あなたと私とみなとみらい
横浜を案内してくれと言ってきたのは、毎朝同じバスで登校している先輩だ。
そう言われた時私は首を傾げた。私達は横浜にある高校に通っているというのに、今更案内など必要だろうか?
先輩はそんな私の心を読んだようにこう続けた。
「俺、引っ越してきたからこっちの事あまり知らんのよな。普段は部活もあって、わざわざ電車乗って観光することもないし。あの有名なところ行きたい」
「有名なところ?」
みなとみらい。先輩の言葉に私は成る程と呟く。
先輩は高校進学時に関西から引っ越して来たのだという。方言の抜けないその言葉を初めて聞いた時には、テレビで見る芸人を思い出したものだ。
登校時にほんの少し喋る時間だけが、私と先輩の接点だった。毎朝顔を合わせていれば、そのほんの少しのお喋りだけでもお互いの事を何となくわかってくる。
そして地元の話題になった時に、横浜案内の話が出たという訳だ。
何だか落ち着かない様子の先輩に向かっていいですよと返事をすると、彼は目を細めて笑った。
桜木町駅は横浜駅よりごちゃごちゃしていない、どこか洗練されたような雰囲気があるけれど、観光地としての顔も持っている駅だ。
改札を抜けると目の前にはみなとみらいのシンボルとも言えるランドマークタワーが出迎えた。私は腕時計を見て、待ち合わせ場所である駅前のショッピングセンターの映画広告が並ぶ前に向かった。
さて、どうしよう。案内と言っても特に何も考えずに来てしまった。ランドマークタワー、赤レンガ倉庫、山下公園? 先輩は果たしてマリンタワーを見たがるだろうか。
「遅れてごめん!」
「いえ、遅れてないですよ」
先輩はドタバタと走って現れた。三月と言ってもまだ肌寒さが残っているのに、先輩はじんわりと汗をかいている。
もしかしてホームから走ってきたのだろうか?
自然と口元が緩むと、先輩は恥ずかしそうに笑っている。
「では先輩、みなとみらいを歩きましょうか」
「うん!」
そう言って先輩は犬のように大人しく私の後ろを歩き始めた。
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