で要した時間は、わずか一分弱。
妄想に関しては誰にも負けない自信があるけど、そんなことを得意気に話せば、いくら慈愛に満ちたつぐみさんでもドン引きしてしまうはずだ。
蔑んだ視線を向けられながら『美夢ちゃんキモい』とか言われてしまうかもしれない。
想像するだけで心が粉微塵になりそうだ。
でも、ちょっとゾクゾク――いやいや、この扉はまだ開けちゃいけない気がする。
改めて深呼吸をして、次のイラストを映す。
直前に感じたのとは別の意味でゾクッとする、つぐみさんが小悪魔っぽい表情でわたしの体をまさぐるイラストだ。
なんらかの要因でこういう流れになることも無きにしも非ずと思って描いた物だけど、小悪魔なつぐみさんも素敵だから一度見てみた――
「お待たせっ。美夢ちゃん、なに見てるの?」
「ふひゃっ!?」
完全に油断していた。
突然のご本人登場に心底驚き、比喩でも誇張でもなく、震えるのを通り越して飛び跳ねてしまった。
「ね、猫の写真を見ていたんです」
「えっ、そうなの? いいな~、わたしにも見せてっ」
「は、はい、いいですよ。えっと――」
わたしは目にも留まらぬ速さで指を動かし、動物用の画像フォルダに切り替えた。
今朝通学路で撮影した猫の写真を表示して、二人で一緒に楽しむ。
瞳を輝かせる横顔に見惚れながら、改めて確信する。
どんな表情も魅力的だけど、つぐみさんには笑顔が一番よく似合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます