第21話 トロイの木馬 ―"I help you."―

「手柄は俺のものだ! 他の誰にも取らせはしねえ!」


 支給された剣を自分用にカスタマイズした波状剣フランベルジュを大上段に構え、毒島カツミは宣言した。

 クラスメートの驚愕の視線を浴びる彼は、コックピットのモニター越しに【鎧の大烏】を見下ろしてほくそ笑む。


(毒島くんはカナタくんに反感を持つ子たちのリーダー的存在だったはず。彼自身も普段から『国民皆兵』に反対し、カナタくんや『レジスタンス』を嫌っていたのに……どうして、手柄を欲しがるの?)


 彼の行動を端から見るマナカには、その原理が分からなかった。

 カツミに関してはそもそも、この戦場に来た時点で奇妙だったのだが、今の行動はそれ以上だ。

 と、そこで声を上げたのはイオリだった。


「お、おい、毒島。早乙女の作戦ではあいつが止めを刺す手はずだったろ? それに、お前の剣がラウムの身体に通るとは思えない」


 困惑しながらも冷静さを崩さない口調で、黒髪の少年はカツミを制止しようとする。

 しかし、カツミは聞き入れなかった。振りかぶった剣に魔力を溜め、彼は言い放つ。


「オカマ野郎の作戦なんざどうだっていい。あいつは失敗し、俺が手柄を掴む――最高じゃねぇか。邪魔をするってんならしてみろよ。『味方への妨害』というペナルティを背負いたいならな」


 カツミが威圧的な声音でちらつかせたカードに、イオリの反駁は封じられた。

 作戦を無視した身勝手な振る舞いは、成功さえすれば「プランに囚われない柔軟かつ的確な行動」になる。敵が弱り、全力の魔法をぶつければ確実に倒せる状況になってやっと牙を剥いたカツミは、それを分かっていた。

 

「いいか、見とけてめえら! この俺様が化け物カラスを潰すところをなぁ! ――【牙を剥け、孤高の覇王】――【闇の殺戮ノクスサイズ】!」


 誇示するように吼えるカツミは、禍々しい黒のオーラを纏った剣を振り下ろした。

「闇属性」魔法、【闇の殺戮ノクスサイズ】――剣に魔力を纏わせ、一定時間攻撃力を増幅させる『付与魔法』である。

 パイロットと共鳴して天を仰ぎ、咆哮する【イェーガー】。鬼神のごとき叫びがマナカらの耳朶を打ち、その心に畏れを植え付けていく。

 拘束されたラウムの首根っこを黒き刃が斬りつけ――そして。


「その首、取ったッ!」


 バキリ、と鋼鉄の羽毛に亀裂が刻まれた。

 勝ちを確信してカツミは笑う。その鎧が砕け、欠片が飛散する音は、彼にとってまさに喝采。

 だが――それが新たなる脅威の産声でしかなかったのだと、彼らはすぐに知ることとなる。



 ――あんな早乙女くん、初めてだ。

 銀翼のSAM【ラジエル】を発進させ、カナタはレイのもとへ南下していく。弱りきった様子の仲間を心配する彼は、魔力消費による頭痛や息切れも構わず、魔力を燃やして速度を最大まで上げていった。

 烈風と化して一直線に拠点へ向かってくる【ラジエル】に、そこで待機していた後衛の生徒たちは瞠目する。


「やっぱ何かアクシデントがあったんじゃないか!? 早乙女からの指示もさっきからないし、月居はこっちに来るし、俺たちも動いたほうが――」

「そ、そうだよユキエちゃん! ラウムは捕まったみたいだし、私たちみんなで魔法をぶつければ勝てるかもしれないし」

「動くったって、【メタトロン】を放置するわけにはいかないわ。『司令官』の早乙女くんの命令は【メタトロン】の守護。だったら、指示があるまでここで構えてるべきよ。戦場では何が起こるか分からない、迂闊に持ち場を離れるのは危険だわ」


 行動を起こすべきだと訴えてくる男女のクラスメイトに対し、後衛部隊のリーダーを任されている冬萌ふゆもえユキエという少女は強い口調でそれを退けた。

 彼女は聡明だった。焦らずに状況を俯瞰した上で、自分たちの出番はまだだと弁えている。

 長い黒髪を揺らすことなく、だがそれでもユキエはその整った顔に怪訝そうな表情を浮かべていた。

 近づいてきた【ラジエル】のパイロットへ、問いかける。


「月居くん。早乙女くんに呼ばれてきたのかしら?」

「ぼっ、僕の独断だよ。さ、早乙女くんが困ってるから、助けてあげたくて」

「困ってる? 砲の不調ってこと?」

「……た、多分」


 歯切れの悪いカナタの言葉に、「単純な話じゃない」とユキエは断じた。

 原因が分かっているならすぐに対処するのが、早乙女・アレックス・レイという人物。その彼が動けていない現状は、カナタが思っているよりも深刻なものだ。

 いや――それはカナタにも分かっているはず。彼もレイと同じく天才と称されるパイロットだ。少し頭がいいだけのユキエにも見破れるのだから、彼に分からないわけがない。

 にも拘らず言葉を濁したのは、彼がレイのプライドを守りたがっているからか。


「月居くん、リーダーを任せるわ。あなたへ悪意をぶつける人たちを止められなかった私が言っても、説得力はないかもしれないけれど……信じてる。共に勝ちましょう」

「あ、ありがとう。えっと……ご、ごめん、名前を……」

「冬萌ユキエ」

「ふ、冬萌さん。さ、早乙女くんに代わって僕が命じる。き、君たちは前線へ出るんだ。【メタトロン】は僕が守る」


 カナタはレイのバックアップとして「副司令」の立場を任されている。レイが平静さを欠いた今、彼に代わってカナタは全部隊の指揮を執るのだと決意していた。

「指揮官機」に設定されている【ラジエル】は、配下の【イェーガー】全てとの同時通信が可能となっている。まず初めに後衛を上がらせ、それからマナカたちにも指示しようとしたカナタだったが――。


「なっ……ま、まさか」


 モニター下部に小さく表示されている地図を、拡大した。

 敵を表す赤い光点は、上空へ。味方の青い光点は、一つ、また一つと数を減らしている。

 

「ふっ冬萌さん、急いで! いっ、いや行かせないほうがいいのか? でっ、でも……」

「月居くん、迷わないで! どんな指示でも私は従うし、たとえ誤ったとしても文句は言わないわ」


 カナタもユキエも何が起こってしまったのか理解していた。

 授業ではまだ扱っていないラウムに関するデータを記憶の中から引き出し、現状と照らし合わせる。

 ラウムには「第二形態」が存在するのだ。体力・魔力を大幅に消費し、生命の危機に瀕した際に変じる、新たな姿。鋼鉄にも例えられる硬質の羽毛や羽根を全て脱ぎ捨て、軽量化を果たしたラウムは――一切の防御と引き換えに、無比の速さを手に入れる。

 その形態となったラウムは過去に『レジスタンス』を散々苦しめ、完成した宇多田カノンの【イスラーフィール】の【蝶々のアリア】で完封されるまでに、五百名を超える兵の命を刈り取った。

 レイは敵がラウムだと判明した時点で、で殺しきるのだと決めていたのだろう。

 半端な火力では敵の「第二形態」への変貌を誘発するだけ。だから、確実に命中させられる状況を演出した上で、【メタトロン】の砲撃をもって一撃で仕留めるつもりだった。


「……きっ君たちの魔力はまだ、十分に残ってるよね。な、なら、守ってほしい。後衛全員の魔力を結集して、ラウムの攻撃を凌ぐんだ」

「了解。月居くんも、頑張って」

「うっ、うん!」


 ユキエが芯の通った声で言ってくれたことで、カナタの瞳に熱い火が灯った。

 仲間が期待している。ならば、応えなくては。

 カナタとユキエたち後衛は互いに武運を祈りながら、それぞれの行くべき所へと急いでいった。



 パンドラの箱を開けてしまった。そう思わざるを得ないほど、毒島カツミの眼前で起こった惨劇は強烈だった。

 鎧を捨てて丸裸になった巨鳥の動きは、誰の目にも追うことは出来ない。肉眼は当然ながら、最新機から一世代前の【イェーガー】の捕捉システムでも追尾は不可能だ。

 クラスメートたちが一人、また一人と倒されていく。鋭く風を切る音が鳴り響いたと思えば、その嘴が機体の胸部を穿ち、爪は頭部を鷲掴みにして粉砕する。

 

「俺は何も悪くねぇ……俺の魔法でラウムを倒せるって、あいつが言ったんだ。あいつが……カオルがそんなこと言わなければ、俺は……!」


 カツミの機体はラウムが「第二形態」に変じた瞬間、吹き飛ばされて数十メートル先のビルの足元に崩れ落ちていた。

 そのため、彼は惨劇の渦中から逃れられていた。普段の彼ならばそれを幸いだと思っただろう。しかし、今は――自分の無力さを痛感しなくて済むように、その場から消え去りたくてたまらなかった。

 彼は俯き、モニターから目を背けた。何もしない、それが自分に出来る唯一のことだと悟って。

 

 

「さっ、早乙女くん! ぼっ僕だよ、コックピット、開けて!」


 カナタは【ラジエル】の通信機能を使ってレイへ呼びかけ、すぐに機体から降りて【メタトロン】の搭乗口へ走っていく。

 銀髪の少年の要求に、レイは素直に応えていた。カナタが着いた時には既に出入り口のロックは外れており、操縦席にはヘッドセットを外して項垂れた金髪の少年の姿があった。


「……ボクの知識では、メタトロンの砲が機能しない原因が割り出せませんでした。あれだけ勝たなければと誓いながら、あれだけ『異形』を憎みながら、ボクは何もできなかった」


 予期せぬ壁にぶち当たり、プライドが崩壊する。傷ついた自尊心を隠すこともなく、銀髪の少年の前に己の弱さを曝け出す。

 それでも「助けて」とは言えないレイは、ただ、顔を上げてカナタをじっと見つめた。


「そ、そのヘッドセット貸して。ぼっ僕が【メタトロン】とシンクロして、原因を探ってみるよ」


 無言で手渡されたそれを頭に装着し、カナタはレイに代わって操縦席に掛けた。

 目を閉じ、機体に心身を委ねる。心の中で、「よろしくね」と挨拶をする。

 十数秒間の待機時間を経て、「接続が完了しました」というアナウンスがカナタの脳内に響いた。

 重い身体の感覚に戸惑いながらも、彼は手始めに音声入力でコマンドを打ち込んでいく。


「た、太陽砲システムの動作履歴を開示。か、可能な限り遡って」


 モニターに次々と表示される文字列を目で辿る。だが、特に目立った異変は見られなかった。

 一度深呼吸したカナタは、別の方面からのアプローチを目論みた。【メタトロン】管制システムや『コア』の制御システムといった機体の「脳」にあたる部位を調査する。

 けれどもそういった主要な部分はレイも既に調べており、これといった異常を発見できなかった。カナタの目で探っても、その結果は同じ。


「きっ、機体本体の異常じゃない。もしそうだったら、僕がこうして接続することも叶わないはずだから。げ、原因は、内部にはないんだ」

 

 それは確定だろう、とカナタは呟いた。彼は搭乗口へ上がる際に砲身やその周辺を見たが、外傷も見当たらなかった。

 内部システムの異常でも外傷でもない、砲が起動しない不具合。教科書にもマニュアルにも載っていない、未知の異常事態だ。

 

(【メタトロン】に関するもの、関すること、全てを洗い出せ。そうすれば、きっと……!)


 訓練で何度も見た【メタトロン】の砲撃。炎の柱。生徒たちの歓声。機体とパイロットを見上げる羨望の視線。それに対するレイへのやっかみの視線。試験開始前、昼休みに『第二の世界』内で遭遇した、風縫カオルと毒島カツミ。

 二人があの時何をしていたのか、カナタたちは知らない。去り際のカオルはカナタへ積極的に接触してきて、カツミは真逆の無視という姿勢だった。

「デカブツを乗り回しにきたのか」というカツミの言葉と、レイを睨みつけた忌々しげな表情。そこには彼への憎悪があった。彼への悪意が色濃く、滲み出ていた。


「ま、まさか……でも、どうやって……?」


 カナタたちが来る前の昼休みに、カツミが【メタトロン】に何らかの細工をした。

 その可能性は考えられる。だが、問題はその手段だ。単なる一学生のカツミが、『レジスタンス』の最新鋭の機体である【メタトロン】のシステムにも気取られない細工を施せるのだろうか。


「やはり、駄目なのですか。全く未知の現象を前に、ボクらの頭では何も暴けないのですか……?」


 深い諦念を纏った、レイの声。

「そんなことはない」カナタはそれだけ口にして、思考を巡らせていった。

 全くの未知。――また、未知だ。

 自分に目覚めた「獣」の力。人の言葉を解し、人と等しい知能を有した新たな『異形』。その『異形』が都市の発電システムに送り込んだ、未確認のウイルス。――結局科学者たちの手で排除することも叶わず、「パイモン」の『第二の世界』からの消滅と同時に消えた、コンピュータに潜り込む害虫。

 これまで体感した「未知」がカナタの脳裏に過ぎった。そこから彼は、ある憶測を導き出す。


「う、ウイルスだ。ぶ、毒島くんがウイルスを【メタトロン】に感染させた。か、彼が自分でそういうウイルスを作り出せたとは思えないから、きっと何者かが手引きしたんだ。そ、それが誰かは分からないけど……」


 根拠はない。だが、可能性としては有り得る。

 操縦者の意図に反した、『砲を作動させるな』という命令。第五世代以降の最新型SAMのフィルタをセキュリティをくぐり抜けて感染するウイルスなど、これまで例がないが――仮に『パイモン』侵入時と同様のウイルスがまた出てきたとしたら、外部からの遠隔操作で砲が動かせなくなっていてもおかしくはない。

【メタトロン】のコントロールシステムでも検知できなかったウイルスを発見し、排除することは至難の業である。しかし、それを実現しなければ一年A組は勝てないのだ。


(やり遂げなきゃ。僕が、今)


 一見無害なファイルを装って送り込まれ、悪意あるコードを発動するウイルス。

 月居カナタはその対処法を知らない。当然だ。彼の知識や才能はSAMという分野に特化していて、他はからきしなのだから。


「……勝算は、ありますか」

「しょ、正直、ない。でも……母さんたちが創ったSAMが、誰かの悪意に晒されているなら――ぼ、僕は、それを許さない!」


 憎悪すら宿すカナタの声に、レイは怯んだように肩を揺らした。

 目を閉じて【メタトロン】との完全なシンクロを目指すカナタの熱意は、レイの理解の範疇を脱したものであった。

 その「トロイの木馬」が何処にあるのか、【メタトロン】のコンピュータ内にあるファイルを余さず精査すればいずれは割り出せるだろう。だが、それでは時間がかかりすぎる。発見した時にはもう、クラスメイトたちはおそらく全滅している。それに、見つけ出したとしてもウイルスを消滅させる方法など――


「……いいえ、方法はないわけじゃない」


 機体との完全フルシンクロを果たし、「魔法」を以て自分自身――【メタトロン】の中にある「悪意」を弾く。

 理論としては存在している手法だ。だが、それは人側が機体の『コア』と、機体の『コア』が人と一心同体とならなくては実現しないものであった。

 早乙女アイゾウ博士が著書「魔法論」で「それは現時点では私の絵空事でしかない」と記しているように、その完全シンクロを可能としたパイロットはこれまでに誰ひとりとしていなかった。

 それを果たすだけの素質を持つ人間は、『レジスタンス』の精鋭たちの中にはいる。にも拘らず完全シンクロに臨んだ者がこれまで現れなかったのは、SAMとの『同化』現象――パイロットの精神が自身の肉体を離れ、『コア』に取り込まれること――を起こすリスクがあるためだった。


「月居くん、今すぐ止めなさい! この戦いは諦めましょう、ウイルスに関しては後で学園側に対処を頼みますから! 月居くん――!」


 レイは崩折れていた床から立ち上がり、操縦席へ駆け寄って叫ぶ。

 カナタの肩を揺さぶろうと腕を伸ばそうとしたレイだったが、そこで、指先にバチッと走った衝撃に背を仰け反らせた。

 ――カナタの身体に触れられない。迸った赤い電流のごとき魔力が、レイを拒絶したのだ。

 気弱な少年の意思表示。激しい感情が魔力を増幅させ、邪魔をするなと訴える。


「……これは……!?」


 瞠目するレイの目の前で、さらに彼を驚かせる現象が起こった。

 少年の銀髪が逆立ち、虚ろに開かれた眼は赤く変じた。微かに開いた口からは鋭利な牙が、だらんと垂れ下がった指先からは爪が長く伸び、その容貌はまさに獣のよう。

 彼の姿が変わると同時に、モニターに表示されているシンクロ率も急上昇していた。それは100%を超え、120、150、と見たこともない数値が叩き出されていく。

 聞いていた『覚醒』状態とはこのことか、とレイは胸中で呟き、カナタの顔を見つめた。

 マナカやキョウジを傷つけんとした『暴走』も恐れず、レイはカナタのそばで彼が戻ってくるのを静かに待った。手を握ることはできないが、信じて祈るくらいならできる。

 

「ああ見えて、君は頑固者ですからね。あの時もボクのためにひたすらに、その力で助けてくれました。……本当に助けられてばかりなのはボクのほうなんですよ、カナタ」


 悔しげに言うレイは視線をモニターへ移し、戦場の状況を確認した。

 味方は続々と倒れ、残機はもはや半分もない。それでも、ラウムの第二形態への変身直後に比べれば、倒されるペースは幾分か落ちていた。

 生き残っている者たちは一箇所に集合していた。おそらく全員で魔力を寄せ集め、最大出力での【防衛魔法】を展開しているのだろう。【メタトロン】の砲が無事に復旧するのを信じて、彼らは待っている。

 今、レイにやれることは何か――深く考えずとも、彼にはそれが分かっていた。


「瀬那さん、聞こえますか!」

「さ、早乙女くん! 聞こえるよ、【メタトロン】は!?」


 通信越しに激しい衝突音や擦過音が聞こえる。台風の渦中にいるかのごとく、それは一切鳴り止む気配すら窺わせていなかった。

 悲鳴にも似たマナカの問いに、レイは唇を噛んで答える。


「まだです。けれど……月居くんが対処してくれています。彼が、あの力を使って」

「……分かったよ。じゃあ、【メタトロン】はすぐに動き出すんだね」

「確証はないですが、おそらくは」


 マナカはカナタを全面的に信頼していた。窮境にあっても前向きに仲間を信じる彼女に、レイの表情には安堵が宿る。


「ボクはまだまだ未熟ですが、それでもついて来てほしい。――冬萌さんたち後衛部隊には魔力残量にある程度余裕があるはずです。あなたたちは今からボクが言う『詠唱』を繰り返してください。その魔法ならば、守りと攻めを両立できます」

「了解よ、リーダー」


 そう最初に言いおいて、レイはユキエたちに命じた。

 即座に応えてくれる仲間に感謝しつつ、彼は早口に必要な『詠唱』文を伝えていく。

 未知なる力を覚醒させて【メタトロン】とのシンクロ率を急速に高めていくカナタ、彼に機体を預け仲間たちへの指揮に尽力するレイ、その指示を全力で遂行せんとすマナカやユキエたち。

 一人の少年の悪意は、結果的にパンドラの匣を開いてしまった。それでも、彼らはその運命に屈しない。


 ――絶対に、勝つ!


 意思を共有し、抗う。

 目覚めた力を二人で合わせ、カナタとレイは仲間たちと共にラウムの「第二形態」との戦いに臨んでいった。 

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