第47話 呼び声 ―Plow!―

「えっ……? どういうことよ……!?」


 次の補給地点を示す地図上の光点が消えたのを見て、ユキエは鋭く息を吸い込んだ。

 彼女は速さを増す鼓動を鎮めんと胸に手を当て、深呼吸する。


「ユキエちゃん、今の見た!?」 

「どうすんだよっ、このまま行くのか!?」


 彼女と親しい真壁ヨリ、日野イタルの二名から判断を仰がれ、ユキエは決断を迫られることとなった。

 この数の部隊を率いたのも初めてであるのに――マニュアルに載っていない危機への対応を任されることとなるとは、神様も残酷なものだ。

 だが、そこで無力感や諦念を抱くほどユキエは繊細な人間ではなかった。

 どんな戦場でも冷静さを失わず戦う、それが冬萌ユキエのポリシーだから。


「ルート変更はしないわ。拠点が消滅したのなら、私たちはその現場を見る必要がある。いつだって異常に対応するのは現場の兵士なのだから、外からの助けを求める前に動かなくてはならないわ」


 情報を仕入れ、報告する。

 原因不明の事象が確認された際、まずやるべきことをユキエは挙げた。

 同時刻に他のコースを走っている他クラスや、未知の【異形】に対応しているカナタたちの部隊が気になるが――今は自分たちのやるべきことに集中する。


「――リーダー、こちら冬萌ユキエ。現在、地図上の補給地点Bが消滅する事態が……」



 ユキエからの報告を受けてレイは派手に舌打ちした。

『巨影型』が関与しているのか定かではないが、異変は既に起こってしまったのだ。

 SAM内蔵の地図機能が認識不可能になっているのは、つまるところその基地は跡形もなく破壊されたことを意味している。

 二つ目の拠点は市街地内にあり、最初の拠点よりも規模は大きい。常駐のSAMとパイロット――いわゆる『NPC』というゲーム内のプレイヤー以外の人物――が複数いるにも拘らず、その基地は蹂躙された。


「何が起こっているのですか……!」


『巨影型』にそれらしい動きは見られない。奴は先ほどと変わらず、悠然と歩いているだけだ。

 脂汗を流すレイが状況の打開策を探す中――彼らにとって嘆くべき戦局を知らせる声が鳴り響く。


『オオオオオオオオオオオオン――――!!』


 獣の遠吠え。それから遅れて届いてくるのは、無数の羽音だ。

 

「な、何!?」

「皆さん、周囲警戒してください!」


 遠吠えの重奏はレイたちのいる一帯を取り囲み、じわじわとその包囲網を狭めてきていた。

 広い道路を舞台とした戦場に、市街地から狼人型の二等級【異形】が続々と出現し、レイたちを威嚇してくる。

 血走った眼でSAMを睥睨する狼人たち。彼らと対峙するカツミとカオルは獰猛に笑い、それぞれの得物を構えた。


「デカブツは後だ! 今はとにかくこいつらをぶっ潰すしかねえ!」

「いくよっ、カツミ! 雑魚はアタシたちでさっさと片付けちゃお!」


 涎を垂らしながら迫ってくる敵を前に二人は飛び出した。

 波状剣が薄汚い肢体を叩き斬り、小太刀は敵の首や四肢を的確に解体する。

 黒と白の魔力が奏でる剣撃の音色と、猛然たる剣舞。

 飛びかかってきた複数の敵をものともせず、彼らは【メタトロン】に『狼人型』を一匹たりとも近づけさせなかった。


「私たちはあれをやるよ」

「ちょっ、待ってくれよ瀬那!? あんな数、無茶だ!」


 マナカが見上げる先で飛び回っているのは、どこからかやって来た無数の飛行物体だった。

 鉛色の球体のようなサッカーボール大のボディに、眼球らしき赤い玉と一対の羽が生えた生命体。多くは既存の生物に近い見た目をしている【異形】にしては異質な無機質さと統一感を持った、新種だった。


「――無茶だなんて、誰が決めたの? 私はやるよ、七瀬くん」


 敵に攻撃をすかされた後、マナカは替えを含めたスナイパーライフルの弾丸の装填を済ませていた。

 全弾使ってでもこの状況を切り抜ける――そう行動で示すマナカに、イオリは震える膝を思いっきり叩いて叫ぶ。


「ああ、いいよ! 俺もやってやる! 瀬那の邪魔をする奴らを全部、叩き落としゃいいんだろ!?」


 眼球から黒い光線を一斉掃射してくる『飛行型』の【異形】たち。

 それに対してイオリは薙刀を構えたまま『詠唱』を行い、緑色の光の壁を展開した。

 爆音が耳をつんざき、衝撃が機体を後退させる中、黒髪の少年は全身全霊で踏ん張ってマナカを守る。


「へ、へっ……そんなの、耐えれるさ。俺は昔から病気なんて一切かからない、頑丈な男なんだからな!」


 大切な人を死なせたくない。その強い思いが彼の魔法を後押ししていた。

 熱と衝撃波が機体に悲鳴を上げさせ、彼自身もそのダメージを直に感じてもなお、獰猛な笑みを崩しはしない。


「あいつら、目と羽しかないから頭は空っぽみたいだな。一斉掃射を続けてりゃ勝てると思ってやがる」


 だがいずれ限界は訪れる。あの小さな身体に溜められている魔力の量は、そう多くないはずだ。

 凌ぎきれる――そして弾幕が終われば、あとはマナカのステージだ。

 上空では【ラジエル】や【ミカエル】が肉眼で追うのも困難な速度で飛び回り、大量の『飛行型』を切り伏せている。

 魔力の爆発が連なり、敵の緑色の血液や内蔵が雨となって降り注いでいた。


「た、倒すのは難しくない。でも――」

「数、多すぎます! 一体どこから湧いてるの……!?」


 切っても切っても南方から飛来してくる『飛行型』に、カナタは冷や汗を流す。

 今までの【異形】は圧倒的な力を持つ『個』の存在だった。群れを作る二等級以下のものもいたが、それらでさえもこれほどの規模は実現し得なかった。


(【異形】の戦い方に変化が起こった? 二等級以下の【異形】は世代交代が早い、その進化の過程でこういうものたちが生まれたのでしょうか? しかし、進化とは環境に適応して起こるもの。これだけの数の『異形』が集うだけの環境が、経験が、果たしてあったのでしょうか……?)


 得体の知れない『巨影型』と、無数に現れる『飛行型』。それらが意味するところは何なのか。

 レイは答えを手繰り寄せようとするが、これまでのデータからは手応えのあるものが得られなかった。

 

(謎を解き明かす鍵も、彼らを理解するという行為の中にあるということ……?)


【メタトロン】は蝗(イナゴ)のごとく空を覆う『飛行型』へと【太陽砲】を放ち、掃討する。

 遠方から小さい影たちが北上してくるのが見えるが、一息つく時間は作れた。

 蒼穹に浮かぶ二機のSAMへとレイは通信を繋ぐ。


「魔力の残量は大丈夫ですか、二人とも?」

「ぼ、僕はまだいけるよ」「沒有問題(もんだいありません)」 


 二人の声音からはまだ覇気が失われていない。継戦に支障はないと判断し、レイは次なる策を彼らに授けた。

 

「あの『飛行型』や風縫さんらが相手取っている『狼人型』は、南方からやって来ているようです。どこかに潜んでいたものたちが一斉に目覚め、ボクらを襲撃してきている。その潜伏元である『どこか』を潰してしまえば、この襲撃も途絶えるはずです」

 

 人間の戦争でも同じだ。あの『飛行型』が無人爆撃機だとすれば、それが飛び立つ基地や製造元の工場を潰せばいい。

 と、そこまで考えてレイはある仮説に思い至った。

 そう――あれは無人機なのだ。多くの飛べないSAMに有利を取る形で、圧倒的な物量で攻め込む兵器。

 まるでこちらに消耗を強い、「本命」の何かで完全に止めを刺しにきているかのようだ。

 つまるところ、彼らの戦い方は人間の戦略と変わらないのだ。これまで単騎での戦いで人類を蹂躙してきた【異形】が、人のような集団戦にシフトした――いや、人の戦いを学んだといえるのかもしれない。


(だとしたら、なおさら……)


 敵の大本を断たねばならない。


「この戦況を鑑みるに、敵が物量戦を『知った』と断言せざるを得ないようです。これが意味することが分かりますか、カナタ?」

「い、【異形】は人を知ろうとしている。こっ、これまでのような殺戮一辺倒じゃなく、人が考えたものに価値を見出したってこと……?」


【異形】全体がそうなったとはまだ言えないが、少なくともそういうものたちが現れたのは事実だ。

 彼らが人を知って戦略を変えてくるのなら、やはり人も彼らを知って新たな対抗策を生み出さなければならないだろう。


「カナタさん、あなたのアプローチ、否定したこと謝ります」


 ユイは聡明な女性だった。彼女は断片的な会話の中からレイの仮設をほぼ完璧に察し、自らの認識を改めた。

 無論カナタが嘘を吐いていたことを許しはしていないが、彼の「【異形】を知ろう」という声は間違ったものでないと認める。

 

「私、さっきあなた責めました。でも、本当はよく分からないんです。あなた悪い人じゃないって、思ってしまいます。あなたの手のぬくもり、本物の人間だと私は思います」


 レイの命に従って南下していきながら、ユイは煮え切らない口調で言った。

 転入初日に出会った頃を思い出す青髪の少女は、優しい少年の姿を偽物だとは思えなかった。

 カナタは【異形】と何らかの形で関わっていた。だが、彼が人のために戦い、人のために【異形】を知ろうとしているのは紛れもない真実だ。

【異形】との関わりだけを指摘して一方的に彼を嘘つき呼ばわりするなど、視野が狭いとしか言えない。


(感情的になると周りが見えづらくなる悪癖、直さなくてはいけませんね)


 祖国の誇りを背負って来日した立場として、ユイは強く正しくあらねばならない。

 胸に手を当てて自分を見つめ直した少女は、次のカナタの言葉に微笑んだ。


「ぼ、僕だって、自分がよく分からないよ。で、でも、自分を人だと思える。だから、戦える。ぼ、僕は人として、人を守りたいんだ。た、たとえ【異形】に触れた過去があったとしても」

「大事なの、人を守りたいという意志――あなたのお母様の言葉、でしたね」 

    

 年齢も性別も人種も貴賎も関係ない。その意志が、心があれば、『レジスタンス』は何者の協力でも歓迎する。

 当初の組織の理念を挙げることで、ユイはカナタをニュートラルな視点から見つめ直せた。


「大丈夫です、きっと。私たち、勝てます。信じましょう」

「う、うん。か、勝って帰って、それから話をしよう。君と一緒に戦い続けるために、僕は本当のことを言わなくちゃいけないから」


 白い筋を蒼穹に引いて二機は加速する。

 暫定目標は、消滅した「ポイントB」。もうすぐそこに到達するユキエたちと合流し、目前の危機に対処するのだ。



 ポイントBを目指して市街地を南下していたユキエたちの進行は、大幅に遅れていた。

 理由は言うまでもない。カナタたちのいる場所へ真っ直ぐ向かっていく『狼人型』と『飛行型』の行軍と鉢合わせてしまったからだ。


「全兵員は【防衛魔法】を展開! ヨリさんとイタルくんはそれと並行して『プログレッシブ・シールド』を構えて! 何としても全滅は避けるのよ!」


 上空から光線を掃射してくる『飛行型』への対処に全力を尽くす。それがユキエの指揮官としての選択だった。

 全員の魔力を結集して生み出す、部隊全体を囲む規模の緑色の魔力壁。ドーム型の防壁の中にある部隊の先頭に立つのは、巨大な盾を二人がかりで構えるヨリとイタルだ。

『プログレッシブ・シールド』――表面に【防衛魔法】と同系の魔力を薄く纏わせた、対「魔法」用の盾である。 

 ユキエ、ヨリ、イタルの三人がカオルとカツミの協力を得て『ラボ』で作製したもので、レイの風魔法を余裕で凌ぎきる耐久性の逸品だ。

 設計理念からして防御力に優れるのは当然だが、特筆すべきはその攻撃力。

 通常の盾よりも大きなこの装備は、表面に触れたものを跳ね返す魔力を帯びているため、これを用いて突撃するだけでも敵にとって十分な脅威となるのだ。


「邪魔な『狼人型』はこいつで全部吹っ飛ばす!」

「目的地にさえ着ければ、活路を見いだせるかも……!」


 今や部隊は一本の槍となっていた。

 正面から迫る敵の全てを弾き飛ばし、上空からの光線は防壁で遮断する。二種の【異形】の軍勢はそれを撃破するだけの力を持たず、彼女らはほどなくして「ポイントB」の基地があった場所へたどり着いた。

 

「……何ですの、これは……!?」

「予想してはいたけど、それ以上ね。酷い……」


 リサが驚愕の声を漏らし、ユキエは怒りを声音に滲ませる。

 原型を残さぬほど大破した、基地の跡。倒壊して瓦礫と化した建物は炎上し、所々に大破した【イェーガー】が横転している。伏して腹から血を流す兵たちの中に、生きている者は一人も見当たらなかった。


「一体、どんな【異形】ならこんな破壊できるんだ……!?」


 この破壊の光景をシバマルたちは知っていた。

『フラウロス』が見せた蹂躙、殺戮――ここにはそれが再現されている。

 血と屑鉄の臭いが充満する赤黒い世界を見渡す彼らは、胸に湧き上がる無力感を必死に抑え込まなければならなかった。

 

「み、見て、ユキエちゃん……! 空から、【異形】が……!?」


 黒煙の合間に覗く、虚空に出現している黒い「穴」。その穴の中から『飛行型』が次々と飛び出し、我先にと北上していく。


「ワームホール、なの? SF作品でしか実現し得ない代物を、【異形】が扱うなんて――」


 ヨリが指差す先を仰いでユキエはあらん限りに目を見開いた。

 大量に出現していた【異形】のからくりはこれだった。おそらくここからほど近い場所に、『狼人型』を運ぶワームホールもあるのだろう。

 

「あの穴に対処さえすれば、この【異形】たちが湧き出るのは止めれるわけだろ? ならとりあえず、【防壁魔法】とか使って塞いでみるのはどうだ?」

「イタルくんの考えは間違ってはいないわ。確かにあれさえ何とかすれば【異形】の出現は止められるでしょう。でも……【防壁魔法】で塞いだところで時間稼ぎにしかならないし、この基地を破壊した【異形】は別にいる」


 ユキエの口調は酷く冷静だった。

 脅威の大元を断たねば何も終わらないのだと語る彼女に、イタルやヨリたちは深刻な面持ちで頷く。

 カナタたちがここにいない今、自分たちが強大な【異形】に勝てるかは定かでない。だが、何もせずに逃亡することは彼らのプライドが許しはしなかった。

 逃げて後悔したくない――試験前日の湊(みなと)アオイの言葉を思い返し、彼らはそう胸に刻む。



「あの『巨影型』、私たちを見つめたまま動かない。きっと、観察してるんだ。奴らの物量戦に私たち人間がどう対抗するか、データを取るために」


 空中の飛行型を的確なライフル捌きで撃ち落としていきながら、マナカは自身の推測を口にした。

 いつからあれが透明化して潜んでいたのかは不明だが、監視役として『巨影型』は【異形】にとって十分な働きをしたに違いない。

 部隊単位で多くの生徒たちが任務のために出撃している光景を、彼はその高い視点から俯瞰していた。


「私たちが試験のために戦う様子を見て、『巨影型』は集団戦を知った。知って即座に実行に移し、桁外れな物量をぶつけるという単純ながら強力な発想にたどり着いた。――間違いなく、あれには知性がある。カナタくんの声に反応しなかったのは、わざとなんだ」


 憶測に過ぎないが、限りなく事実に近づいた確信が彼女にはあった。

 飛びかかってくる『狼人型』を薙刀でなぎ倒しつつ、イオリは息を呑む。 


「また、知性を持つ新型ってことか!? でも、だったらどうして、『パイモン』や『フラウロス』みたいに俺たちに接触しようとしないんだ……!?」

 

 その理由はマナカにもレイにも分からなかった。

 知性を有した【異形】にとって月居カナタという少年が重要な人物であることは、これまでの例から判明している。だが、そのカナタ本人から接触があったにも拘らず、『巨影型』はアクションを起こさなかった。

 カナタの提案する「対話」が気に食わなかったのか、そもそも『パイモン』らとは思想が異なるのか、『巨影型』自身には知性がなく別の存在のラジコンのようなものでしかないのか……彼にまつわる情報が殆ど得られていない現状では、何とも言えなかった。


「どーすんのさ、レイくん!? このままじゃらちがあかない、アタシたちもカナタくんたちを追ってポイントBに急いだほうがいいんじゃないの?」

「しかし、あの影が何をするのか分からない以上、放置するわけにもいきません。それに、これ以上の部隊の分断は避けたいです」


 もうリスクを増やしたくない――危地の中で犠牲を最小限に留めようというレイに、真正面から反駁する者はいなかった。

 武器や魔力の消耗は、既に無視できない領域にまで到達している。戦い続けられる時間はあと十五分もないだろう。補給を断たれれば当然の帰結だが……それでも、最後の瞬間まで諦めるつもりは彼らにはなかった。

 弾が切れたらすかさず腰のウェポンラックから替えを用意し、装填。イオリに守られることでその隙をカバーするマナカは、上空の敵への照準を一秒もかけずに済ませ――そして、奇妙な音を聞いた。


「えっ……!?」

 

 頭の中に反響する超音波。キィィ――――ッ、と鳴り響く耳鳴りのような音に彼女は胸騒ぎを覚える。

 空気が揺らいでいる。魔力の波が、ある一点から広がっていく。

 どくん、と心臓は警鐘を鳴らした。肌は粟(あわ)立ち、寒気と吐き気が身体の奥底から這い上がる。

 

「あぐっ……!?」


 視界が歪んでいる。身体の震えが止まない。

 何が起こっているのか彼女には理解できなかった。聞こえているのは不快な超音波と、黒髪の少年が自分を呼んでいる声。


「瀬那!? どうしたんだ、何があった!? おいっ、瀬那っ、瀬那っ!?」


 ――誰かが呼んでる。私を……ぼくを。


 精神は混濁の沼に溺れていても、身体はその導きに素直に従う。

 コンソールのキーボードを叩いて自動操縦に設定した彼女は、意識の変質に抵抗することも叶わず、機体をある一点へ急発進させた。


「瀬那さんッ、どこへ行くのですか!? 勝手な行動は控えなさいと、あれほど――」

「待てよ早乙女! あいつ、様子がおかしかった! もしかしたら『コア』の影響かもしれない!」


 レイの制止をイオリが止める。黒髪の少年の考えが事実なら、何度呼び止めようがマナカは聞き入れてはくれないだろう。

 止めるには追うしかないのだ。


「どーすんだよ、オカマ野郎!」

「っ、やむを得ません、瀬那さんを追います! 『コア』がボクらを導いてくれるのなら、今は、縋るしかありません」  


 博打だと承知の上で、レイはマナカを追うと決定した。

 そうこうしているうちに自分たちと距離を突き放していくマナカ機の背中を見据え、彼らはそこに希望を見出す。

 彼らが走り出した、その直後――この『第二の世界』全体に響き渡るのではないかと思えるほどの巨大な咆哮が、少女の目指す先から打ち上がった。

 

 ポイントBと名付けられた基地の跡地で産声を上げたのは、人類が未だ知らない魔神であった。

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