戦いの終わりに

 NEOは劣勢のまま逃げ場を失い、エネルギーを奪われ続ける。光の螺旋がオーウィルとパーニックスに集束して、煌々と輝く小さな二つの恒星となる。二機の発光は少しずつ収まり、NEOに宿ったエネルギー生命体は最後には無数の子機諸共、純真と諫村に半分ずつ吸収されて消滅した。


 全てのエネルギーを失って、NEOは沈黙している。ソーヤとディーンは子機の残骸を払いながら、純真の乗るパーニックスに近付いた。


「純真、大丈夫?」

「ああ」


 ソーヤの問いかけに純真は短く答えて、割れ砕けた卵の殻の様に無残に壊れたNEOの本体を見詰める。

 NEOは完全に機能停止した訳ではない。動力さえ取り戻せば、再び未来を予測する人工知能として機能するだろう。諫村はエネルギー生命体を失ったNEOには興味を無くしていた。純真は決意して、NEOの核であるメインフレームを抜き取る。


「純真?」

「どうするの?」


 ディーンとソーヤの問いに、純真は無言のまま行動で応える。彼はパーニックスの両手で核を熱しながら挟み潰し、鉄屑に変えた。そして二人に向き直って言う。


「これで終わった。帰ろう」


 そのまま純真は脱力し重力に乗って、地球に引かれる。ソーヤとディーンも彼の後に続いた。オーウィルに乗っている諫村も、数秒遅れて付いて行く。

 NEOの残骸も静かに地球の重力に引かれる。それは何十日にも亘って、流星群となり夜空を彩るだろう。宇宙空間の再利用は、流星が収まるまで中断される。



 大気圏に突入しながら、ディーンは純真に尋ねる。


「良かったのか、NEOを壊してしまって。あれは日本が開発した物なんだろう?」

「良いんだ。本当に必要な物なら、また作り直すだろ」


 ソーヤとディーンには秘密の任務があった。二人は本国より極秘裏に、可能ならNEOを回収せよと命令を受けていた。だが、純真の行動を見た二人はNEOの回収を諦めた。国家間の政治的な力学の問題より、個人間の信義誠実を選択したのだ。


「終わったんだな……」


 ディーンは長く長く、深い深い溜め息を吐く。適合者たちの戦いは終わり、同時に存在意義も失った。

 純真は彼の言葉に頷く。


「ああ、終わった。日常に帰るんだ」

「日常……」


 ソーヤは想像も付かないと、ディーンと同じく遠い目をする。二人は適合者として育てられたので、普通の生活を知らない。

 純真は二人の心の中に生じた小さな不安を読み取り、自分の学校生活を振り返って言う。


「学校行って、友達作って、勉強して……。そんな感じのだよ」

「そうなるのかなぁ……?」


 純真から日本の学校のイメージが二人に伝わるも、現実そうなるのかという疑問があるために、素直には喜べない。前途は余りに茫洋としている。

 メランコリックになる二人を純真は励ました。


「なるよ。アメリカにだって、義務教育はあるんだろう?」

「知らない。ロボットとエネルギー生命体の事以外で勉強したのは、基礎的な読み書きと算数だけ」

「……それでもまだ取り返せるって。本気になってやり直せば、『遅い』とか『今更』なんて事は無いんだよ」


 ソーヤにかけた言葉の裏で、純真はウォーレンの事を考えた。きっと彼もやり直せると純真は信じた。純真自身も……学校を休んで二月も経っているが、その程度のブランクはどうとでもなる。エネルギー生命体との戦いは終わり、地球の未来は救われたのだから。

 どんな時でも明日は来る。その希望を持って、人は今日を生きるのだ。

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