潜入捜査は慎重かつ大胆に

 よく回る口だ。彼の印象はただのお喋りな男だという事だけだった。

 ダークネイビーの上物のスーツが台無しに思えるほど喧しい。


 有言実行、宣言した事を成功させる。そんなことをひたすら語るその口はウイスキーのせいで止まることを知らない。


 空席をふたつ挟んで、私は彼のやり口を黙って聞いていた。



「あなた詐欺師でしょう」



 連れの女性をタクシーに乗せて、一人紫煙を燻らせる彼に問う。


「おや、貴女は隣の席に居たレディ」


「やり口が適当なのよ。あんなに喋ったら逆に警戒されるわ」


「これは手厳しい。同業者のレディ?」


「一緒にしないでくれるかしら。両手を挙げて膝をつきなさい」


 懐から警察手帳を取り出して言うと、目の前の彼は目を丸くする。


「こんなに可憐な捜査員は見たことがない。どこの所属かな」


「そのよく回る口を閉じなさい。あなたがここら一帯を荒らしまくってることは分かっている……」


「同業者だよ」


 彼は私の脅しを何でもないように遮り、懐から警察手帳をちらつかせた。


「どうも。隣街の捜査員です。お名前と所属をを教えて頂けますか、レディ」


「……信じられない!」


 隣接し合う都市での捜査のブッキングは連絡ミスでたまに起こる。潜入捜査や情報収集なら尚更だ。


「やり口が適当ですみませんね」


「あなたをマークしていたここ数日間が無駄になったわ……」


 頭を抱える私の肩を馴れ馴れしく抱き、彼は道行くタクシーを止めた。


「どうやら追っている星は同じようだ。情報交換といこうぜレディ」


「そのレディってやめてくれる?」


 世に犯罪がある限り、捜査員たちの夜は長いのだった。

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