アフターストーリー4
「お土産なにがいいかなぁ……」
途中大きな駅で電車を降りて、二人は駅ビルにいる。
凛は大丈夫と言ったのだが、紗綾がお土産を買っていくと譲らなかったので早めに家を出ることになった。
「プリンがいいかなって思うんだけど、どうかな?」
「母さん、プリンは好きですよ。和菓子とかよりよろこぶと思います」
「わかった」
凛に確認をして、大事な選択をするかのような顔で買っていた。
三時前ということもあり、駅ビルは人が多く行き交う。
ドライアイスが入れられた紙の箱を持って、二人は今度こそ凛の実家に向かった。
家の前に着くと、胸に手を当てて紗綾が一度深呼吸をした。
それを待ってから、凛は玄関のドアを開け帰宅を知らせる。
「ただいま」
それにすぐに気づいて、奥から京子と再婚相手である和也が出迎えにきた。
「おかえり。紗綾ちゃんもいらっしゃい。あがって」
「お邪魔します」
リビングのソファに着いてすぐ、紗綾は一時間くらい使って決めたお土産を出した。
「プリンなんですが、よかったら召し上がってください」
「和菓子コーナーとか、一時間くらいかけて決めたやつだよ」
「えぇ~、そんないいのにぃ。うわぁ、六個もある。
ありがとう。凛、夕飯食べていくでしょ?」
「うん」
「じゃぁ、そのときにみんなで食べよ」
「京子さん、お茶入れてこようか?」
「大丈夫、私が用意する」
和也の言葉で、京子がキッチンに立つ。
紗綾も続こうとするが、京子がそれを止めて三人で待つことになった。
和也は京子のことを必ずさん付けで呼ぶ。
少なくとも凛は、和也が京子さんと呼ぶ場面しか見たことがなかった。
いつもそうなのか、凛がいるからなのかは定かではない。
だが凛は、それが和也の凛に対する思いやりだと思っていた。
「凛くん。京子さんから聞いてはいたけど、紗綾ちゃんモデルさんなんだって?」
「うん。初めて会ったときは気づかなかったけど、学校では有名だよ」
京子がアイスコーヒーを入れて戻り、二人のことを訊いてくる。
どっちから告白したのか、いつから付き合い始めたのか……。
「えぇ? 紗綾ちゃんから凛にアタックしてたの?」
「はい……」
少し恥ずかしそうにしながら、チラッと凛を見て紗綾が答える。
さすがにいきなり泊まりに来たとかは言えないが、ほぼ正直に白状した感じだ。
そんな話をしていると、時間はあっという間に過ぎて日が傾くような時間になっていた。
「夕ご飯の支度するね」
京子がキッチンへと行き、今度は紗綾もそれに続く。
夕食はパスタで、ソースはすでに用意されている。
パスタを茹でて、サラダなど少しやることがあるくらい。
凛は和也という二人の状況になり、和也が話し始めた。
「京子さん、凛くんの部屋に歯ブラシが二本あったって少し心配してたみたいだよ」
「…………」
凜も京子が心配する気持ちは察することができた。
ただ遊びに来るくらいで歯ブラシまで用意しておくというのはあまりないだろうし、泊まったりしていると考えるほうが自然。
むしろ同棲のような形になっていることを考えれば、京子の心配はあたっている。
「だけど、俺たちは凛くんのおかげで結婚できたと感謝しているんだ。
それとは別に、京子さんは少し寂しがってもいるけどね。
だから俺たちは、歯ブラシのことは詮索しない」
話しぶりからして、京子と二人で話し合ったのだろうと凛は思った。
わざわざ紗綾がいないタイミングで話し始めたことを考えれば、ある程度の予想はしているのかもしれない。
少なくとも、泊まりに来たりはしていると思っているだろう。
「俺と京子さんは凛くんを信用してるけど、もしも紗綾ちゃんの親御さんの問題になったら、そのときはすぐに報告して欲しいんだ。
俺たちは凛くんの親だからね」
「どうもありがとう。なにかのときには、必ず報告するよ」
なんて甘いのだろうと凛は思った。それだけ、信用してくれているとも思った。
一般的な対応ではないと凜も理解し、だからこそ感謝した。
歯ブラシのことを詮索しないのは、知れば親としての対応をしないわけにはいかない。
だからなにも訊かないということなのだろう。
「一人暮らしの大学生なら珍しいことでもないはずだよ」
「凛、できたから取りに来てぇ」
用意ができたようで、京子が凛を呼ぶ。
そこで話は終わり、凛は和也と一緒に料理をダイニングテーブルに運んだ。
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