第30話 強くなるために ―The best which can be made me―

 中国からの留学生、刘雨萓リウ・ユィシュエンとカナタの模擬戦から、一夜が明けた。

 最新型SAM【ミカエル】の高いスペックと自身のパイロットとしての実力を強烈に見せつけたユイのことは学園内でもビッグニュースとなっており、翌朝には有志が発行している『学園誌』のトップを飾っていた。


「あ、おはようございます、カナタさん」


 生徒たちが続々と起床を始める午前6時過ぎ。

 朝食のために食堂へ足を運び、入口近くの掲示板に貼られたメニュー表を眺めるカナタに、ユイが声をかけてきた。

 ヘッドホンをしたジャージ姿の少年は振り向き、青髪の少女へぎこちなく笑みを向ける。


「お、おはよう」


「ふふ、早起きですねカナタさん。昨日、ぎりぎりで勝てなかったの、悔しかったです」


 本気で悔しがっているのだろう、眉間に皺を刻みながら彼女は言う。

 だがその表情もすぐに引っ込め、持ち前の柔らかい微笑みを浮かべて一歩前に出ると、カナタへ顔を近づけてすんすんと鼻を鳴らした。


「少し、汗の匂いしますね。トレーニングしてたですか?」


「そ、そうだけど……く、臭いよ、離れたほうが……」


「カナタさんの匂いなら気にならないですよ。それに、わたし、泥臭いくらいが好きなんです」


 ユイが気にならないならそれでいいのだが、カナタにとっての問題は別のところにあった。

 一つ、自分の匂いを何度も嗅がれると流石に恥ずかしい。二つ、目と鼻の先で女の子に首元や胸元の臭いを嗅がれている光景をクラスメイトや知人に見られたら面倒くさい。


「……あれっ、王子様?」


 ――ほら出た。

 と、カナタは内心で盛大に溜息をついた。

 彼が知る限りカナタをそう呼ぶ人物は一人しかいない。

 黒髪ポニーテールで赤縁メガネをかけた長身の――ユイも長身だがそれ以上に背が高い――モデル体型な美少女。

 月居カグヤやカナタの『力』、そして未知なる【異形】の情報を求めてカナタと『契約』を結んだその少女の名は、不破ふわミユキといった。


「こんなところで女の子に身体の匂いを嗅がせるなんて、やらしい~。まさか王子様にそういうフェチがあったとはね~」


 ニヤニヤ顔で冷やかすように言ってくるミユキ。

 考えうる限りで最悪のタイミングで最悪の人物と出会ってしまった、とカナタは唇を噛む。


「あっあの、ミユキさん、違うんです。ぼ、僕はただ、この子に……」

「そうですよ。これはどちらかと言えば、わたしのフェチです」


 狼狽えるカナタから一歩分の距離を置き、ユイはあっけらかんとした口調でカミングアウトした。

 ほーぉ、と興味深そうにユイを眺めるミユキは、青髪の少女が持つ冊子を見て合点がいったのか眉をぴくりと上げる。


「君が刘雨萓さんね。実はね、私も昨日の試合見てたのよ。いい戦い方をするわね、刘さん」


「ありがとうございます。えっと……ミユキ、さん」


「君は戦いの中で無理をしなかった。それは観察者からしてみれば、【ミカエル】の長所、及び短所がありのままの形で見られるってことよ。長所は魔力を燃やすことによる従来機以上の加速力、そして一撃の貫通力。短所はその小型さ故の持久力の低さと、魔法発動中に機動力が若干落ちること。特に短所の後者にはまだまだ改善の余地があるように思えたわ」


 ミユキの分析にユイは目を丸くした。

 その分析の内容はSAMに詳しければ誰でも分かることだが、自分ほどの実力者相手にそこまではっきりと言ってのけたことに彼女は驚いていた。

 中国ではユイは周囲から一目置かれる存在であり、昨日の戦いを見た日本の学生たちも同じ態度を取るのだろうと思っていたからだ。


「あの……ミユキさんは、メカニック志望ですか?」

「いえ、将来は兵士になるつもりよ。ただ……ちょっち、機械いじりにも興味があるってだけ」


 その見方からユイがそう推測すると、ミユキは首を横に振って答えた。

 メガネの下の鋭い野生的な目を細め、おもむろに中空に視線をやる。


「み、ミユキさん?」

「……ん、何でもないわ。ちょっち考え事してただけ。あー、それと王子様、定期報告忘れずにね。昨日の戦闘の件もそうだけど、色々気になることはあるのよ」


 昨日、寮に戻って夕飯も食べずにすぐさま寝たカナタは、普段ならばするメールでの報告をしていなかった。

 ミユキがカナタから情報を得ようとする真意は未だ、分からない。カナタは正直気になっているのだが、ミユキ本人が決して口を割らないのだ。何度かさり気なく訊ねてみてもはぐらかされてしまい、カナタも半ば諦めてしまっている。


「んじゃ、またね〜」


 小さく手を振って食券の販売機へと向かっていく黒髪の少女。

 彼女の背中をぼんやりと見送るカナタは、ふと、そこに朧げな既視感デジャヴを覚えて瞬きした。



 期末試験を目前に控えた7月の頭。

 この時期の生徒たちはピリピリするものだが、ユイという弛緩剤の投入によって彼らは比較的穏やかな雰囲気で授業に臨めていた。

 担任のキョウジとしては何ともありがたい話だった。月居カナタに反感を持つグループはクラスの3分の1程度を占め、これまで少なからず不協和音を奏でてきたが、ユイの転入以降は彼らのカナタへの虐めは収まってきている。

 それはおそらく、ユイの影響だけではないのだろう。彼らのリーダー格である毒島カツミの態度が軟化したことも、変化の要因に違いない。

 優れた血筋に生まれ、高い実力を見せつけてくるカナタやレイにカツミは嫉妬しており、二人に敵意を向けていた。だが、中間試験で二人の奮戦する姿を目に焼き付け、彼は変わったのだ。

 生徒たちは少しずつ成長できている。最初は足並みを揃えられず、異形ロノウェ相手に惨敗した彼らは今、力を合わせて【異形】を倒せるまでに強くなっていた。


 朝のホームルームで出欠確認を終え、キョウジはクラス全体を見渡して言う。

 

「試験で戦うことになる【異形】は、クラスの実力によって適正ランクのものが設定される。つまるところ、雨萓くんの【ミカエル】が加入したA組の相手となる【異形】は、確実に前回のラウムより強い。そこで問題になるのが――いや、最初からこのクラスが抱えていた問題が一つあるんだが……早乙女くん、分かるな?」

 

「ボクやカナ……月居くん、雨萓さんと、それ以外の者たちとの実力差ですよね。基本的にクラス内で最も強いSAMを基準に戦う【異形】は選ばれますから、ラウムに苦戦していた彼らでは次の相手に手も足も出ない可能性が高い」


 問われることを予感していたのか、一切考える間を置かずに話し出すレイ。

 カナタを下の名前で呼んだのを名字に訂正したところを除いて滞りなく答えた彼に、キョウジは「そうだ」と頷いてみせる。

 

「期末試験まであと二週間――それまでに、三人以外の生徒たちの実力水準をある程度引き上げなければならない。たった二週間しかないが、早乙女くん、君ならばできるはずだ」

「ボクが、ですか? ボク、人に教えた経験なんてないのに」

「教師として、それが君に最も向いていると思ったまでさ。それに、一人でやれとは言わない。月居くんや雨萓くんの力も借りて、来る試験に備えるんだ」


 きょとんとするレイへキョウジは諭すように言った。

機動天使プシュコマキア】の三人に共同作業をさせ、彼らの親睦を深めさせるというのが彼の真意であった。

 

「わたし、協力します」

「ぼ、僕も……い、いいよね、レイ?」


 昨日、雨萓についての意見でレイと対立してしまったカナタは、関係を修復するチャンスだと食いつく。

 レイとしては雨萓への疑いは完全に晴れてはいない。だが、『問題点』を解決しなければ試験を乗り越えられないだろうことも事実だった。

 その二つを天秤にかけて、金髪の少年は最善の選択を掴み取る。


「分かりました。今日の午後から、ボクが特別メニューを組んで皆さんのトレーニングに付き合います。――瀬那さん、君にも手伝ってもらいたいことがあるのですが、いいですか?」

「もちろん、オッケーだよ!」


 仮想現実での戦いは、決してお遊びなどではない。

 リアルの戦闘と同じなのだ。仲間は死なせられない。見殺しにはできない。

 レイは最初、仮想現実の【異形】などハリボテでしかないと思っていた。しかし、あのグラシャ=ラボラス、そしてパイモン戦以降、彼の考えは変わった。

 

「本物の脅威を前に必要になるのは、それに屈しない強さ。ボクらはそれを手にしなくてはなりません。大切な人を守るためにも」


 立ち上がったレイは確固たる決意を宿した眼差しをクラスメイトたちへ向ける。

 彼らの殆どはそれに頷きをもって答えた。毒島カツミも例外ではなく、気に食わなそうにしながらも今の自分にはレイたちの指導が必要だと弁えているようだった。


 朝のホームルームは特に滞りなく終わり、普段通りの授業が始まっていく。

 少しずつ、だが着実に変わっている1年A組。

 そんな彼らの観察者オブザーバーである風縫カオルは、教室後方の席から鼻歌交じりにカナタやレイを眺め、くるくるとペンを回していた。

 

(司令からの指示は特になし……今回はアタシの細工要らないってこと? 面白くないなぁ)


 授業そっちのけで思考に没入するカオル。

 彼女はまだ気づいていなかった。自分に作戦命令が降りないわけに。

 ――彼女自身もまた、「試される側」の人間となっていたことに。



 マナカの協力を得てレイが作成したメニューをもとに、A組の面々はその日からさっそく特訓を開始した。

 試験前の二週間は教官の指導に代わって、午後の時間をクラス単位での自主練習に宛てることも認められている。

 レイがまず執り行ったのは、クラスメイトを不足している能力ごとに分類することだった。

 苦手を徹底的に潰し、仲間の足を引っ張るリスクを少しでも減らす。それが彼の方針だった。


「冬萌さんや七瀬くんたちはこちらへ! 様々な障害物を設置したコースを走り、道中に出現する小型の【異形】を倒してゴールを目指してください。目標タイムは……そうですね、最初だし7分程度にしておきますか」


 機動力や瞬発力に難のあるユキエやイオリ、リサたちには、全長5キロの岩や瓦礫などの障害物が置かれた一本道を駆け抜ける特訓が課された。

 やることは単純。だが、【異形】という単語に彼女らの表情は硬くなる。


「い、【異形】って……どんくらいの強さなんだ、早乙女?」

「あぁ、その点ですがね七瀬くん。今回のこれは対【異形】戦闘がメインの特訓ではありませんから、かなりパワーをセーブした設定にしています。ボクらが最初に戦ったロノウェの半分以下の力です」


 イオリはほっと胸を撫で下ろす。だが、次のレイの言葉に彼は顔を思いっきり強張らせた。


「まぁ、段階的に【異形】のパワー、障害物の難度も上げていきますから。君が期待するような強い【異形】ともちゃんと戦えますよ」


 女の子のような顔ににっこりと笑みを浮かべるレイ。

 この小悪魔め、と内心で呟いたあと、イオリはヤケになったかのように「やってやるさ!」と叫び、ユキエたちと共にSAMへ搭乗していった。



「おれたちは魔法の特訓か。うぅ、自信ないぜ……」

「だ、大丈夫だよ、犬塚くん。ら、ラウム戦ではちゃんと、ぼっ【防衛魔法】も『網』の魔法も使えてたじゃない」


 これからやることを考えてげんなりするシバマルに、通信越しにカナタが励ましの声をかける。

 続いて彼は全体へ向けて『魔法』について説いた。


「み、みんなに改めて説明すると、まっ、魔法っていうのは基本的にSAM側が僕らパイロットの「イメージ」を読み取って再現するものなんだ。お、音声コマンドである「詠唱」と並行して、実際にその魔法を目の前で見ているかのような鮮明なイメージを頭の中に浮かべる。り、理屈よりもまずやってみること――それを繰り返していけば、ある程度は上達するはずだよ」


 もちろん人によって「想像力」には差がある。魔法が苦手な者の多くはこれが欠如していたり、単純に自身の魔力が少なかったりと、本人の先天的な要因も多い。

 それを分かっていながらも、カナタは魔法を苦手とする彼らへの教えを諦めたくなかった。

 どんな人でも強くなれる可能性、それこそがSAMだと思うから。

 

「み、みんな、こっちの白線の前に横一列に並んで。授業で習った基本的な魔法から、まずはやってみよう」


 二十メートル間隔で敷かれた二本の白線。シバマルたちが並ぶ対面に置かれているのは、第二世代SAM【ゾルダート】だ。


「あれを狙って撃てってことだな。単純じゃん!」

シー。単純な練習、何度もやれば脳が覚えます」

「ゆ、ユイが見ててくれるなら、おれでも行ける気がしてきたぞ」


 感覚派のカナタは理論的に教えられる自信がなかったので、ユイに協力を仰いでいた。

 皆が呪文を唱え、銃剣や杖に魔力を溜めていく中、さっそくユイはそれぞれの様子を見てアドバイスを伝えていく。


「日野さん、詠唱はもう少しゆっくりでも大丈夫です。早口すぎて噛んでしまったら、元も子もないですよ。それから真壁さん、魔法を撃つ前の杖の構えは、胸の前で地面と平行になるよう意識してください。今の構えでは魔法が直進した場合、敵に当たる前に地面にぶつかってしまいます」


 明るい茶色の長めの髪をヘアバンドで留めたお調子者の少年・日野イタルと、黒髪ボブヘアーの引っ込み思案な少女・真壁ヨリは、そのアドバイスを受けてすぐに修正した。

 二人は先のラウム戦で冬萌ユキエと共に後衛部隊を担った、攻撃よりも防御や支援を得意とするパイロットである。

 シバマルやリサが火球を飛ばして順調に【ゾルダート】を倒していく中、彼らの魔法はいまいち火力を出せずにいた。

 敵に到達した頃には既に風前の灯火となってしまっている火球に、「あれっ、おっかしいなー?」とイタルはやや上ずった声を漏らす。

 それはヨリも同じだった。通常の訓練の際も彼らは攻撃魔法をうまく発動することができておらず、今回もその例外ではなかった。


「私、向いてないのかな……。自信ないって言ってた犬塚くんでさえ、普通にできてるのに……」

「き、気を落とさないで真壁さん。も、もうちょっと、続けてみよう」


 カナタの言葉に「うん」と返すヨリだったが、二度目も結果は変わらなかった。

 呪文を唱え、杖の先端に浮かび上がった火球を発射する――そこまでは上手くいくのだ。しかし射程が伸びず、敵に届く前に空中で魔力が霧散してしまう。

 

(ど、どうしよう……僕がお手本を見せて、改めてやらせてみる? いや、そもそも完全に発動できない原因を探すほうが先なのかな……)


 月居カナタはSAMに関して比類なき才能を有している。それゆえに、彼は「できない人」への正しい接し方を知らなかった。

 元々人に教えるのが得意でないことも相まって、言葉に窮するカナタ。

 どうすれば、と周囲に視線をやってマナカの助けを求めようとするが、彼女はレイのもとで特訓に参加している。共に教える側ではないのだ。

 ユイは魔法に失敗した他の生徒へひっきりなしに通信で何やら聞き、適宜アドバイスを送っている。片言ながらも――いや、難しい日本語を使わない彼女だからこそ、分かりやすい助言ができていた。


(ユイさん、すごいな。彼女の邪魔はできないし……やっぱり僕が何とかしないと)


 カナタは将来、『レジスタンス』で他の兵たちを率いる存在になる。それはカグヤだけでなくマナカも望んでいることだ。逃げられない。

 だから、そうなるに相応しい人間になる必要がある。人を導けるようなパイロットにならねばならないのだ。


「あ、あの、日野くん、真壁さん。い、一旦まとまでできる限り近づいて、それからもう一度さっきの魔法を使ってみて」

「えっ、ち、近づくって……!?」

「こ、言葉通りだよ。さ、さあ、やってみて」


 遠距離からの攻撃のほうが安全性はずっと高いが、当てられなければ意味はない。なら、当てるにはどうするか――単純に考えての指示だった。


(僕にはマナカさんやレイみたいに全体を見て細かい指示を出すのは難しい。だけど、物事を一旦『簡単』にして、そこから肉付けするように一つ一つ考えていけば……)


 マナカにはマナカの、レイにはレイの、そしてカナタにはカナタのやり方がある。

 自分なりの手段でいこう、と意気込むカナタは、指示に従って黒いボディの二世代機ゾルダートにぎりぎりまで近づいた二人を見守った。


「み、見てろよ月居! 今度こそ……!」

「できるか分からないけど、やってみる」


 呼吸を整え、イタルとヨリは【イェーガー】よりも一回り大きな【ゾルダート】を見上げる。

 気合と決意を言葉にする彼らは各々の武器に魔力を込め、そして、放った。

 成功しますように――その強く大きな願いを魔法に乗せて。


「っ、ふ、二人とも……!」 


 鳴り響いた轟音に、カナタは瞠目した。

 立ち込める黒煙、辺りに充満する『魔力液エーテル』の匂い。少しの間を置いて打ち上がったのは、重い身体が地面に仰向けに倒れた音だ。

 至近距離で放たれた彼らの魔法は、【ゾルダート】の腹部に風穴を開けるほどの火力を実現していた。


「お、おい、マジかよっ……」

「で、できちゃった……倒したの、これ……?」


 一番驚いているのは撃った張本人たちだ。呆然と自分たちが倒したSAMを見下ろす二人は、全く信じられないというような口調である。


「す、すごいよ日野くん、真壁さん! あっ、あの【ゾルダート】を一撃で倒せるだなんて!」


 顔を輝かせ、高揚した声音で賞賛するカナタ。が、そんな彼の喜びに水を差す声があった。


「おいおい、倒せたっつったって棒立ちの相手に引っ付いて撃っただけじゃねえか。その条件なら誰だって第二世代ゾルダート程度ならワンパンできるぜ」


 毒島カツミの嘲笑にカナタは唇を噛む。それは確かに事実だ。カナタも否定はできない。

 だがこの結果から、彼らに何を与えてやればいいのかは見えてきた。


「ぶ、毒島くん。きっ、き、君に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「あぁ? 誰がテメーなんかに……」

「きっ君は支給された武器を自分なりにカスタマイズしてたよね。ぼ、僕は日野くんたちに合った武器を作りたいんだ。で、できれば風縫さんの力も借りて」


 閃いたアイデアを形にするには、カナタ一人の力では足りない。

 武器の改造の実績があるカツミならば、魔法の射程を伸ばせないイタルとヨリにも扱える『魔法武器』――風縫カオルがラウム戦で用いた『魔力銃』がその一例だ――を作れるかもしれない。

 最初は反感をあらわにしていたカツミだったが、自分の能力に期待されていると思うと悪い気はしなかった。

 通信を聞いていたのか、一人別メニューで射撃練習していたカオルも反応をみせる。


「へぇ、面白そうじゃん。パイロットの実力を高めるのも大事だけど、装備の性能で足りない部分を補うのもありだよね。いいよ、アタシは協力する。カツミ、アンタは?」

「お前がやるってんなら、やってやらんでもないが……」

「はーい、決まりね。んじゃ、そうと決まればさっそくやらなきゃ。『ラボ』行こっか」


『ラボ』とは『第二の世界』内にある施設で、SAM及び武器等の付属パーツを開発できる。

 主に二学年以降にメカニックコースに進んだ生徒が実習に使う場だが、一年以下の生徒やパイロットコースの者でも自由に利用できるようになっていた。

 

「えっと、私たちはどうしたら……」

「アンタらも来るの、当事者でしょ。アンタらの特性や戦い方に合致した武器を作るんだから、いてもらわないと調整に困るじゃん?」


 おずおずと訊ねてくるヨリに、カオルはよく通る声で言う。

『ラボ』へと転移していく四人を見送ったカナタは、訓練に没頭している他の仲間たちを眺めて呟いた。


「み、みんな強くなろうと頑張ってる。ぼ、僕も、自分にやれる最善のことをやるんだ」


 ――そのために、自分が抱える『力』についてもっと調べなくてはならない。力を知って、完璧に扱えるようになればクラスの戦力は格段に増すだろうから。

 少年は決意する。『力』についての鍵を掴んでいるであろう母親に、逃げずに向き合おうと。  

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