幸福な顔
廃棄寸前の瓶詰めになった私の脳幹を拾ってくれたのは彼だった。
機械の身体をくれたのも、人工皮膚で美しい顔を作ってくれたのも、綺麗な服を着せてくれたのも。全部彼だ。
私は日々を彼に感謝しながら、彼のために過ごす。
休日は一緒に出掛けるけど、平日の仕事終わりは家でゆっくりする。
朝食はコーヒーで済ませて、昼食は別々でとる。
まるで恋人同士みたいな生活にも慣れたある日、たまたま彼のアトリエに立ち寄った。
急ぎの荷物が届いたので知らせようとしたのだ。
入ってはいけないと言われていたその場所に私は足を踏み入れてしまった。
そこには何十体もの私がいた。
正確には私と同じ外見をした機械人形が、所狭しとアトリエ中に並べられていたのだ。
彼はここにはいなかった。ただ、作業机の上に飾ってある写真には、私と同じ顔をした女性が幸せそうに笑っていた。
私は理解する。私はこの女性の代替品なのだと。
自分の頬を撫でて、口角を上げてみる。
私にこんな幸福な顔が出来るだろうか。
その日から私は彼の特別になりたくて笑う練習をした。
そして彼は今、私を誰かの名前で呼ぶ。
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