恋愛、はじめました
ありきた
1話 告白から始まる物語
「わたしと付き合ってください!」
夕陽が射す放課後の教室に二人きり。
わたし――
「えっ? つ、付き合ってって、恋愛的な意味で?」
彼女は
見開かれた目が、驚きの度合いを如実に物語っていた。
うなじが隠れる程度に切りそろえられたダークブラウンの髪が軽く揺れ、小柄な体は少し強張っている。
フラれるかもしれないという不安はもちろんのこと、これほどの動揺を与えてしまった申し訳なさで心が痛む。
わたしは困惑するつぐみさんからの問いかけに、コクリとうなずいた。
「仲よくなってから日は浅いですけど、心から愛してます」
学年は同じだけど、わたしは一組で、つぐみさんは二組。部活や趣味が違うこともあり、11月の学校行事で偶然話す機会に恵まれていなければ、今頃は告白するどころか楽しく話すような関係にすらなっていなかっただろう。
12月に入って間もないうちに、自分が抱く感情が友情とは違う特別なものだと自覚した。
このまま本心を隠したまま友達として過ごしても、充実した高校生活は送れると思う。
でも、自分にもつぐみさんにも嘘をついたまま過ごしていたら、いつかきっと後悔する。
だから今日、事前に連絡して部活に行く前に少しだけ居残ってもらい、二人きりになったタイミングで想いを打ち明けた。
「うーん……」
困ったように眉をひそめている。
やっぱり、時期尚早だったのかもしれない。
あまり不安を感じる気性ではないと自負していたけど、いまばかりは様々な暗い考えが頭をよぎる。
フラれたらどうしよう。嫌われたらどうしよう。
疎遠になってしまったら? 連絡すら拒まれたら?
恐怖に近い緊張感が鼓動を速め、冷や汗が頬を伝う。
それでも、撤回だけは決してしない。
気の合う友人としての関係が崩れてしまうとしても、素直な気持ちを受け取ってほしい。
「うんっ、いいよ!」
つぐみさんは太陽のように眩しい笑顔を浮かべ、承諾の言葉を告げた。
理想とはいえ意外でもある返答に、わたしの脳内は真っ白になり、呼吸も忘れてしまう。
すぐさま我に返り、深呼吸をして息を整える。
わたしが慌てているのを見て、つぐみさんが続け様に口を開く。
「恋愛のことは全然分からないけど、興味がないわけじゃないからね。目をつむって『誰かと恋をするなら』って考えたら、美夢ちゃんのことが浮かんだの」
夢じゃない。嘘じゃない。同情や気遣いでもない。
告白が成就した感動はあまりに強く、さっきまでの不安や恐怖は跡形もなく霧散した。
「ありがとうございます! わたしも恋愛自体は初めてなので、一緒にいろいろ体験しながら学んでいきましょう!」
昔から女の子にしか興味がなくてセクハラ発言を繰り返したりもしているけど、恋という感情を初めて抱いたのはつい最近――つぐみさんと出会ってからだ。
初恋が見事に実った喜びを抑えきれず、思わず飛びついてしまう。
つぐみさんは小柄ながらも身体能力が高く瞬発力もあるので、驚いた様子を見せつつも難なく受け止めてくれた。
このまま日付が変わるまで抱擁していたいところだけど、お互い部活に行かなければならない。
時計を見て焦り気味にバレー部へ向かうつぐみさんを見送り、引き留めてしまったことを胸中で深く謝罪しておく。
さて、わたしも漫研の部室に向かうとしよう。
今後はいつでも抱き合えると自分に言い聞かせて名残惜しさを紛らわせ、いつもより軽い足取りで廊下に出るのだった。
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