第3話 お題3:「君はきっと知らないだろうね」で始まり「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」で終わります。

 「君はきっと知らないだろうね」

ある日の昼下がり作業場で、冬を越す為の内職木彫りの像を作成をしている俺に唐突に、からかうように下宿先の大家アリアが言った。


「唐突過ぎるだろうよ? なんの話だよ? 」

俺は何時ものように、答える。

昔からの受け答え、気楽なもんだ。


「最近、都市中で噂になっているのだけれど、

普段影の薄い教会が活発に動いているのに気付いてるかい? 」


教会と言えば、無明都市内では創造主教会しかない。

そもそも、他の神様崇めているのは見たことがない。

もしかしたら、自然信仰何てのはあるかもしれないが、

どうなのだろう?


「教会なんて、説教聞いて眠くなる所の噂なんて興味ねぇよ。

まだたまに空から降ってくるワケわからねぇ言葉の音声の方が、

興味感じるよ」


アリアがうっすらと笑顔を見せながら、

「天の声と教会の動きが連動しているとしても興味ないかい?」


つい最近の天の声は「……急……態発生。緊……態……生。気……con……tem………異常あり、直ち……担……所は対……よ」って奴だ。

いつも、波打ったように響いて聞き取れた試しがない。

天の声が聞こえた時は、悪い予感しかしない。


「つい一週間前に天の声が鳴り響いたでしょ? そのすぐ後から教会周りが騒がしいんだよね。たぶん、勇者の選出でもしているんじゃないかな」


勇者選出と言っても、神に選ばれたーとかそんなもんではなく、

特に加護や力が貰えるわけでもない。特殊能力でもはじめから持ってれば別だが、そんな奴は、そうそう居ない。

となれば

「勇者って言っても、特に何か力を持ってるわけでもねぇしな。

今回は、剣聖でも連れてくるってか? 」


一瞬驚いた顔をして、アリアは言う

「おやっ? 知っていたのかい? 今回は赤ら顔の剣聖と名高いレイノルド・バッカスらしいよ。」

「あの酔っぱらいのおっさんが、勇者って似合わなすぎる……。」

アリア軽く笑って

「似合うかどうかは、別として近年の異常気象を調査しに出るとか。食料不足待ったなしだもんねぇ。ちょっとずつ高騰し始めたし」


食料の高騰は流石に問題になってきて、俺の今冬の稼ぎでは暮らせなくなってきた。そして、まさかのアリアの家の一室に居候する羽目にあっていた。

最近は少し人々が殺気だっている気がする。


「最近は、うさんくせえ終末論も出始めてるからな。預言者だっけかな。」

最近広場で演説をかます黒いローブの集団が現れるようになった。

演説するだけで他の行動は特にしないので、殆どの人は気にしない筈だが、少しづつ信者が増えている気配がする。

人は強い者だけではないのだ。


「あれは、幸い気にする人が少ないから、今の所は多分、大丈夫そうだよ。」


ある意味、俺達一般人には世界の趨勢すうせいが、どうなっていくかを読みきれる事はないのだろう。

ただいつの日か、この世界の不思議の一端を見る事が出来たなら、

それはきっと幸せな事に違いない。


アリアの話し声を聞き適当に相槌を打ちながら、とりとめのない思考へと入っていく。不思議と作業の手は止まらない。


現在の世界は、何かを喪う痛みを悲しみを何度もあじわう事になるのならば、ゆっくりとで良いから変えて行かなければならない。


何となく居心地の良さを感じながら、時間が流れていく。


しかし、あれだな。

「自分で造ってて何だが、こんな木像の何処が良いんだか……

よし、出来た」


俺が机の上に出来上がった木像を置くと思ったよりも、

良く似てて沈みかけた太陽の光オレンジ色の光アリア像木像の横顔を照らす。

まるで、慈母が肯定し微笑むように


「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」ように見えた。

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