エメラルドの追憶
仕事の報酬として宝石をもらった。普段滅多に出張をしない私を珍しがったのだろう。依頼人は様々な宝石の粒を報酬の上乗せとして握らせてきたのだった。
どれも小さい粒だが見事なカットが施されている。
オーバル・ブリリアントカットのダイヤモンド。
カボションカットのサファイア。
バリオンカットのルビー。
そして、ほんの小さなドロップカットのエメラルド。
すぐにでも金に変えることもできたのだが、どうもその気にならない。
不思議なこともあるものだ。私はエメラルドを人差し指と親指で摘み、室内照明に透かした。
柔らかくしかし強い輝きを放つそれは痛い程眩しい。
君にエメラルドをあげたかった。
かつて彼に言われた言葉を思い出す。
私はその時いらないと答えた。二人で慎ましく密やかに暮らしたかった。例え限りある時間だと分かっていても。
「不思議ね。貴方に見られている気分だわ」
彼の穏やかな瞳は、エメラルドグリーンの海の色だった。
きっと最期の時まで煌めいていたのだと思う。
涙の形をしたその宝石を、私はそっとポケットにしまい込んだ。
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